現在、東京中野の劇場MOMOにて上演中。(〜10月27日まで)高校を舞台に、飛び降り自殺しようとした生徒とその巻き添えになった生徒、保護者と教師の在り方を各目線から描いていくという重厚な舞台に挑んだ髙橋里恩(たかはし りおん)さんにインタビュー。今回、教師役を演じるにあたっての役作りや髙橋さんの恩師との想い出について伺いました。
舞台『not only you but also me』作品紹介
―あなたと、わたしの、あいだ―
ある高校で、女子生徒が屋上から飛び降りた。
その時、下にいた別の女子生徒は巻き添えをくらった。
ふたりは意識不明の状態で病院に運ばれた。
学校では生徒の母親や教師たちが、
責任の所在について本人不在のまま激論を交わしている。
生徒/教師/親それぞれの目線で事故前後の日々を紐解く中で、
思いもよらない事故の真相に辿り着くのだった。
言葉ばかりの「多様性」が謳われるこの世界に潜む、
さまざまな『境界線』について考えます。
10月27日(日)まで 劇場MOMOで上演中
(※『not only you but also me』公式サイトより引用)
葛藤を演じています。与田という先生は、魅力的な人間です。
―10月18日から東京中野の劇場MOMOで上演される『not only you but also me』の見どころを教えてください。
髙橋里恩さん(以下、髙橋):演出のタカイアキフミさんの舞台に出演するのは3回目なのですが、今回は、かなり重く深い作品への挑戦になりました。ストーリーは、ある高校で女子生徒が飛び降り自殺をするんですが、その時、下にいた女子生徒が巻き添えになるという内容です。僕は、その高校で英語を教えている教師で、生徒たちを見守りながらも、目を背けたい現実に同僚の教師や保護者とどう向き合うのか、その葛藤を演じています。
―とても過酷な状況ですが、役作りはどのようにされましたか?
髙橋:学生の頃に“こういう先生がいたらいいな”と思っていた先生を想像して役を作り上げていきました。生徒とはすこし距離を保ちながらも見守っていて、先生っぽくないしゃべり方。僕が演じる与田はとても魅力的な人間です。
―タカイアキフミさんの演出はいかがですか?
髙橋:やっぱり僕は、タカイさんをとてもリスペクトしています。 タカイさんからよく言われるのは、「あなたがあなたとして反応してくれ」と。
舞台に立ったら、相手にどう反応していくのかということを大切に積み上げていくのがタカイさんの演出だと思います。たとえば、指を指されたとしたら、僕は「なんで指差してんだよ?」という気持ちを持って、指を指した相手にその反応を返すみたいな感じです。
―役はありながらも自分として反応するんですね。
髙橋:“舞台に立とう”と無理に意識しないようにするというか。そこに人がいて、たまに何かを感じている。
「舞台はまずその場に立つ」が基本なのかなと思っています。映像作品と違って舞台は顔だけのアップとかがないので、「まずそこにしっかりと立つ」。そして感じて、反応する。
―髙橋さんがオススメのシーンがあれば教えてください。
髙橋:応接室で二人の生徒の親から、副担任の僕と担任の教師が責められるシーンです。
長いのですが、ただシリアスなだけじゃなくて、人間のドロドロした部分が垣間見えて、丁寧に描いていながらも少し笑えるようにもなっているので、そこの面白さを感じてもらえたら嬉しいです。
物語自体は重いシーンが多いので、観ているお客さんの気持ちが少しでも軽くなったらという気持ちで作っています。呼吸ポイントです。
芝居の「恩師」は、19歳の時の舞台の演出家の岩松了さん。
―教師の役ですが、髙橋さんのお芝居の「師」はいらっしゃいますか?
髙橋:岩松了さんの演技メソッドが僕の根源です。19歳の時に、岩松さんの舞台『三人姉妹はホントにモスクワに行きたがっていたのか?』、20歳の時に舞台『空ばかり見ていた』に出演させていただきました。その時の舞台では映画監督の二ノ宮隆太郎監督とも共演しました。
―二ノ宮隆太郎監督は髙橋さんが主演された映画『若武者』の監督をされていますね。
髙橋:はい。岩松さんの舞台で共演してから5年後、僕が25歳の時に撮影して、今年公開されました。二ノ宮監督は鋭い感覚があって厳しさもあるけど、ずっと「いつか一緒に映画を撮ろう」と約束していたことを覚えてくださっていて、そんな優しい人間性が大好きです。
―岩松さんのメソッドは今でも髙橋さんの基本になってるのでしょうか?
髙橋:デビューしてから色々な作品を観て、経験していく中でたくさんの影響は受けていますが、基本の軸は、今でも岩松さんですね。
―俳優として日頃から努力していることはありますか?
