映画『か「」く「」し「」ご「」と「』中川駿監督の繊細な心情描写に込めたメッセージ

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人気小説を原作とした青春ラブストーリー映画『か「」く「」し「」ご「」と「』の中川駿監督にインタビューしました。

5人の高校生が織りなす青春物語を通して伝える監督の想いや撮影秘話を語っていただきました。

映画『か「」く「」し「」ご「」と「』作品紹介

みんなには隠している、少しだけ特別なチカラ。
それぞれの“かくしごと”が織りなす、もどかしくも切ない物語。

「自分なんて」と引け目を感じている高校生・大塚京(奥平大兼)は、ヒロインじゃなくてヒーローになりたいクラスの人気者、三木直子・通称ミッキー(出口夏希)が気になって仕方がない。
予測不能な言動でマイペースな黒田・通称パラ(菊池日菜子)と一緒に、明るく楽しそうにしている彼女を、いつも遠くから見つめるだけ。
そんな三木の幼馴染で京の親友の、高崎博文・通称ヅカ(佐野晶哉)を通して、卒業するその日まで“友達の友達”として一緒にいるはずだった──

ある日、内気な性格の宮里・通称エル(早瀬憩)が、急に学校に来なくなったことをきっかけに、5人の想いが動き出す──

※映画『か「」く「」し「」ご「」と「』公式サイトより引用

か「」く「」し「」ご「」と「
みんなには隠している、少しだけ特別なチカラ。それぞれの“かくしごと”が織りなす、もどかしくも切ない物語。「自分なんて」と引け目を感じている高校生・大塚京(奥平大兼)は、ヒロインじゃな...

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映画『か「」く「」し「」ご「」と「』の題材は繊細な心情

(C)2025『か「」く「」し「」ご「」と「』製作委員会

―映画『か「」く「」し「」ご「」と「』はどのような作品なのでしょうか。

中川駿監督(以下、中川):この映画には、人の気持ちが目に見えて分かってしまう能力を持った高校生が登場していますが、物語の本質としては「10代の繊細な心情」を題材にしています。

その能力があるからこそ、人の気持ちを過剰に気にしてしまったり、自分はダメな人間なんじゃないかと思ってしまったり、そういう心情を描いたリアリティのある作品だと思います。監督として、そういった空気感を再現できるよう努めました。

―今回監督を担当された経緯を教えてください。

中川:以前に僕が監督をした映画『少女は卒業しない』(2023)をご覧いただいたプロデューサーチームのみなさんから、今回の映画のお話をいただきました。

映画『少女は卒業しない』は朝井リョウさんの小説が原作で、10代の繊細な心情を描いたストーリーでした。今回の映画と、原作小説がある点や10代の心情を題材としているところが似ていて、シンクロする部分があったので監督を引き受けさせていただきました。

―この映画は原作の小説も人気が高いですが、原作者の住野よるさんとお話する機会はありましたか。

中川:脚本を書いている段階でたくさんお話させていただきました。

脚本やプロットの絵をお送りして、それに対してのフィードバックをいただくという形で、住野先生の思いやこだわりを受け止めて撮影に臨みました。

―住野先生とのやりとりを通して感じたことは何かありましたか。

中川:作品や登場人物への愛情がすごく強い方だという印象があります。

セリフの言い回しや、「このキャラクターはこんなことしない」というようなアドバイスなど、「こういう演出にしてほしい」というオーダーを細かくいただきました。

比重的にはキャラクターに関するところが多かったと思います。

―作り込まれたキャラクターを実際に演じられた、俳優さんのキャスティングについて教えてください。

中川:基本はプロデューサーチームからの提案でした。先ほどのキャラクターのディティールというところにも通じますが、住野先生はキャラクター同士の身長の関係性にこだわられていました。

パラはミッキーより身長が高くなきゃいけないとか、京君とヅカもしかり。エルはこの5人の中で一番小さくというオーダーもあり、そのうえで僕の役に対するイメージや印象を踏まえて、プロデューサーチームの方から提案していただきました。

各所からいろいろオーダーがあったと思いますが、理想的な5人になりました。

―本当にぴったりな配役だと思いました。監督ご自身が、映画の5人と共感できる部分はありましたか。

中川:僕自身が特に共感できるのはヅカとパラの2人でした。

僕も「こういうことを言ったら喜んでもらえるかな」と考えながら相手に合わせてしまうタイプです。でも僕はそんな自分も嫌じゃないし、それが楽しくてやっている一面もあります。

似ているけどちょっと違う、共感できる部分もあればそうではないところもあります。5人を通してそう感じましたし、みなさんもそれぞれの人物に共感できる部分はあると思います。

