読み書きできないまま大人になった夫が、定年後、ずっと支え続けてくれた妻にラブレターを書くために夜間中学へ通って文字を学ぶ――。実在する西畑夫婦の感動のエピソードを描いた作品『35年目のラブレター』。
夫・保(笑福亭鶴瓶)に寄り添う妻・皎子(きょうこ)を演じた原田知世さんにインタビュー。
昔と変わらず、透明感があって優しい雰囲気を持つ原田さんも今年57歳。そんな原田さんの考える“愛”と、50代からの暮らしについてお伺いしました。
映画『35年目のラブレター』作品紹介
2025年3月7日(金)公開
読み書きできない夫と幸せを教えてくれた妻の人生を描く心温まる感動の実話。
過酷な幼少時代を過ごしてきたゆえに、読み書きができないまま大人になってしまった主人公・西畑保。保を支え続けたしっかり者の妻・皎子(きょうこ)。
仲良く寄り添うように生きてきた2人。定年退職を機に、保はあることを決意する。
最愛の妻にこれまでの感謝を込めた“ラブレター”を書く――。
60歳を超えた保の長い奮闘の日々が始まった。
夫・保を笑福亭鶴瓶さんが、夫を支える妻・皎子を原田知世さんが好演。また若き日の保と皎子を重岡大毅さんと上白石萌音さんが演じる。

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夫婦の物語を越えて、家族や大切な誰かを思う全ての人へ届く映画

―今回の映画のテーマは夫婦愛。定年後に夜間中学で文字の読み書きを習い始める保さんと、それを支える皎子さん。2人をとりまく周囲の人の優しさ…。見終わって、温かい気持ちで心がいっぱいになりました。
原田知世さん(以下、原田):脚本を読んで本当にすごく素敵なご夫婦のお話だと思いました。舞台が奈良県なので関西弁での演技が少し不安でしたが、鶴瓶さんと夫婦役をやらせていただくこんなチャンスはないと思い、参加させてもらうことを決めました。
この作品に出会ってはじめて、映画のもととなった西畑保さんの実話を知ったのですが、大人になってからでも何かを始めて、達成することができるのだと希望が持てるお話でした。
―おしどり夫婦の話ではありますが、映画の根っこにあるのは「人を思いやる気持ち」。ご夫婦はもちろん 、独身の人、若い世代…。どんな人の心にも刺さる映画のような気がしました。
原田:私もそう思います。映画を通して「人を愛するってどういうことだろう?」と考えさせられました。
他者の喜びを自分のことのように心から喜べること。それは子どもに対しても、親に対しても、自分を大切に思ってくれる人に対しても同じだと思います。その湧き上がる思いこそが“愛”なのかなと。だから、夫婦や恋人であることはあまり関係がない気がします。
この映画では、たまたま夫婦という形で描かれていますが、同じような思いを抱ける相手がいるということ自体が、奇跡のようなものですよね。
いろいろな方から寄せられる映画の感想の中に、若い女性の「母に感謝の手紙を送りたくなった」というコメントがありました。きっと映画を見てくださる世代ごとに感じ方は違うかもしれませんが、共通しているのは「大切な人を思う気持ち」や「感謝の気持ち」なのではないでしょうか。
―今回、原田さんが演じられた皎子さんのイメージは、いつも自然体の原田さんとも重なる印象を持ちました。

原田:皎子さんは、お姉さんに大切に育てられ、無償の愛をたくさん受けてきた方です。だからこそ、その愛を誰かに返すことができる。
私も末っ子で、家族が助けてくれる環境で育ちました。そういう意味では、私自身も愛をたくさん与えられてきた人間なんだと思います。
この仕事を続けてこられたのも、家族の支えがあったからこそですし、今になってその愛の大きさや大切さをより深く理解できるようになりました。
―皎子さんの役を演じて、何か感じることはありましたか。
原田:私もこうして年を重ねて、「人を思う心」がどういうことなのか、本当の意味で分かってきたように思います。心の底から愛せる人と出会えるって、素晴らしいことですよね。
そして、人生にいろいろな問題が起こっても、誰よりも応援してくれて、味方でいてくれる人がそばにいるだけで、人間って頑張れる。
私自身も、家族を含め、そういう人たちが自分の周りにいるからなおのこと、皎子さんの思いがよく分かるのだと思います。
鶴瓶さんはじめ、重岡さん、上白石さん…素晴らしい俳優陣に囲まれて

