映画『ぶぶ漬けどうどす』出演の小野寺ずる。劇中の漫画も担当する多才さに注目

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2025年6月6日公開の映画『ぶぶ漬けどうどす』に出演する小野寺ずるさんにインタビューしました。小野寺さんは俳優、脚本演出家、漫画家として多方面で活躍しています。

そんな小野寺さんが今回演じたのは、深川麻衣さん演じる主人公・澁澤まどかとコンビを組んだ漫画家・安西莉子役です。

京都を舞台に繰り広げられるシニカルコメディ映画の、出演者ならではのおもしろエピソードをお聞きしました。

映画『ぶぶ漬けどうどす』作品紹介

京都の老舗扇子店の長男と結婚し、東京からやってきたフリーライターのまどかは、数百年の歴史を誇る老舗の暮らしぶりをコミックエッセイにしようと、義実家や街の女将さんたちの取材を始める。

ところが、「本音と建前」の文化を甘く見ていたせいで、気づけば女将さんたちの怒りを買ってしまう。猛省したまどかは、京都の正しき伝道師になるべく努力するが、事態は街中を巻き込んで思わぬ方向に。

映画『ぶぶ漬けどうどす』公式サイトより引用

ぶぶ漬けどうどす
京都の老舗扇子店の長男と結婚し、京都からやってきたフリーライターのまどかは、数百年の歴史を誇る老舗の暮らしぶりをコミックエッセイにしようと、義実家や街の女将さんたちの取材を始める。ところが、...

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冨永昌敬監督の指揮「奇想天外な演出には驚きました」

©2025「ぶぶ漬けどうどす」製作委員会

ー今回の映画に安西莉子役として出演が決まった際のお気持ちを教えてください。

小野寺ずるさん(以下、小野寺):すごく嬉しかったです。

今回は、この映画の主人公・澁澤まどかのビジネスパートナーとしてコンビを組んだ漫画家・安西莉子という人物を演じました。

私は以前、冨永昌敬監督の『僕の手を売ります』(2023)というドラマ作品に出演したことがあって、撮影終わりに「私、実は漫画を描いていて、もしよかったら」って名刺みたいなシールをお渡ししました。そこで、「絵を描くんだな」と認識してくださって、今回漫画家という役をいただけたのかなと思います。

ー実際に演じられて、どうでしたか。

小野寺:はじめは何も分かりませんでした(笑)。

撮影に入る前に台本をもらって、「こういう役なのかな」と考えていましたが、衣装合わせをすると「こんな服を着るのか」って発見があって。じゃあ「こういうことなのかな」って思っても、メイクをしてもらうと「こういうメイクなのか」ってイメージが変わって、常にスクラップアンドビルドでした(笑)。

実際に現場に入ってお芝居をしていても、冨永監督の奇想天外な演出には驚きました。だから撮影している最中は「なんでだろう、どうなるんだろう」ってずっと思っていて、そう考えているうちに撮影が終わってしまいました(笑)。

ー監督から受けた演出の中で、印象的なエピソードはありますか。

小野寺:まどかちゃんに、薪をくべながら自分の秘密をカミングアウトするシーンはよく覚えていて、監督から「一番大きな薪を持って」って言われたんです。

自分としては結構大切なシーンだと思って真面目な雰囲気でいたので、「一番大きな薪?なんでだろう」と最初は驚きました(笑)。

撮影が終わって改めて考えると、「一番大きい薪は燃えづらい」ってことだったのかもしれません。

台本上では、小さい木の枝からだんだん火を大きくするという流れなのに、一番大きい薪を持っている。これは、「一番燃えづらい大きな薪=どうしようもないものを持っている」という暗喩の表現だったのかもしれません。正確には分からないですが(笑)。

冨永監督らしい面白い演出にはちゃんと意図があったんだと撮影が終わって、改めて思いました。

©2025「ぶぶ漬けどうどす」製作委員会

ーなるほど。冨永監督の唯一無二な感性が至るところで感じられる作品なんですね。

小野寺:もう一つ、面白い話があって、私は漫画でみなさんのお顔を描いていたので、衣装合わせにも立ち会わせていただきました。

中村航役・若葉竜也さんの衣装合わせの時に、監督が「ぶつぶつの靴ないの?」っておっしゃったんです。それは、その時に少し流行っていた、靴底がシャボン玉みたいな、もこもこしているようなスニーカーだったのですが、そういう靴が良いっていう話になっていました。衣装合わせの時からすごく面白かったです。

ー薪や靴、ピンポイントで指示があるってすごいですね。

小野寺:監督の中では、ビジュアルや視覚的なイメージがしっかりあったんだなと思います。

薪のシーンでも、監督からするともっと「抜け感」を作りたかったのかもしれません。

確かに、登場人物がただ真面目に秘密をカミングアウトしてるだけのシーンより、大きな薪を持っている方が、見た時に面白いなって思います。薪自体に注目されることはなくても、それを持っていることによって、映像から何か膨らみきらない風船みたいな抜け感を感じました。

