世界で絶賛された女優・山本奈衣瑠。映画『SUPER HAPPY FOREVER』で渾身の演技力で亡き妻を演じた

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映画『猫は逃げた』で今泉力哉監督に主演として抜擢されて以降、数々の話題作に出演。希有な存在感で観客を魅了している山本 奈衣瑠(やまもと ないる)さん。映画『SUPER HAPPY FOREVER』では、若くして亡くなった佐野の妻・凪を演じました。さらに昨年、主演作『ココでのはなし』で震災の傷痕の残るトルコの映画祭にて最優秀女優賞を受賞。今回は、映画の裏話や受賞についてのお気持ちをお伺いしました!

映画『SUPER HAPPY FOREVER』作品紹介

©2024 NOBO/MLD Films/Incline/High Endz

2023年8月19日。伊豆のとあるリゾートホテルへやってきた、幼馴染の佐野と宮田。

2人は海辺の様々な場所を巡りながら、かつて失くした赤い帽子を探し始める。ここは5年前、佐野が亡き妻・凪と初めて出会い、恋に落ちた場所だった——。
第67回ロカルノ国際映画祭新鋭監督コンペティション部門正式出品作『息を殺して』や、第74回ヴェネチア国際映画祭オリゾンティ部門に正式出品されたダミアン・マニヴェルとの共同監督作『泳ぎすぎた夜』など、世界が注目する五十嵐耕平監督による待望の長編最新作。

9月27日(金)〜新宿武蔵野館ほか全国で順次ロードショー

引用元:『SUPER HAPPY FOREVER』公式サイト

死ぬことを知らないで生きていた凪の躍動感と喜びを演じた。

―『SUPER HAPPY FOREVER』はどのような物語でしょうか。

山本奈衣瑠さん(以下、山本):かつて失くした帽子を探す男の物語で、私は、亡き妻の凪を演じています。

主人公の佐野、そして幼なじみの宮田は、役者さんの実名で登場しますが、私は実名ではなく役名がありました。なので、フィクションではあるんですが、3人で芝居することで生まれる空気感が、この映画の「あるものとないもの」という表現の一部にもなっているのではと思います。

―この作品に出ようと思ったきっかけを教えてください。

山本:偶然宮田くんと映画館で隣に座ったときに、宮田くんが私を見て「凪だ!」と思ったらしくて(笑)。演技していない自分を見て、”いい”と思ってもらえたので、意気込まないで溶け込めるかなと思いました。実際、現場に入ったら、自分と同じリズムを持ったスタッフさんたちで、撮影もスムーズでした。

―スタッフの一部は、五十嵐監督の過去の作品と同じチームなのですか?

山本:はい。五十嵐監督の映画の『泳ぎすぎた夜』と『息を殺して』の映像から漂う空気が好きで、 “なんて綺麗なんだろう”と思っていました。今回の作品も『息を殺して』と同じカメラマンの髙橋航さんだったので、“ぜひ、参加したい”と思いました。

個人的に自分の好きなカメラワークで、撮影中はみんなでとてつもないアートを創りあげているという高揚感がありました。

―最初に脚本を読んだ感想は?

山本:脚本を一度さらっと読んだあと、監督から「自分が出るところだけ読んで」と言われました。今まで演じた作品では、全部脚本を読みこんでから役を理解していく感じだったので、今回は自分にとってはとても実験的で、凪の死後、凪という存在が夫にとってどうなっていくのかを考えずに演じました。

実際に私たちはみんな、自分が死ぬことを考えないで生きていて、生きていた時の記憶しかないですよね。だから私は、凪が生前に感じていた彼への愛おしさや生の喜びを演じきることだけを意識しました。監督にはそういう意図があったのだと思います。

―凪のセリフがとても鮮やかに残って、切なくなる作品でした。

山本:ありがとうございます! 凪のセリフは相手の記憶に残ると思うので、台本のセリフはひとつひとつが軽い言葉でも、とても重いものです。セリフはアドリブっぽくなっていますが、“凪の言葉に自分も誠実でありたい!”という意識がありました。

長い人生のいろいろな季節に刺さる映画なのでその時々に観て欲しい。

―この作品への想いがあれば聞かせてください。

山本:映画の中で、二人が赤い帽子を探すように、大事なものを忘れて取りに行きたいって誰にでもあると思うんです。

忘れないで覚えているために人は写真に残したり、日記に残したりいろいろできるけど、結局は自分が覚えていることでそのモノは存在するし、その過去の時間も今この時間に存在して、この未来にも存在し続けるかもしれない。

