2026年3月、世田谷パブリックシアターで幕が上がる音楽劇『コーカサスの白墨の輪』。
主人公・グルーシェを演じる木下晴香さんにインタビューしました。
実力派俳優が集結した今作の魅力について、語っていただきました。
音楽劇『コーカサスの白墨の輪』作品紹介
未来の戦争が終わった後、荒れ果てた大地に人々が戻ってくる。土地の所有をめぐって対立する人々に向けて、旅の一座の歌手(一路真輝)が、かつて起きた戦争の物語を歌い始める。
復活祭の日、太守が倒されるクーデターが起きる。料理女・グルーシェ(木下晴香)は混乱のさなか、戦地へ赴く兵士シモン(平間壮一)と結婚の約束をする。
シモンと別れたグルーシェは、城から逃げ出す太守夫人・ナテラ(sara)が“こども”を置き去りにするのを目撃する。グルーシェは、友人の料理女・スリカ(加藤梨里香)の制止を振り切り、“こども”を連れて逃亡する。
そして、厳しい寒さの中、たどり着いた辺境の地で、グルーシェはシモンを待ちながら“こども”を育てていく決意をする。
一方、吞んだくれのアズダク(眞島秀和)は、戦争の混乱の中、でたらめな経緯で裁判官に選ばれる。アズダクは賄賂を懐に入れ、イカサマまがいの判決を下していく。
やがて内乱が終わり、ナテラが“こども”を連れ戻しにやってきた。ナテラとグルーシェ、どちらが“こども”の母親か。アズダクによる裁判が始まる。
音楽劇『コーカサスの白墨の輪』公式サイトより引用
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グルーシェの感覚や考え方、生き方に精一杯向き合っていきたい

ー今回演じられるグルーシェという人物や音楽劇『コーカサスの白墨の輪』の概要について、改めて教えていただきたいです。
木下晴香さん(以下、木下):この作品は、ベルトルト・ブレヒトが第二次世界大戦中に、未来への希望や人間の願いを込めて書いた戯曲が原作で、その中で私はグルーシェという女性を演じています。
グルーシェは人としての強さやたくましさを持っていて、そして自分ではない誰かのために命をかけて行動できる人物です。
「人間のこういうところを信じていたい」というような、この作品の希望の部分を担っている役だと思います。
ーグルーシェに共感したところや印象深いポイントはありますか。
木下:グルーシェの最初の印象は「怖いもの知らず」でした。罵詈雑言を吐く姿もとても印象的で、現状では自分と似ていない部分も多いように感じています。
ー自分と似ている役の方が演じやすいという俳優さんもいれば、似ていない方が演じやすいという俳優さんもいますが、木下さんはその点どうですか。
木下:基本的に、似ている似ていないに関わらず他人を演じるというのは難しいことです。
自分とは違う人物の感覚や思考をたくさん想像して向き合っていくのは簡単ではないなと実感していますし、誰しも自分と同じ役というのはないと思います。
私はこれまで似ているなと思いながら演じたことはあまりなくて、今回もグルーシェの感覚や考え方、生き方に精一杯向き合っていきたいです。
ー原作を読んだ時の最初の感想はどうでしたか。
木下:最初は、こういう作品は難しそうと身構えて読み始めていたところもあったのですが、そんな心配はすぐなくなりました。
酒寄進一さんの翻訳の力もあるのかなと思いますが、読みやすかったです。
原作は結構前に描かれた作品なのに、現在の私たちに刺さる要素がたくさんあることに驚きながら、「人間って変わらないんだな」と悲しくも、色々な考えを巡らせながら読み進められました。
この作品を観劇してくださる方も、見ていて考えさせられるシーンはたくさんあると思います。
ー特に印象に残っているシーンや言葉はありますか。
木下:裁判官のアズダクに対して、“こども”のために、裁判で言葉をまくしたてる様に話すシーンがあって、そこの言葉のチョイスや勢いがすごく衝撃的でした。
「どういう状況だったらこの言葉が出せるんだろう」と考えながら読んでいたシーンです。
あとは、この『コーカサスの白墨の輪』という題名の意味が分かる瞬間というか、“こども”をめぐる2人の母にどんな判決が下るのかという結末も印象的でした。
実力派俳優が集結する音楽劇の魅力と舞台裏

ー上演台本・演出の瀬戸山美咲さんとは今回が三度目の作品ということですが、瀬戸山さんはどのような演出家なのでしょうか。
木下:瀬戸山さんは、ひとつのシーンでも色々な立ち位置のパターンで試したり、「今のどう感じた?」というディスカッションをしたり、俳優の感覚を大事にしてくださる方です。
今回瀬戸山さんが私をグルーシェに選んだ理由のひとつが、「逆境の中でも強く自分の足で歩んでいく女性の姿が似合うイメージがあった」ということで、そのお話も印象的でした。
今回もたくさん言葉を交わしながら本番を迎えられたらいいなと思います。
ーグルーシェの婚約者・シモン役の平間壮一さんはどのような印象でしたか。
木下:今作で一緒にインタビューを受けることもあり、改めてひしひしと感じたんですけど、平間さんは普段からすごく考えている方だと思います。それこそ戦争や命について、深く考えて向き合っている時間が長い方です。
初めて共演させていただいた時は「繊細な心の機微を表現される方だな」と思っていましたが、今になってそれはこういうところから来ていたんだと、インタビューの言葉を聞きながら感じていました。
大抵の人は「答えがないから考えるのはやめよう」となるようなところでも、平間さんは考え続けられる人なんだなと思います。
今回は、そんな平間さんとお芝居を交わせるのも楽しみです。