髙橋:人間観察をよくします。現場にいるときも、人間観察しておくと、芝居がやりやすくなるような気がします。相手の役者がどう動くんだろうとか。僕がこう動いたら、この人たちはどう動くんだろうとか。
あとは、自分一人でいるときも人間観察をしています。それには、自分を知っていくため、という理由もあります。
―自分を知っていくのは、孤独な作業ですね。
髙橋:傷だらけでも生きている動物たちの強い生命力に惹かれることがあって。それが俳優なんじゃないかと。傷つきながらも強く生きて、芸術を作る存在。
人生の「恩師」は、16歳の頃から働いてたバイト先の師匠。
―髙橋さんに影響を与えた方を教えてください。
髙橋:16歳の頃からバイトしていた飲食店で、人生哲学など色々なことを教えてくれた20歳くらい年上の師匠がいました。 そのお店にいらしていた今の事務所の社長と出会い声をかけて頂いたのですが、その頃は人との関わりを避けていたし、自分自身を閉じていて、映画とかも見たことがあまりなかったし、挑戦が怖かったんです。俳優にはならないって師匠に伝えたら、いつもは強い言葉を使う人じゃないのに、「ならなかったら俺はお前を拒絶する」と言われました。
さらに「今までは俺がお前にたくさんのことを教えてきた。今度はお前が俺の知らない世界に行って俺に教えろ」と。その言葉で、“絶対俳優になる”と決めました。
―カッコいい!
髙橋:めっちゃカッコいいんです。この前、その師匠に子供が生まれたんですけど、なんなんだろうあの感情は…“俺が育てる!!”と思いました(笑)。学校の先生じゃないけど、大切な恩師です。
―俳優を続けられた理由はほかにありますか?
髙橋:社長や事務所のマネージャーなど、今までチャンスをくれた人がたくさんいました。俳優を続けるうちに、自分を好きになることができたので、チャンスをくださった皆さんにはとても感謝しています。感謝していたら、自然ともっと頑張ろうと思えて、今まで続けてこれています。
―自分を好きになる前は辛かったんでしょうか?
髙橋:元々は人と話す時にどうしていいかわからなかったんです。すべてを拒絶してた時もあったくらい。
この世界に入ってからも、「よーいスタート!」とカメラが回っても、今まで映画を見ていないし、頭が真っ白で意味がわからなくなりそうだったんですが、逆にそこで追い込まれて、演技するしかないという状況にぶつかりました。芝居によって、自分を縛っていた鎖を断ち切ることができて、自分をもっと深く知れました。以前は挑戦が怖かったんですが、今は、死ぬまで挑戦し続けたいと思っています
―今までの作品で印象に残っている出演作はなんですか?
髙橋:さっき話に出た、二ノ宮監督の『若武者』です。演じた英治という役が、血の気の多い飲食店員なんですけど、“世直し”と称して街にいる人たちにいちゃもんをつけていくんです。
それが未来にいそうなキャラクターだと思っていて、何年か経って、また見返したい作品です。
今はSNSとかで色々言っているけど、もう少し経ったらみんなそれに飽きて現実世界で色々言い出すんじゃないかと思って。
―最後に舞台を観にこられる観客の方、ファンの方にメッセージをお願いします。
髙橋:今回の舞台は、ストーリーも胸を打つのですが、舞台のあとに、アフタートークが毎回あります。小劇場が初めての人にも小劇場ファンの人にも楽しんでもらえるような革命的な企画になっています。ぜひ劇場にお越しください!
髙橋里恩(たかはしりおん)プロフィール
1997年生まれ。東京都出身。2016年俳優デビュー。2017年『デメキン』(山口義高監督)で映画デビュー。2024年公開の主演映画『若武者』(二ノ宮隆太郎監督)の演技が高い評価を得る。テレビ、映画、舞台とオールジャンルで活躍中。
【映画】『若武者』『ミッドナイト』『誰が為に花は咲く』(2024) 『ファミリア familia』(2023) 『恋い焦がれ歌え』(2022)【舞台】『世界が消えないように』タカイアキフミ作・演出(2023)(2021)、「酔いどれ天使」三池崇史演出(2021)、『空ばかり見ていた』岩松了作・演出(2019)、『三人姉妹はホントにモスクワに行きたがっているのか?』岩松了演出(2018)
【ドラマ】『龍が如く〜Beyond the Game〜』(Amazon)『伝説の頭 翔』(テレビ東京)『白暮のクロニクル』(テレビ東京)『万博の太陽』(テレビ朝日)(2024)、『コタツがない家』(日本テレビ)『家政夫のミタゾノ」(テレビ朝日)(2023)
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文:姫田京子