そういった抽象的な希望が美しい映像の隅々に映し撮られています。きっと、救われる人がたくさんいる映画だと思います。

©2024 NOBO/MLD Films/Incline/High Endz

―救われる人が国籍や年代問わずたくさんいそうです。

山本:この映画は「永遠の幸せ」という、言葉にするとチープになる抽象的なことを具現化しています。

私たちみんなが考えていることが光や影や音になっていて、美しいフィルムになっています。10代の人と60代の人で受け取るものが全然違うと思いますが、“この映画が、観るべきタイミングでその人に届くといいな”と思っています。

映画はずっと残るので、今この映画を観なかったとしても、この映画があることを覚えていてもらって、みなさんにとって必要な時期がきたら、その時に会いに来てもらえたら嬉しい。

地震の傷痕の残るトルコのアンタキア国際映画祭で受賞した『ココでのはなし』

映画『ココでのはなし』作品紹介

©2023 BPPS Inc.

ここは、人生の休憩場所。日々に少しだけ疲れてしまった人々の心を解きほぐす…。
2021年東京オリンピック開催直後、都会の喧騒に佇むゲストハウス「ココ」。
住み込みでアルバイトとして働く詩子は、元旅人でオーナーの博文とSNSにハマり
ライフハック動画を配信する泉さんと共に、慎ましくも満ち足りた生活を送っている。
ココにやってくるのは、バイト先が潰れてしまい目標もなく、
くすぶる存や、声優の夢を諦め就職しようとするも、
両親から帰国を促されている中国人のシャオルーなど、悩みを抱える若者たち。
笑顔でお客さんを迎える詩子にも、わけあって田舎を飛び出してきた過去があった…。
「休憩が大事。考えながら休んでいいのよ」
ココでの生活が、日々に疲れてしまっている人々の心を少しずつ解きほぐしていく。

引用元:映画『ココでのはなし』公式サイト

―11月8日から公開される映画『ココでのはなし』にも主演されるということですが、見所を教えてください。

山本: コロナ禍の東京のゲストハウスCOCOが舞台の物語です。私が演じる住み込みバイトの詩子と個性豊かだけど焦ってる大人達が、COCOで人生の休憩時間を過ごすというストーリーです。

撮影したのが3年前だったので、私は2本目の映画でしたが、監督も含めて同世代が多くて、相談できる現場でした。今も仲がいいです。

―観て欲しいシーンはありますか?

山本:詩子は田舎から出てくるんですけど、田舎で暮らしていた時は人生を全然楽しめてないんです。COCOに来てから、自分らしさを取り戻していくので、その違いを是非観て欲しいです。

あとは、チャプターごとに登場人物のドラマが描かれていく構成なのですが、その作り方もおもしろいので、そちらもおすすめです。

―すでに海外の映画祭で上映、受賞されていらっしゃいます。

山本: 2023年の2月に大地震のあったトルコのアンタキア国際映画祭で審査員特別賞、最優秀監督賞、最優秀女優賞、最優秀編集賞をいただきました。

瓦礫が町に残る中で、映画祭は開催されました。

私は現地には行かなかったのですが、映画を観に来てくださってるお客さんがいることを監督が教えてくださって、その時の観客の人の想いや大変な中でも映画祭をやろうとされた方々の気持ちを忘れないようにしたいです。

―こささりょうま監督は現地に行かれたんですね。

山本:はい。監督は随時、トルコの様子を写真で送ってくださって、感謝しています。

―『ココでのはなし』への想いを聞かせてください。

©2023 BPPS Inc.

山本:アンタキア映画祭では、今、つらくて一人でいる人とか、悲しくてたまらない人が映画を観に来てくれたことを聞いて、一番必要な人に映画が届いたと思えて、嬉しかったです。

だから、日本で上映される映画も、必要な人に観ていただいて、人生の一部になったら嬉しいです。

山本奈衣瑠(やまもとないる)プロフィール

1993年生まれ。東京都出身。モデルとして芸能活動を始める。2022年に今泉力哉監督『猫は逃げた』の主役で映画デビューし、脚光を浴びる。映画での演技が秀逸で、出演映画が国内外の映画祭で受賞。2023年トルコのアンタキア国際映画祭において『ココでのはなし』の演技で最優秀女優賞を受賞。2024年9月21-23日下北沢映画祭で山本奈衣瑠特集として過去の出演作品『冬物語』『夜のまにまに』『走れない人の走り方』が上映予定である。

【映画】『猫は逃げた』 (2022)、『冬物語』『走れない人の走り方』(2023)、『SUPER HAPPY FOREVER』(2024年9月27日公開)『ココでのはなし』(2024年11月8日公開)

【ドラマ】WOWOW「OZU~小津安二郎が描いた物語~」第5話「東京の女」(2023)

●Instagram  @nairuuuu

●HP   https://www.highendz.net/nairu

文:姫田京子
メイク:ボヨン

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