キンコン西野亮廣×松本紀子P対談。コマ撮り映画『ボトルジョージ』と『こまねこ』にみる短編映画の可能性

インタビュー
インタビューニュース

現在、魅力的な短編映画が話題になっています。『ボトルジョージ』と、『こまねこのかいがいりょこう』の2本です。人形を少しずつ動かしながら静止画を撮り重ね、連続再生して動いているように見せる“コマ撮り”という撮影手法で丁寧に作られた、心温まる映画たち。今回は、国内外の映画賞を続々受賞中の『ボトルジョージ』制作のキーパーソンであるキングコングの西野亮廣さん(製作総指揮)と松本紀子さん(上記2作のプロデューサー)に、コマ撮り短編映画の魅力と制作の苦労をお伺いしました。

映画『ボトルジョージ』作品紹介


キングコングの西野亮廣氏が製作総指揮を務めたコマ撮り短編映画。監督には、アニメーション界のアカデミーと呼ばれるアニー賞で作品賞、プロダクションデザイン賞で最優秀作品に選ばれたトンコハウスの堤大介氏。脚本は堤大介氏と西野亮廣の共同制作。プロデューサーは、『どーもくん』やNetflix『リラックマ』シリーズなど、ストップモーションアニメーションを数多く手がけるドワーフの松本紀子氏。
お酒の瓶に閉じ込められた毛虫のようなヘンテコリンな生き物ジョージがある日小さな少女と猫に出会う、依存症と家族をテーマにした13分のコマ撮り短編アニメーション作品。第19回札幌国際短編映画祭にて最優秀作曲賞およびアニメーション特別表彰を受賞。ニューポートビーチ映画祭で審査員賞、グローバルステージハリウッド映画祭にてBest Short 2024を受賞。
専用劇場『ボトルジョージ・シアター』(東京・五反田)にて毎日15名限定で上映中。

ボトルジョージ
酒瓶に閉じ込められたジョージがある日、少女と猫に出会う。依存症と家族をテーマにしたコマ撮り短編映画。...

『ボトルジョージ』公式サイト

●『ボトルジョージ』公式Instagram @bottlegeorge_dwarf

『ボトルジョージ・シアター』鑑賞チケット販売ページ

映画『こまねこのかいがいりょこう』作品紹介

2003 年に誕生したドワーフスタジオのオリジナル作品『こま撮りえいがこまねこ』は、こま撮りをする、もの作りが好きなねこの女の子“こまちゃん”の日常を、優しさあふれる世界観で描いている。
11年ぶりの新作となる『こまねこのかいがいりょこう』は、初めての海外旅行に出かけることになった主人公“こまちゃん”の友情と成長が描かれる短編映画。松本紀子氏がエグゼクティブプロデューサーを務めた。
『こま撮りえいがこまねこ』より、名作との呼び声が高い『はじめのいっぽ』『こまとラジボー』『ほんとうのともだち』の3作とともに劇場公開中。

こまねこのかいがいりょこう
山のうえのおうちに暮らすこまちゃんはものづくりが大好きなねこの女の子。いつも自分の心に素直に、そして楽しく暮らしています。ある日、いっしょに暮らす“おじい”から...

●こまねこのかいがいりょこう公式X  @komanekofficial

映画『こまねこのかいがいりょこう』公式サイト

絵本でもなく長編でもなく、コマ撮りの短編映画に挑戦した理由

―映画祭で続々賞を受賞されているコマ撮り短編映画『ボトルジョージ』ですが、まずは制作のきっかけを教えてください。

西野亮廣さん(以下、西野):もともと、トンコハウスの堤大介監督と「一緒に何かやりたいね」と話していたのがはじまりでした。

自分はテレビの世界から絵本作家へと活動の幅を広げ、堤監督もアートディレクターをされていたピクサーから独立されて勝負している。2人に共通する“セカンドチャレンジ”をテーマにしたいね、と。

そこから、お互いの知り合いが依存症に悩んでいるという話になり、だったらお酒に飲まれて挫折した人が、もう一度立ち上がるというストーリーにしようよ、となりました。この段階では、まだ絵本としての構想だったんですよ。

ところが、ある日堤監督に「コマ撮りに挑戦しませんか」、そして「もっと踏み込んだ依存症について描きませんか」と提案されたんです。依存症という重いテーマが長編映画だと、ちょっとしんどいじゃないですか。だから短編ならどうだろうと。コマ撮りというジャンルも“なんか面白そうだな”と思ったんです。

いざ始めたら、これがまあ大変で(笑)。どう考えたって、絵本と比べて作業の工数が増えちゃうじゃんって(笑)。

絵本ならだいたいこのくらいで仕上がるかなというスケジュール感が、コマ撮りだと全く見えない。作り方もわからない。作ってからどうやって観客に届けたらいいのかわからない――。これは面倒なことになったなと思ったんですが(笑)、でも、せっかく挑戦するならなるべく面倒なほうがいいなと思って、やっぱりコマ撮りに挑戦したいと。

