コシノヒロコ・ジュンコ・ミチコという世界的デザイナーの三姉妹を育て上げた母親・コシノアヤコ。
昭和から平成を駆け抜けたアヤコの波瀾万丈の生涯が、映画『ゴッドマザー~コシノアヤコの生涯~』として描かれます。
アヤコの激動の人生・15歳から92歳までを1人で演じきったのは、今作が映画初主演だという大地真央さん。
バイタリティあふれるコシノアヤコの生涯と映画について、大地さんにお話を伺いました。
映画『ゴッドマザー~コシノアヤコの生涯~』作品紹介
日本のファッション界に革命をおこし、昭和から平成を駆け抜けたコシノ三姉妹の母であるコシノアヤコ——猛烈な人生の審判が始まる!
世界的デザイナーであるコシノ三姉妹を育て上げた母親、コシノアヤコの生涯を映画化。
コシノアヤコ役には、宝塚歌劇団トップスターとして一時代を築き、退団後は名作『風と共に去りぬ』『マイフェアレディ』『ローマの休日』など舞台を中心に数々のヒロインを演じている大地真央さん。本作にて映画初主演をつとめます。
コシノアヤコの娘で、世界的に活躍する日本を代表するデザイナーであるヒロコ役は黒谷友香さん、ジュンコ役は鈴木砂羽さん、ミチコ役は水上京香さんという顔ぶれ。
戦時下を含めた昭和から平成という激動の時代を生きぬいたコシノアヤコの生涯をお楽しみください。
(※映画『ゴッドマザー コシノアヤコの生涯』公式サイトより抜粋)
コシノアヤコが実際に着ていた服をアレンジして衣装に

―今回、芸能界で長いキャリアを誇る大地さんが映画初主演と聞いてびっくりしました。まずは役を演じるにあたってのお気持ちからお聞かせいただけますか?
大地:ファッション界の世界的な3姉妹を育てられたゴッドマザーであるコシノアヤコさんの生涯を映画化する――。
このお話しを初めにいただいた時は、あのアヤコさんを演じさせていただくなんて、おこがましいと思ったのですが、ご本人が書かれた本や資料などを読ませていただき、本当に魅力的な方だと改めて感じ、私でよければやらせていただきたいとお返事しました。
―年齢の幅の演じ分けは、どのように準備をされたのですか?
大地: 年齢の幅ということでは、これまで舞台『ガブリエル・シャネル』では、12歳から71歳を演じたことがあります。同じく舞台『マリー・アントワネット』で、10代前半から30代後半まで演じたこともありましたが、
今回は15歳から92歳までとそれ以上に年齢の幅があり、その上、映像なので最初は戸惑いましたが、オファーをいただいた時に「1人の人間の人生を1人の役者が演じるということに意味がある」とおっしゃっていただいて。
映画なので、ストーリーに沿って撮影していくわけではないので、撮影するシーンの年齢や時期、心情などを、自分の中で細かくイメージを膨らませて演じました。
―演じていて難しかったシーンや印象に残っているシーンはありましたか?
大地: 印象に残っているシーンは、15歳から92歳までを演じた全部ですね(笑)。
戦前、戦中、戦後、平成と、時代も大きく変わっていく中で、アヤコさんがどういう気持ちで一家の大黒柱として、母として、職業婦人として生きてきたか。
それが関西のちょっとした抜け感とあいまって、クスッと笑えるところや思わず涙する場面など、120分の中にぎゅっと詰まっています。
―15歳の演技というのも難しそうです。
大地: 温水洋一さん演じる“天使”が、私が15歳を演じることに対してツッコむシーンもあるんです(笑)。とにかく観ていただいて、そのやり取りも楽しんでいただきたいですね。
アヤコさんは小さいときからおてんばで、男の子と喧嘩しても勝つような、活発な少女だったので、そんな躍動感も出せるようにと演じました。
作品全体を通して、ウィッグをいくつも使いました。
時代的には前半は着物姿が多く、ヘアスタイルもおさげ髪から時間が経つと、おかっぱというかボブスタイルに変わっていく。
後半は、時代に合わせて衣装も洋装になっていきます。当時を彷彿とさせる衣装に包まれると、自然と役の心情も伴っていくんですよね。
実は、実際にアヤコさんがお召しになっていらした洋服を、サイズを合わせて着用させていただいたシーンもあるんです。娘役の3人も、ヒロコ役(黒谷友香さん)はヒロコさんの服を、ジュンコ役(鈴木砂羽さん)はジュンコさんの服を、ミチコ役(水上京香さん)はミチコさんの服を着ているんです。
それぞれの個性豊かな衣装という点でも、映画をお楽しみいただけるかなと思います。
戦前・戦中・戦後と、激変する時代をたくましく生き抜いたアヤコは“憧れの存在”

