今回は、株式会社ソラコムの“テクノロジーエバンジェリスト”松下享平さんにインタビューを受けていただきました。
スマホのモバイル通信とは違い、「モノの通信」を意味するIoT。私たちの気づかないところで暮らしをさらに便利にし、支えてくれているテクノロジーです。
IoTプラットフォーム「SORACOM」が提供する価値や実例を、分かりやすく語っていただきました。
「全方位にIoTサービスを提供」ソラコムの事業概要について

ーソラコムさんはIoT通信のサービスをメインに事業展開をされていますが、事業の全体像や概要を教えてください。
松下享平さん(以下、松下):「通信」と聞くと、みなさんがスマートフォンでお使いいただいているLTEや5Gといった言葉が思い浮かびますが、私たちソラコムはそれをIoT向けに提供をしております。
「ソラコムは何業界か」という質問の答えとしては「通信事業者」にはなりますが、IoT通信は人向けのモバイル通信とは異なっているところがかなり多いです。
IoT特有の課題を解決するための通信サービスや、それに関連する機能などを提供しているので、通信事業とは言っても「IoT専業」の事業展開をしています。
ーソラコムさんが提供されているサービスの強みや特徴はどのようなところにありますか。
松下:まず前提として、IoTの仕組みはデータを集める「モノ」(カメラやセンサーなど)と、集めたデータを活用する「クラウド」、モノとクラウドを繋ぐ「ネットワーク」の3つの要素があります。
私たちはその3つの要素の全方位にIoTサービスを提供できているところが強みだと思っています。そのため、IoT通信のセキュリティに懸念点があるお客様や、データ通信料を見直したいお客様、現場に置いたIoTデバイスの消費電力を1分でも長く持たせたいお客様など、それぞれの状況に対応することが可能です。
また、ソラコムは、通信の中核となるコアネットワークをクラウド上に構築し、そのソフトウェアを自社で開発しています。そのため、「IoTでこんなことが実現できないか」と新しいことにチャレンジされるお客様と一緒に、サービスを日々アップデートできているというところも特徴です。
ーソラコムさんのIoT通信サービスのお客様というのは、どういう人が対象になっているのでしょうか。
松下:特に多い業種は製造業です。IoTを導入する前は、1日に作った商品の個数や製造ラインが止まった時間をストップウォッチで測るなど、手作業で紙に記録していたような現場も多くありました。
ソラコムが提供しているのは、現場のデジタル化やIoT活用をお客様自身が進めるためのサービスやデバイスです。現場のデータをデジタルで収集する仕組みに加え、そのデータをもとに現場を改善していくためのクラウドサービスまで提供することで、お客様による現場の課題解決や改善を支援しています。
最近では、小売業や物流業にもお使いいただいています。食品業では「HACCP」(ハサップ)という食品管理の温度など衛生管理が法律で定められたことに伴い、IoTを導入していただいてた事例も多いです。
物流業では、トラックの荷待ち時間が社会問題にもなっていますが、事前にいつトラックが来るのかが分かっていれば、その対応ができるようになります。情報をデジタル化する仕組みというのは、物流業でも必要になってきていると感じています。
建設や土木業界でも、「遠隔で様子を見れるように」とカメラを設置する場合も多いです。Wi-Fiがない屋外の現場でも、カメラで撮った映像データをクラウドに送れるよう、5GやLTEなどの通信を導入していただくなどの対応も行っています。
他にも、最近は農業でIoTを取り入れていただくことも多いです。
ー農業とITはかけ離れた業界のようにも感じますが、幅広いジャンルで活用されているのですね。
松下:IoTという言葉が登場したのは2015年くらいで、当時はまだまだ遠い存在でした。
現在では、もともとはITやデジタル化と無縁だった業界でも“デジタルを活用するための仕組み”としてIoTを使っていただけるようになりました。
農業だけでなく、漁業や畜産業でもお使いいただくようになってきています。
身近なところにあるIoTサービスの実例