そして「コマ撮りだったらドワーフさん」と、松本さんにお願いしに行きました。

松本紀子さん(以下、松本):私は“コマ撮り屋のおかみ”みたいな人間。お2人にお会いして、「コマ撮りの大変さがわかってますか、大丈夫ですか、普通の映像制作よりお金もかかりますよ」という確認から入りました(笑)。

そのうえ、ピクサーで世界最高のCGを知っている堤さんが「『ボトルジョージ』では世界最高のコマ撮りをやろうぜ!」みたいな感じだから、つい引っ張られて『ボトルジョージ』のスタッフはめちゃめちゃ頑張ったわけですが(笑)。

―コマ撮りの魅力はどんなところにありますか。

西野:最初は本当に、“面白そう”ってだけだったんですよ。コマ撮りの制作過程が面白いのは、コンテンツとしてもすごく強いなと思って。

今は生成AIの力で、完成品がパっとできてしまう時代です。逆に言えば、AIには制作過程とかプロセスが作れないわけだから。

松本:確かに、私がプロデュースしているショートアニメーション『こま撮りえいがこまねこ』の1作目『はじめのいっぽ』(『こまねこのかいがいりょこう』と同時上映中)は、今から20年前に制作した作品で、美術館で開催した公開撮影がとても好評でした。

こま撮りえいが こまねこ
ものづくりが大好きなネコの女の子・こまちゃんが、コマ撮りでラブストーリーに挑戦

当時すでにCGが全盛で、「なんでこんなこと始めたの。やめた方がいいよ」ってみんなに言われたけれど、コマ撮りはなんとか生き残れた。それなら、多分コマ撮りチームはAIにもやられないのではないかと信じているんです。

西野:『こま撮りえいがこまねこ』の1作目である『はじめのいっぽ』からして、制作後20年たっても全く古くなっていないですよね。完成度がえらく高かったともいえますけど。

松本:やっぱりコマ撮りのいいところって、古くならないところなんですよ。それに、ショートフィルムって短いから、何回も見られるのがいいじゃないですか。

西野:そう、そうなんですよ。例えばミュージカルを作っていると、僕より上の世代の方は、“同じ値段でなるべく長いものを見られたほうがお得だ”って考え方になるけど、下の世代だと“3時間奪われるって高いしタイパ(タイムパフォーマンス)が良くない”ってなる。となると、短編映画にも可能性があるなと。

“予算を回収できない”短編映画の課題に挑む

―今回の短編映画づくりで大変だったのはどんな点でしょうか。

西野:ずっと頭を悩ませたのは、今回の短編作品は“今まで誰もやったことがない届け方をしないとダメだろう”ということでした。

短編映画の予算回収は難しい問題。DVD化や、配信サービスに頼っても採算は取れないかもしれないと予測できた。届け方にあらゆる可能性を残しておきたくて 、チームや会社のみんなと話して、まず制作前に『ボトルジョージ』以外の仕事を入れて、まとまったお金を作ることにしたんです。

『ボトルジョージ』で1円も回収できなくても、僕の会社はつぶれないようにしないといけない。だから全国各地で講演会を80回くらい行ったし、ほかにもいろいろと稼いで。

…最初にそれだけやっておかないと、その後の打ち手が守りに入っちゃうなと思った。そこがまず大変でした。

松本:『ボトルジョージ』は短編なのに、1億以上の制作費をかけているんです。ただでさえショートフィルムは採算は取れないけれど 、しっかりやろうとすればこれだけ費用がかかります、って最初に西野さんにはしっかりお伝えしました。

「堤さんが好きだからやります」「西野さんだからやります」という、参加スタッフの“やりがい搾取”になるのもすごく嫌だった。だから、「ビジネスとしてスタッフにもきちんと対価を払おうとすると、コストはさらに上がります」と。

そしたら西野さんは「それはそうだよね」って理解して対応してくれた。本当にありがたかったし、現場も健やかに仕事ができました。

―それなら参加するスタッフも安心できますね。

松本:西野さんがすごく素敵だなと思ったのは、「短編で(予算を)回収する仕組みを作りましょう」と言ってくれたことです。

政府の援助が手厚い海外と違って、日本では、みんな短編では予算を回収できないケースが多いもので。だから、日本では、作家に一番時間があって作品に没頭できる卒業制作こそが、人生の最高傑作だと言われてしまうの。