―なるほど。ちゃんみなさんが主題歌を担当されるというところも注目されていましたね。

中川:10代の心情を描くのがうまいアーティストさんという観点でプロデューサーチームから提案していただきました。

プロデューサーチーム経由でちゃんみなさんに映画のことを共有し、今回の主題歌「I hate this love song」を書き下ろしていただきました。

ちゃんみなさんの代表曲とはまたテイストの違った曲で、ちゃんみなさんがこの作品を理解して、寄り添ってくださったことが感じられる素敵な楽曲です。

青春ラブストーリー映画の舞台裏「生きた環境で撮影できた」

(C)2025『か「」く「」し「」ご「」と「』製作委員会

―監督として撮影を進めていくなかで、印象的なシーンはどこでしたか。

中川:演劇祭のヒーローショーのシーンです。

その日の撮影は長丁場で、遅い時間まで伸びてしまいスタッフもキャストも疲労困憊の空気が漂っていました。空気も少しピリピリしていた環境のなか、出口さんは感情芝居をしなくてはいけなかったんです。

感情芝居は撮影現場の空気感にも影響を受けてしまうから、「気持ちを作るの難しいだろうな」と思っていましたが、一発で決めてくれました。

本当にすごいなって感心しちゃって(笑)。本番で狙っているお芝居を一発でできるというのは一流の俳優さんが持っている資質だと思っているので、あの若さでそれができるすごさに驚きました。

「カット!OK!」と言った直後に、思わず出口さんに「すごいね」って声をかけてしまうくらい感銘を受けた瞬間でした。

―監督として、撮影現場で心がけていることはありますか。

中川:前作『少女は卒業しない』も同じでしたが、10代の心情をリアルに表現するにあたって、出演者たちがいつもの自分らしくいられる環境を作ることが重要だと思っています。

カジュアルで楽しい、スタッフさんを含めみんなで修学旅行しているような気分で撮影ができればいいなと思って臨んでいましたし、実際楽しそうにやってくださったので良かったです。

―その空気感を作るためのコツなどはありますか。

中川:僕の場合、出演者の方たちとたわいもない話を結構します。出演者たちのプロフィールも持っていますし、みんなの過去出演作も一度は見ているので、それにまつわる話もしました。

共通の話題でしゃべったりとか、色々な話をしています(笑)。

―俳優さんとコミュニケーションをとることで、作品にも良い影響がありそうですね。

中川:そうですね。実際に話したことで少しセリフを変えることもあります。

今回の現場では奥平君とは特によく話したと思います。奥平君が演じている大塚京という人物は、物事をネガティブに捉えてしまうことで独特の発想に至り、突拍子もない行動をしてしまうみたいなこじらせたキャラクターだったので、理解するのが難しい箇所がありました。

撮影でも奥平君と一緒に役柄を探りながらという感じでした。演じるのが難しい場面は奥平君から相談してくれました。

(C)2025『か「」く「」し「」ご「」と「』製作委員会

―今回の映画の撮影地についても教えてください。

中川:新潟県の高校をメインで使わせてもらいました。新潟のみなさんには差し入れとして毎日新潟のご当地アイスを持ってきていただいたり、最後には地酒を配ってくれたり、全面協力していただいて、ありがたかったです。

あとは、メインキャストの5人が撮影で使った高校の校長先生と仲良くなっていました。撮影の休み時間いないなと思ったら校長室で喋っている時もあって(笑)。

「校長室クーラー効いてて涼しいんです」とか言いながら楽しそうに話していました。本当に協力的で楽しく撮影をさせてもらいました。

―実際の高校を使って撮影されたのですね。

中川:スタジオや廃校ではなく、実際に使われている高校で、生徒さんが夏休みのタイミングや空いている時間に校舎を使わせていただきました。

そういう「生きた環境」で撮影できたのも良かったです。

高校だけでなく、修学旅行先の博物館なども全部、今も稼働している施設で撮影できたのはすごく贅沢でした。

撮影した環境自体がリアルであるからこそ、共感しながら映画を楽しんでいただけたら嬉しいです。

―10代の方々に深く刺さる作品だと思いますが、この作品の公開を待っている方へメッセージをお願いします。

中川:この作品は高校生を通して人の心や内面にフォーカスを当てているので、確かに10代の方には特に見てほしいと思っています。

人の心は目に見えないから、心の中で、例えば嫉妬心や妬みなどのような、ネガティブなことや良くないことを考えてしまい、そんなことを考えている自分を嫌悪してしまうこともあります。