ー机の上に色々な製品が置いてありますが、これらはどのような製品でしょうか。
松下:一番右のストラップがついた四角いミント色の製品は、株式会社MIXIの「みてねみまもりGPS」というお子さんのランドセルに付けるGPS端末です。
アプリで位置情報や通った道を見ることができて、「学校に着いた」「学校を出た」というような通知を受け取れます。
端末や機器の位置情報を遠隔で確認するという仕組みを利用したサービスとしては他にも、自動車やキックボードなどのシェアリングモビリティやレンタルモバイルバッテリーなどがあります。
どこに自転車があってどこに足りていないのか、自転車の鍵の開け閉めなどのデータを遠隔から一括で管理するのもIoTです。
モバイルバッテリーレンタルも同じで、場所ごとの在庫状況や充電残量を人間が全て現地を回って確認するわけにはいきません。現地に行かなくても遠隔から集中管理ができているからこそビジネスとして成り立ち普及したサービスです。
ー暮らしの身近なところにIoTは使われているのですね。GPS端末の隣にあるのは、どんな製品でしょうか。
松下:これは灯油を入れるタンクのキャップです。寒いエリアでは大きなタンクに灯油を入れて使いますが、このキャップはタンク内の灯油残量を計測、クラウド上で把握できるようになっており、灯油が無くなって慌てて業者に電話をする必要がなくなりますし、配送のコストや無駄を削減できます。
ー灯油キャップもIoT製品になっているのは驚きました。隣の電球はどうですか。
松下:この電球は、離れて暮らすご家族を見守る「クロネコ見守りサービス ハローライト訪問プラン」で使われているハローライト電球という製品で、電気のオンオフを感知します。
例えば、お手洗いやお風呂場の電気が1日で1回もつかなかったら、ご家族にお知らせが届きます。ご自身で直接訪問できない場合などのご依頼に応じて、ヤマト運輸様のスタッフがお家のドアの前まで訪問するというサービスです。
カメラを置くことに抵抗感がある方でも、「電気のオンオフなら」とこの見守りのサービスをご利用いただけていると思います。
ソラコムが目指す、IoT事業のこれから

ー私たちの気づかないところで様々なIoT製品が暮らしを支えているんですね。こうしたサービスの導入時に難しい点や課題となることはありますか。
松下:現場にカメラやセンサーなどの機器を導入してデジタル化すること自体のハードルは下がってきています。私たちも普段から、気軽にスマートフォンで写真や動画を撮ることも多いので、カメラやセンサーは馴染みやすいのだと思います。
デジタルデータを活用する基盤であるクラウドもどんどん使いやすくなってきていますが、「クラウドと現場を繋ぐ“通信”をどうやって用意するか」というところで苦労されているケースが多いと感じています。
ーカメラなどの機器は目に見えますが、通信自体はそうではないのでなんとなく難しさを感じるのかもしれませんね。
松下:そうですね。あとはセキュリティ面を心配されることが多いです。
これはIoT全般の話になりますが、スマートフォンなどの人向けの通信とIoT通信では、想定されるセキュリティが根本から違っています。
スマートフォンの人向けのモバイル通信は、当然人が使うことが前提になっているので、端末に問題が起きたとしても、その場でセキュリティのアップデートなどの対処ができます。
一方、IoTは常に人がいるとは限らない現場のカメラやセンサーにも使われています。この場合、一体誰が端末のセキュリティを操作するのかという課題があります。
ーなるほど。ソラコムさんが取り入れているセキュリティ対策について教えてください。
松下:「閉じたネットワーク」と呼んでいる仕組みでアプローチしています。
普段私たちが使っているスマートフォンは、インターネット上のさまざまなサービスへ自由にアクセスできることを前提に設計されています。このおかげで、私たちはWebサイトやアプリ、クラウドサービスなどを便利に利用できます。
また、スマートフォンにはOSやアプリの権限管理、認証、暗号化、アップデートといったセキュリティの仕組みが備わっているため、普段はそれを強く意識せずに使うことができます。
IoTもスマートフォンと同じように、1台1台に十分なセキュリティ機能を持たせられればよいのですが、実際には端末の台数が多くなるほど、デバイスのコストや運用の負担が大きくなります。
「出来る限り安価に済ませたい」と「セキュリティをしっかりする」というせめぎ合いがある中で重要になるのが、デバイス単体だけで守るのではなく、閉じたネットワークを前提に通信を扱うという考え方です。ソラコムでは、IoTデバイスの通信を閉域網の中で管理し、接続先や通信経路を必要に応じて制御したり、インターネット接続できる仕組みを提供しています。
この部分まで対応していることもあり、私たちソラコムは「IoT専業」と言っています。
生成AI×IoT「リアルワールドAIプラットフォーム」という将来像