当初「今回、西野さんの力で予算を回収できたとしても、“西野さんだから”できたってことになっちゃうんじゃないか」と私が正直に言ったら、西野さんは「じゃあ、次に続く人にもできる、再現性のあるやり方を考えましょう」って言ってくれた。すごく心強いしかっこいい。これは、一緒にやって西野さんの考え方を学ばねば、と思いました。

短編映画に可能性を残したい。「どこで公開するか」は最後まで悩んだ

―短編映画にそんな側面があるとは。見て楽しめばいい観客と違って、製作する側にはいろいろな苦悩があるんですね。

西野:どこで公開するかって話、二転三転しましたよね。「YouTubeなら勝てる気がする」と言いつつ、でもやっぱりYouTubeだと埋もれちゃうからダメだと。だって、次々新作が出てくるわけですから。

DVD化したらどうか。何枚かは買ってもらえると思うけれど、DVDでは絶対に、1億以上の制作費は回収できない。

それならいっそのこと、アート作品にしちゃうのはどうかという話も出ました。13分のアニメーション作品を額装して、オークションで落札してもらい、どこかの美術館に飾ってもらう。「ルーブル美術館だったら最高じゃん(笑)!」って盛り上がったんですが、やっぱりなんか違うなと…。

僕は決して出し渋りをしているわけではなく、短編映画の持つ可能性を広げておきたかった。でも、こうやって堂々巡りをしていると、「一体いつ、どこでやるんだよ!」ってキレられそうなものですよね。なのに松本さんは、僕の決断を本当によく待ってくれたなと思います。

―それが「ここでしかボトルジョージが見られない」という専用劇場を作る考えにつながっていくんですね。

西野:『ボトルジョージ』の世界観そのままのスナックで、住所は東京都五反田(詳細な住所は非公開)。実は、僕と堤さんが出会って最初に飲んだ、思い出深い“出会いの場所”です。

ショートフィルムを見たあとに、お客さんがそのまま飲んで、「ここで堤監督と西野が話しをしたんだね」なんて言いながら1,2時間、時間をつぶして帰るっていう感じまでセットにした体験型のエンタメならいいんじゃないかなと。

チケットを買った人しか住所がわからない場所で、365日、18時半から毎日『ボトルジョージ』を見られるんです。毎日15人限定で。

―チケット販売ページを見ると、売切れの日も多いですよね。

西野:ありがたいことに、ひと月後まですべて売り切れています。

ただ僕は、ボトルジョージ・シアターが最終形だとも考えてはいないんです。ひょっとしたら今後、本当にアートとして売り出すかもしれないし、映画館で上映することになるかもしれません。

でも、何をするにしても、コアなファンのコミュニティを作っておかないと、全部上滑りするなと思ったんです。『ボトルジョージ』を応援してくれるファンコミュニティみたいなものがないと、広がりもないなと。だから、こうしてボトルジョージ・シアターで毎日15人ずつファンを増やしていくことが、めっちゃ大事なんじゃないかなと思ってるんです。

松本:西野さん、ほんと上手ですよ。私も恥ずかしがっていないで、“ファンを作る”のを真似しようと思って、身近な場から「松本プロデューサーとの座談会」をやってみたんですよ(笑)。

西野:そうなんですか、それめっちゃいい!素敵!

―『ボトルジョージ』を見たい子どもたちもたくさんいると思うんですが、ボトルジョージ・シアターで見ることはできるんでしょうか。

西野:試写会をやったときに『ボトルジョージ』を見てくれたお子さんが「もう一度見たい」と言ってくださって、親子で来てくれています。もちろんスナックの営業時間には子どもは入れないので、19時までの限定なんですが。

アニメーションに対象年齢なんてないんですよね。動きが面白いとか、そういうところで好きになってくれる子もいるので。

松本:テーマが依存症だからか、「『ボトルジョージ』のターゲット層は大人ですよね?」って聞かれるんですけれど、それって子どもに失礼だなって思うんです。ちゃんとしたものを作れば、大人であれ、子どもであれ、ちゃんと見てくれる。大人が企画して、大人の悩みをテーマにした作品だろうが、です。

西野さんと私はエンタメが好きなんですが、堤さんは今回は「単純なハッピーエンドじゃない、エンタメじゃないものを作りたい」って主張されてた。堤さんは、愉快なものも作れる人なのに、シリアスな方向にグッと舵を切ったのは、ある意味すごい勇気だったと思う。『ボトルジョージ』は、シリアスでもすごく楽しい。これは本当に絶妙な匙加減だと思うんですよ。

コマ撮り作品を単なる“努力賞”ではなく、作品として素晴らしいものにしたい

―今回、『ボトルジョージ』と『こまねこ』で、コマ撮りという撮影手法の素晴らしさを改めて実感できました。

西野:絵本からコマ撮りアニメーションのほうに話が変わったとき、堤さんとよく話したんです。「アニメーションとして面白いものを作ろう。アニメーション映えするものを作ろう」って。