ー他の共演者の方はどうでしたか。
木下:加藤梨里香ちゃんや阿岐之将一さんは共演経験があって、saraちゃんや一路真輝さん、斎藤瑠希ちゃんとはコンサートでご一緒したことがあります。
初対面ではない方が結構いらっしゃったので、名前を拝見しながら「平間さんもいる!梨里香ちゃんもいる!」みたいに、どんどんホッとしていった記憶があります(笑)。
ーこの作品の上演へ向けて、木下さんの思う魅力や見どころを教えてください。
木下:音楽劇『コーカサスの白墨の輪』は戦争が起きた時の社会や世の中、そこに生きる人間を描いた作品です。
瀬戸山さんが「極限状態の人間を生み出してしまう一番のものが戦争だと思う」とおっしゃっていて、極限状態だからこそ表出してくる人間の愚かさと愛おしさが詰まっているところが魅力のひとつです。
また、物語の舞台は未来なので、「過去から学ぶ」とはまた違った感覚で「こういう可能性あるかもしれないよね」と、未来を想像する時間にもなると思います。
ー舞台で「未来の戦争」を描くというのは新鮮ですね。
木下:そうですね。
可能性というのも、私は「人間の可能性を探す旅」という瀬戸山さんの言葉が好きで、こうして引用させてもらうことも多いのですが、「可能性」という言葉には「こうなれるかもしれない」という希望も、逆に「このままだとこうなってしまうかもしれない」という現実を描く意味も、両方あると考えています。
可能性を見つめていった先に「人間は今よりマシな存在になれるのか」というこの作品が掲げる問いの結末を、劇場に見に来ていただけたら嬉しいです。
観客の方に問いかける部分も大きいので、ただ受け取ってもらうだけじゃなくて、一緒に考えてもらえる作品にできると思います。
経験を重ねた今、自分に問いかける演劇の意義

ー少し木下さんご自身のことについても伺いたいです。最近のリフレッシュ方法はなんですか。
木下:食べることが好きなので、好きなものを食べに行ったり自分で料理をしたりするのがストレス発散になります。あとは歌うこととか。
ーカラオケに行かれるのでしょうか。
木下:カラオケだけじゃなくて、リビングやお風呂とか、お家でも結構ガンガン歌ってます(笑)。
ーそうなんですね。今後の目標や「こうなりたい」というような目指す姿について教えてください。
木下:私は子供の頃から夢をもらえるような作品の観劇がすごく好きで、目を輝かせながら「このお仕事をやりたい」という純粋な思いも強くて。
実際にお仕事を始めてからは、「演劇や作品が何かを知ったり考えたりするきっかけになる」というところに演劇の魅力を感じてすごく惹かれましたし、そういう作品に携わっていきたいという思いも強くなりました。
目指す姿としては、劇場にたくさんのお客様を呼べる俳優になりたいなと思います。より多くの人に、作品の観劇を通して“きっかけ”を届けられる俳優になっていきたいです。
ーやってみたい役や出演してみたい作品のジャンルなどはありますか。
木下:今回の作品も当てはまりますが、私は戦争を描いた作品には積極的に携わっていきたいという思いがずっとあります。
だんだんと忘れていってしまうなかで、記憶を繋いでくれるものの1つが演劇だと私は思っていて。忘れてはならないことをちゃんと次の世代に渡していける人でいたいという思いがあります。
ー17歳でのデビュー以来、お仕事のモチベーションとなっている思いや気持ちはありますか。
木下:ミュージカルが好きという思いからこのお仕事を志したので、その「好き」という気持ちはずっとあります。
色々な演劇作品に出会って映像作品の世界にも出会って、芽生えたのは「もっと良い表現ができるようになりたい」という思い。これがこのお仕事をするうえで常にエンジンになっている気がします。
ー舞台俳優のやりがいはどんなところにありますか。
木下:お客様の反応を肌で感じられるところや、最近ではSNSに投稿された感想を目にして「やってよかったな」と思うことも増えました。
こう言うとすごく壮大な感じがしますが、人間が幸せに平和に生きるために全ての作品が存在していると思うから、私の出演作が何かのきっかけや生活の彩りになったらうれしいですし、そこにやりがいを感じます。
ー作品の存在意義的なところを考えていらっしゃるのですね。
木下:最近そういうことを漠然と考えるようになりました。
ーそのきっかけは何かあったのでしょうか。
木下:何か明確なきっかけがあったわけではなくて、色々な作品を重ねてきて「なんで演劇をやっているんだろう」と最近になって思うようになった気がします。
もちろん純粋に「好きだから」という思いは変わらずにありますが、「何ができるのかな」「何かできるのかな」ということも考えるようになりました。
まだその答えは出ていないですけど、これからも作品に出演していって、考えていけたらいいなと思います。

木下晴香(きのしたはるか)プロフィール
1999年生まれ、佐賀県出身。
2017年ミュージカル『ロミオ&ジュリエット』のジュリオ役でデビュー。
主な出演作品に、ミュージカル『モーツァルト!』(2018、2021)、ミュージカル『アナスタシア』(2020、2023)、ミュージカル『レ・ミゼラブル』(2024)など。
2026年7月にミュージカル『ディア・エヴァン・ハンセン』の公演が控えている。
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