大人になってみると、意外とみんなそんなもんだって分かりますが、10代だと人生経験も少ないから自分だけが悪い人間なんだと悩んでしまうこともあると思いますし、まさにそういうところを描いた作品なんです。

この作品を通して5人を見ると、そういう悩みを抱えているのは自分だけじゃないと理解してもらえると思います。

そして、それがこれからの時代、これからの世界を生きていく中での勇気や支えとなればいいなという気持ちを込めてこの映画を作りました。

この作品を見て、「自分だけじゃない」そう感じてもらえたら嬉しいです。

「映画作りは団体競技」中川駿監督の映画との向き合い方

(C)2025『か「」く「」し「」ご「」と「』製作委員会

―公開が待ち遠しいという声がSNSで多く見られました。公開を控えた今のお気持ちを教えてください。

中川:改めて原作ファンの多さに驚いています(笑)。

不安を感じるときもありますが、大丈夫だと思いながら作りました。

―本当に原作ファンがたくさんいらっしゃいますよね。

中川:今回は特に原作者である住野先生の思いも汲みながら作っていきました。

「監督・脚本:中川駿」と名前が載る以上、この映画の責任を負うのは僕ですが、原作があり原作ファンも大勢いらっしゃる以上、原作者の思いや考えには歩み寄らなくてはいけないと思いました。

原作者さんによって映画化に対する考え方も違いますし、まず最初は、映像のプロとして僕なりの思う形でプロットを提出し、リアクションを受けながら脚本にしていく段階で直していくという感じで進めました。

―映画『少女は卒業しない』でも、中川監督は心情の描き方がすごくリアルだと感じました。心情描写に関してのこだわりなどはありますか。

中川:全然実感はないです(笑)。

でもひとつあるとすれば、僕には姉がいるんです。姉の少女漫画を読んで育ってきたので、心情描写には敏感な感性なのかもしれません。

あと、若い俳優さんが主体的に作品作りができるように意識しています。

僕はどんどんおじさんになっていくから、自分の感性で映画を作れば作るほどリアルな世代の感性と離れていってしまいます。自分の書いた脚本が絶対正しいというわけでもないので、「腑に落ちないところ、こうしたいということは言って」と毎回最初に伝えているので、それがうまく働いていたらいいなと思います。

―『少女は卒業しない』が韓国で上映されるなど、世界に飛び立っているイメージがあります。

中川:世界に行けたらいいなとは思います。国際映画祭で評価されて日本に凱旋上映という形でもいいですが、理想は日本でヒットした作品が海外でも評価されるというパターンです。

「海外でグランプリを受賞したのはどんな映画なんだろう」と見に行くと、すごく高尚でアーティスティックな世界観でよくわからなかったという時もあるじゃないですか。

それだと「映画ってよくわかんないな」と感じてしまいますし、映画から人が離れていってしまいます。

だから、日本で「この作品すごく面白い」と大ヒットとなった作品がちゃんと世界で評価されれば「僕たちの感性って正しいんだ」とお客さんに自信を持ってもらえると思うので、「日本でのヒット作が海外でも評価される」という経路をたどれるような映画が作れればいいなと思っています。

―中川監督が、これからどういう監督になりたいかなどの目標を教えてください。

中川:「自分が絶対じゃない」という感覚はこれからも大切にして映画を作っていきたいです。

僕は学生時代から映画を作っていたわけではなく、社会人になって脱サラしてから映像の世界に入り、ようやくそこで映画の勉強を始めて今に至ります。

ずっと映画を勉強していた方と比べると、僕は全然映画のことを知らないし、映画に向き合ってきた時間も短いです。

経験が浅い新参者だから、自分が絶対正しいわけではないという自負があります。作品を重ねていくうちに横柄になってしまうのは嫌なので、このスタンスのままこの先も映画を作っていけたらいいなと思います。

映画作りは団体競技なので、エゴイスティックにならないこと。人の意見にちゃんと耳を傾けられる大人でいることを続けていきたいです。

中川駿(なかがわしゅん)プロフィール

1987年生まれ。
大学卒業後、イベント制作会社を経て独立。イベントディレクターとして活動する傍らで、ニューシネマワークショップにて映画制作を学ぶ。自らが脚本・編集・監督した短編『カランコエの花』(2016)はレインボー・リール東京~東京国際レズビアン&ゲイ映画祭でグランプリを受賞したほか、国内の映画祭を席巻。現在でも多くの企業や教育機関研修等で教材として、LGBTQの理解促進に貢献している。その他、過去の監督作品は『time』(2014)、『尊く厳かな死』(2014)、『UNIFORM』(2018)、初の長編監督作『少女は卒業しない』(2023)など。

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