だから、石畳の上を瓶がころころ転がっていくんですが、その石畳を粗くでこぼこにして、瓶が跳ねている感じを出したいよねって。瓶が割れるシーンも、よくコマ撮りで作れてるなと感じられるんじゃないかと思います。

松本:でもね。本当はどうでもいいんです、コマ撮りかどうかなんて。コマ撮りの一番の弱点は「コマ撮りが一番の価値になってしまうこと」なんですよ。

「これコマ撮りで撮ってるの?すごいね!」って“努力賞”になってしまうと、作品として評価されなくなる。それは避けたかった。コマ撮りである以前に、作品としてちゃんとしているかってすごく重要なんです。

「上手なアニメーション作品」って言われるのはすごく嬉しいし光栄ですが、それだけではないことのために、逆に濁りのない技術をちゃんと提供して、「コマ撮り」に目がいかないようにしているんです。

西野:確かにキャラクターの動きもすごくなめらかですし、照明がめちゃくちゃキレイ。窓から差し込んでくる照明とか、もうあれ実写の照明の感じですよね。

松本:実は、撮影現場には実写のスタッフを起用しているんですよ。

私は基本的にコマ撮り屋なんですけど、特に撮影・照明のスタッフには、実写をやっている人にできるだけ入ってもらうようにしているんです。やっぱり、太陽の光が分からない人には、太陽の光は作れないから。美術もそう。コマ撮り用のスタッフではなく、リアルを作れる人にも入ってもらうって、本当に大事なんですよ。

私ね、キャラクターを“お人形さん”ではなく“生き物”にしたいんです。私たちと同じように、この世の中で生きている“生き物”であるっていう。

コマ撮りだからこそ、カクカクした動きを期待する人もいるかもしれない。確かにそういう可愛さもあると思うんですけれど、物語を作るときは、“ちゃんと生き物になったほうがいい”って思ってるんです。

西野:ドワーフさんの技術力は本当にすごいし、とにかく映像が素晴らしい。僕も作っていて面白かったです。またやりたいですもん。

松本:私もです。西野さんと仕事をすると、西野さんのことがどんどん好きになる。私もまだまだ西野さんから学びたいって思っています(笑)。

西野 亮廣(にしのあきひろ)プロフィール

1980年兵庫県生まれ。芸人・絵本作家。 著書は、絵本に『Dr.インクの星空キネマ』『ジップ& キャンディ ロボットたちのクリスマス』『オルゴールワールド』『えんとつ町のプペル』『ほんやのポンチョ』『チックタック~約束の時計台~』『みにくいマルコ』、小説に『グッド・ コマーシャル』、ビジネス書に『魔法のコンパス』『革命のファンファーレ』『バカとつき合うな』(堀江貴文氏と共著)『新世界』『ゴミ人間』などがあり、全作ベストセラーとなる。 2020年12月に公開された映画『えんとつ町のプペル』では脚本・制作総指揮を務め、大ヒットを記録。日本アカデミー賞優秀アニメーション作品賞受賞、アヌシー国際アニメーション映画祭長編映画部門ノミネートなど海外でも高く評価される。国内最大級のオンラインサロン「西野亮廣エンタメ研究所」を運営するなど、 芸能活動の枠を越えて様々なビジネスや表現活動を展開中。

●西野亮廣 X @nishinoakihiro

●西野亮廣 Instagram @japanesehandsome

西野亮廣エンタメ研究所 

松本 紀子(まつもとのりこ)プロフィール

合田経郎と共にドワーフ(「株式会社FIELD MANAGEMENT EXPAND」ドワーフ事業部)代表を務める。CM業界からキャリアをスタートし、どーもくん、こまねこの誕生を機に活動のフィールドをキャラクター/アニメーション業界へ移し、2003年、ドワ―フ設立に参加。日本のスタジオとしては、いちはやく配信のグローバル・プラットフォームとの仕事を始め、2016年に「こまねこ」がAmazon prime video original のパイロットシーズンに採用され、Netflixシリーズ「リラックマとカオルさん(2019)」が話題に。2022年にはシリーズ第2作「リラックマと遊園地」がリリースされた。ストップモーションを中心に、ドワ―フだけでなく国内外のスタッフやスタジオとのコラボレーションも積極的に進めている。最新作はパイロット版でありながら、コマ撮り作品の常識を凌駕していると話題のThe Stop-Motion Samurai Film     「HIDARI」。

●ドワーフスタジオ公式X @dwarf_inc

●ドワーフスタジオ公式Instagram @dwarf_studios

ドワーフスタジオ公式サイト

取材・文:小澤彩

タイトルとURLをコピーしました