ー生成AIを利用した「リアルワールドAIプラットフォーム」のニュースを拝見しました。これはどういった構想なのでしょうか。
松下:私たちはIoTプラットフォーム「SORACOM」を提供してきた約10年間、IoTで現場をデジタル化して通信でクラウドにつなげて、ということをやり続けてきたと振り返っています。そして、デジタル化した現場から膨大なデータが集まり、蓄積されていくにつれて、もはや人間では見切れないくらいのデータ量になりました。
2020年くらいから、クラウドの業界でも機械学習に基づくデータ分析を始めていた中で、2022年11月にOpenAI社がChatGPTをリリースしました。IoTで生まれたデータと生成AIを組み合わせることで、今までは人間がやっていた分析をAIがやってくれるんじゃないかということに注目し、色々なプロジェクトを行いました。
例えば、株式会社松尾研究所と共同推進しているプロジェクト「IoT × GenAI Lab」では、三菱電機様のオフィスの空調をAIが分析して「快適性を維持しながら電力を削減できないか」という研究をしました。これは外気温や室外機、空調機の設定温度などすべてのデータを集めることによって、約48%の電力使用量を削減するという成果を出すことができました。
この経験から、単純にIoTを組み込むだけではなく、私たちが今もっている様々なデジタルデータをAIを用いて繋げることによって、生成AIをもっと活用できるんじゃないか、という構想がこの「リアルワールドAIプラットフォーム」というものです。
人間が全てはチェックできていなかった映像データでも、今のAIは代わりにチェックしてくれるようになったので、カメラやセンサーといったIoTに対する注目が今まで以上に集まっています。監視目的ではなく、より安全な環境を維持するためにカメラを導入されている方が増えてきている印象です。
ー生活の中で自然と使うほど、最近はAIが浸透してきていると感じます。
松下:ここ2年くらいで一気に進化してきたので、私たちもデータを集めているだけではダメだと思っています。
AIとデータを使って世の中が自動的に制御されていく将来が近づいていると感じていて、例えば、空気がこもってきたら自動で窓が開いて換気をしてくれたり、学校のアナウンスが自動で行われたりなど、そういう世界観になりつつあります。
そして、遠隔から操作する仕組みの中心にあるのがIoT通信だと思っています。
ーAIを追い風にしたこれからの事業展開について、その展望を教えてください。
松下:だんだんとAIは、社会のインフラとして普通に使われるようになってきたと認識しています。
IoTをさらに広げていきたいということは大前提としてありますが、業種や業態、規模も関係なく、どんな人でもスマートフォンでインターネットと繋がっているように、IoTで暮らしを支えられたらいいなと思っています。
まずは、どんな人たちでも自分のアイデアを形にするための方法論として、1回線から簡単にIoT通信を使ってみてほしいです。ウェブ上からでもソラコムのIoT SIMをご注文いただけますし、そういった環境は常にご提供していける事業展開をしていきたいです。
サービスの内容面では、現場から生まれたデータをいかに簡単に役立つ形で使っていただくかというところがありますが、そこは先ほどもお話した通りAIも使いながら、サービスとして利用いただけるように提供していくことを目指します。
この道筋を見据えつつ、その根底には当然安心して接続できるセキュリティやちゃんと現場で回線がつながる品質、ビジネスとして使ってもらうための通信料の設定、長持ちするデバイスの省電力の仕組みなどもアップデートしていきます。
ーグローバル展開についても、ホームページで拝見しました。世界を視野に入れた事業拡大の面ではどうですか。
松下:IoTというもの自体は別に日本国内だけでなく、世界の国と地域で使っていただけるテクノロジーだと思います。
立ち上げ当初こそ日本をターゲットにスタートした事業ですが、最初からグローバルにお使いいただくことを念頭に展開しており、現在は200を超える地域でソラコムのサービスを使っていただけるところまで拡大しました。
業種や業態、国や地域に関係なく使ってもらえるインフラを提供していきたいと思っています。
“テクノロジーエバンジェリスト”とはどんなお仕事?

ー松下さんは「テクノロジーエバンジェリスト」と伺いましたが、普段どのようなお仕事をされているのでしょうか。
松下:ソラコムという会社のサービスについてはもちろん、「IoTってなんですか?」「IoTプラットフォームって何?」「IoTってビジネスにどう活用できるの?」というような、自社の紹介だけでなく、IoT全般でもっと幅広くご説明しています。
私たちの製品以前にIoTをご理解いただくことでSORACOMの価値を知っていただけると考えています。具体的な事例やデモを見ていただいたり、実際に動かしていただいたりなどをして、「IoT面白そうだな、SORACOM便利そう」と思ってもらえるようにお伝えするのが、“テクノロジーエバンジェリスト”です。
ーIoTにはなんとなく難しそうという印象を持たれている方も多いのではと思いますが、松下さんのこの活動への想いを教えてください。
松下:「IoTと言っても、そもそも何を用意したらいいんだろう」とハードルの高さを感じている方も実際多いです。
単なるIoTへの興味で終わるのではなく、そこから実際に活用する最初の一歩を私がお見せできたらと思っています。
ー本日は非常に興味深いお話をたくさん語っていただき、ありがとうございました。