ーなるほど。監督の演出にその場での対応ということも多かったかと思いますが、演じるうえでよく意識したのはどんなことでしたか。

小野寺:「余計なことはしない」です。色々と考えすぎてしまうと、余計なことをしてしまうから、自分が思ったことを素直にやろうと意識しました。

最初にもお話しましたが、この役はよくわからなかったんです。でもわからないからこそ、素直にやってみようと思いました。

物語の舞台は京都。シニカルコメディ映画の撮影エピソード

©2025「ぶぶ漬けどうどす」製作委員会

ー今回の映画の舞台は京都ですが、京都の街はどうでしたか。

小野寺:私は撮影のあとはホテルに戻って、ずっと漫画を描いていたので京都で特別なことは何もしませんでした。ずっと滋賀県のホテルにいました(笑)。

でも一度だけ、おばあちゃんの友達におばあちゃんの手紙を届けました。そのついでに鴨川でコーヒーを飲んで、骨董品を見ました。

ー京都の閉鎖的な雰囲気を描いた作品でもあると感じましたが、京都のイメージを教えてください。

小野寺:こだわりの芸術が栄えている印象があります。今は観光客もすごく多かったです。

大きいリュックを背負った体格のいい海外の観光客に囲まれて…。人の多さでバスに乗れず、歩いて移動するということもありました。

関西には「はんなり」という言葉もありますし、落ち着いた感じだと思っていましたが、実際はもっとパキパキしているというか、パンキッシュな感じでした。

ーそうなんですね。撮影現場の雰囲気はどうでしたか。

小野寺:女性陣がグルメにはしゃいでいたイメージがあります(笑)。

京都もおいしいものが色々あるから「あそこのお店行った?」みたいな。京都にいるという楽しい雰囲気の撮影現場でした。

ー撮影現場での、共演者とのエピソードなどはありますか。

小野寺:みなさんすごく温かくて、お話するのが楽しかったです。

特に室井滋さんとは共演シーンもよくありましたし、松尾貴史さんたちともお話しました。

ただ、劇中の漫画で、豊原功補さんの役をかなりなじって描いちゃっていたから、豊原さんとは、なんとなく目を合わせづらくなってしまって…。勇気を出して近くに行けばよかったなって、勇気がなかった自分を少し後悔しています。

ー今回の映画、ベテランの俳優さんが揃っているなと思いました。共演してみてどうでしたか。

小野寺:みなさん百戦錬磨のベテランさんだから聞きたいことがたくさんありました。でも「今は集中したいかな」って気を遣ってしまう場面ももちろんあって。本当はもっと色々お聞きしたかったです。

まいまい(深川麻衣さん)とは、世間話的な感じで「ここってこういうことなのかな」って、友達の会話のようにお芝居の話をしました。

劇中の漫画も担当。多方面で活躍する小野寺ずるの着眼点

©2025「ぶぶ漬けどうどす」製作委員会

ーこの映画の中で、一番印象に残っているシーンはありますか。

小野寺:ラストシーンです。

そのシーンの撮影当日に、色々話し合って脚本が少し変化したんです。それによって雰囲気がガラッと変わったから、「どうなるんだろう」って思いました。

その雰囲気を含めてあまりない貴重な体験をさせてもらいましたし、ドキドキしました。

ー映画を通して小野寺さんが共感できるところはありましたか。

小野寺:映画の冒頭、私の描いた漫画をまどかちゃんが黙って見ていて、私が、まどかちゃんの反応を気にしてチラチラ様子を伺うところです。

あれはもうすごく共感しました!私も普段、漫画を描いているので、読者の反応が気になってしまう気持ちはよくわかります。

私はネットで公開しているから、リプライやメッセージで反応がありますが、目の前で読んだ人から「面白い」って言われるのもすごく嬉しいことだよねって共感しました。

ー劇中の漫画も小野寺さんが担当されたんですよね。俳優に漫画家など、多方面で活動されていますが、今後の目標はありますか。

小野寺:3つあります!

まず役者業では、大罪人の役をやってみたいです。舞台の脚本演出では還暦までに海外でも見てもらえるような作品を作ってみたいし、漫画では50歳までに自費出版ではない本を出したいです。

今は特に映画を頑張りたいと思っていて、最近「いつか短編映画を撮ってみたい」という思いが芽生えました。

ー大罪人の役ってすごい具体的ですね(笑)。それは、なにか理由があるんですか。

小野寺:90歳の祖母がサスペンス作品が好きなので、祖母が生きてるうちに私でハラハラさせたいという想いがあるからです。
あと自分の許容範囲を超えた、理解できないようなものを一生懸命考えて演じてみたいというのもあります。

ーなるほど。今回の映画は、特にどんな方におすすめしたいですか。

小野寺:あまり他に類を見ないような映画なんじゃないかな、と思うので、映画をたくさん見ている人には特に見てもらいたいです。
この映画は「面白い」「面白くない」の単純評価ができないと個人的に思っていて、それが魅力でもあるのかな、と。
たくさんの映画を見ている方にこそ、この映画をおすすめしたいです。

ー小野寺さんの思う、この映画の注目ポイントを教えてください。

小野寺:内容はもちろんですが、音楽と映像、カメラの画角とか独特な画の作り方にも注目して見てほしいです。

やっぱり冨永監督の斬新な演出や、常に平熱な感じが私は好きなので、感覚的にバーッて見てほしい。この映画は、正直感情を揺さぶられることとか、強いメッセージ性があるわけではないから、いい意味で色々考えることなく、ただ見るだけで楽しんでもらえる作品だと思っています。

小野寺ずる(おのでらずる)プロフィール

1989年生まれ、宮城県出身。

舞台を中心に活動後、ドラマ『まだ結婚できない男』、『いいね!光源氏くん』などに出演し、映像でも活躍の場を広げる。

主な出演作に、『笑いのカイブツ』、『サンセット・サンライズ』、ドラマ『水平線のうた』など。

「ZURULABO」で舞台(脚本・演出)・漫画・ポエムなどを発表し、現在、WEB「日刊SPA!」で4コマ漫画を連載中。映画『ぶぶ漬けどうどす』の劇中漫画も担当。

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●公式Instagram @zuru_onodera

ヘアメイク:堀奈津子

スタイリング:田中寿希