―コシノアヤコの著書を読まれた後に、実際に演じてみて印象が変わったりも?
大地: 演じる前に持っていた印象はそのままですが、果たして私がそれを全部表現できているだろうかという思いはありますね。
1年間くらいかけて演じたいくらい魅力的なアヤコさんの生涯を、120分弱で表現するのは1番難しい部分でもありましたが、その類い稀なアヤコさんの魅力が、テンポよく伝わればいいなと思っています。
―全編にわたって、関西弁もなかなか多かったですよね。
大地: そうなんです。あれ、実は岸和田弁なんです。
岸和田弁というのはちょっと独特で、関西弁と言っても神戸でも京都でも船場でも河内でもない、独特のアクセントがありました。
今ではあまり使わないという当時使われていた言い回しやイントネーションを掘り起こして、時代に合わせた言葉にこだわりました。
―それは興味深いです。ちなみに3姉妹を演じる共演者の方々とは、演技をする上で話し合いもされたのでしょうか?
大地: 実は、本役の三姉妹と一緒のシーンは少なく、子役の方とのシーンの方が多かったのですが、それでもちょっとしたアドバイスをしたり、話し合ったりして作り上げました。
監督とも何度も話し合ったり打ち合わせしたりしましたが、監督・撮影・編集もすべて曽根剛監督が担当していたので、理想的な環境でした。ただ、すべてをこなされる監督は大変だったと思います。
―アヤコさんの生涯に触れて、印象に残っているエピソードはありますか?
大地: 映画の中のセリフにはなかったと思うのですが、「与えてもらうより与えること」という精神ですね。
この言葉にも表れているとおり、アヤコさんは愛情深い人だなと感じました。
子育てに関しても“放任主義”というか、「子どもに任せて、自分は何もしていない」と言いながら、実は子どもたちそれぞれの個性に合わせた接し方をしながら、ずっと見守っている。
なおかつ、一家の大黒柱として、職業婦人として生きていらしたことに尊敬の念を抱きました。
―演じられて、改めてコシノアヤコの魅力や新たな気づきがあれば教えてください。
大地: アヤコさんは、正しく“ゴッドマザー”ですね。
前向きな方で、実際に74歳で“AYAKO KOSHINO”というご自分のブランドを立ち上げられ、“何かを始めるのに遅いってことはない”を体現されている。
「向こう岸に渡ってみなければわからない」というお父様のお言葉どおり、常に前向きでバイタリティーあふれるアヤコさんから本当に刺激を受けました。
強いだけではなく、乙女心も忘れない方。恋に、仕事に、一生懸命で、戦前・戦中・戦後と、世の中が激変する中、前向きに生きてこられたアヤコさんは、目標であり憧れですね。
“年齢関係なく、新しいことにチャレンジしていい”というアヤコイズム

―お話を伺っていくと、今回の映画は世代を問わず、特に“年月を積み重ねてきた方々”の心に届く気がします。
大地: 本当にそうですね。
アヤコさんの年齢に捉われない、前向きな姿勢からは、きっと観てくださる皆さんそれぞれに、心に残るメッセージがあると思います。人生に迷ったとき、立ち止まったとき、ふと背中を押してくれる、そんな映画になっていると思います。是非、劇場で確かめていただきたいです。
大地 真央(だいちまお)プロフィール
2月5日生まれ、兵庫県出身。俳優。宝塚歌劇団で月組男役トップスターとして一時代を築く。退団後もミュージカル『マイ・フェア・レディ』や『風と共に去りぬ』をはじめ、ドラマ『最高のオバハン中島ハルコ』シリーズ、ドラマ『正直不動産』シリーズ、NHK大河ドラマ『武田信玄』(88年)や『功名が辻』(06年)、映画『高台家の人々』(16年)、CMなど多方面で活躍中。
●Instagram @daichimao_official
取材・文:小澤彩