―夫の保さんを演じられた鶴瓶さんの魅力や、撮影中の思い出に残っているエピソードがあれば聞かせてください。
原田:鶴瓶さんは本当に人間味があって、チャーミングで、誰に対しても親しみを持って接してくれる方です。テレビで見ているままの、温かい方ですね。本当に感性の豊かな方で、素晴らしい役者さんです。
初日から一緒にいるのが楽しくて、何か「役を作ろう」とかではなく、皎子さんが保さんを見ていたように、私も鶴瓶さんを見て感じるだけでいいのかもしれない、と思いました。
物語自体は日常が描かれています。だからこそ、鶴瓶さんと一緒に夫婦の空気感やテンポを大切にしています。ワンシーンの積み重ねひとつひとつが、最後に大事な思い出のひとつひとつになる。
作品ももちろん素晴らしいですが、鶴瓶さんと共演できたからこそ、私の「皎子さん」が生まれたのだと思います。ご一緒したのは短い時間だったのに、まるで長い人生を共に歩んだような、愛おしさを感じさせてくれる方でした。
―若き日の夫婦役を演じた重岡さんと上白石さんについては、どのような印象をお持ちでしたか?
原田: お2人ともとても魅力的な方々ですね。上白石さんはもちろんのこと、重岡さんもハートのあるお芝居をする方で、どちらも素晴らしい俳優さんだなと思いました。
撮影のセットでは、過去と現在のシーンを同じ建物で撮影していて、若き日の二人の撮影が先、私たちの撮影が後だったんです。
セットの部屋に入って、若い頃の保さんと皎子さん(重岡さんと上白石さん)の夫婦写真を見た瞬間にどこか胸がキュンとするような、時間を超えたつながりを感じました。
この家で若いふたりが過ごした日々が浮かんで胸が熱くなりました。ご一緒する場面はほとんどなかったですが、それが道標となって過去と現在を繋いでくれたと思います。
―今回の映画は、読み書きのできない保さんが夜間中学に通って学び直すシーンが描かれますが、年齢を経てからの学び直しについてどう思われますか?
原田:とても素晴らしいことだと思います。実は私も、筋トレやストレッチ、ボイストレーニングを学び直しているんですよ。
この年になると、習いごとの先生は年下の方も多くなってきますが、先生は先生です。情熱を持って教えてくれる方々に出会うと、「もっと学びたい」と思えますね。
若い頃は「伸びしろがあるのは当たり前」と思っていましたが、年齢を重ねてもまだまだ伸びしろがあることに最近気づきました。そう思えると、人生がもっと楽しくなる気がします(笑)。
芸能生活も43年め。これからは仕事だけでなく、自分の時間を豊かにしたい

―原田さんも今や57歳。長いキャリアを経て感じる“50代の楽しみ方”があれば教えてください。
原田:私は数年前にデビュー40周年を迎えたんです。我ながら「本当によくやってきたな」と思いました。
だからこそ、ここから先は、自分が本当にしたいことをし、自分自身の時間をもっと豊かに過ごしたいなと思って。年々時間の流れが早く感じられるようになりましたし、健康寿命のことを考えると、「あとどれくらい楽しめる時間があるのかな」と思うことも。そう思うと、1日1日が本当に大事だなと実感するんですよね。
これまでは常に仕事のことばかり考えていたけれど、今は「仕事じゃない時間は、一切仕事のことを考えない」と決めています。時間を区切って、自分を豊かにする時間や楽しいひとときを大切にしよう――。50代になってから、そう考えるようになりました。
―女性は40~50代になると体調が揺らぎやすくなりますが、原田さんはどう過ごされていますか?
原田:そういう時期は誰にでも訪れるものだと思うので、あまりネガティブに考えないようにしています。
体調が悪いときは、「今日は無理しなくてもいい」と思うようにしていますね。「今日中にこれをやらなきゃ」と思いすぎると、それがストレスになるので、なるべく自分を追い込まないようにしています。
体調の良いときにまとめてやればいい、というくらいの気持ちでいると楽になりますよ。
―年齢を自然に受け入れていらっしゃるんですね。普段、食事など何か気を付けていることはありますか?
原田:食べるものも、あまり制限しすぎないようにしています。「これを食べちゃダメ」と思うとストレスになるので。
ただ、食べ過ぎると良くないので、腹八分目を意識しています。本当は七分目がいいのかもしれないけれど、食べるのが好きなので、どうしても食べてしまうんですが(笑)。
―オフの時間はどんな風に過ごされているのでしょう。
原田:実は50歳からゴルフを始めました。
練習にも行きますし、練習に行けないときはYouTubeでレッスン動画を見たり、先生の動画をチェックしたり。時間ができたらコースに出ることもあります。
ゴルフをしている間は、仕事のことを一切考えなくて済むんです。それくらい集中するので、いいリフレッシュになりますね。仕事が忙しいときほど、少しでもゴルフをすると、頭の中のスイッチを切り替えられるので、すごくいいですよ。
―仕事もプライベートも充実しているのが伝わってきます。最後に、今後の活動の展望をお聞かせください。
原田:仕事に関しては、コンサートや音楽活動を続けていきたいですね。ライブなどで、ファンの方と直接会える機会も大切にしたいと思っています。
あとは、健康でいること。心身ともに良い状態を保って、また素晴らしい作品に出会えたときに、全力で挑めるようにしておきたい。
今後については、特に大きな目標は立てていませんが、そのときどきの自分の気持ちを大事にしながら、過ごしていきたいと思っています。

原田知世(はらだともよ)プロフィール
1967年11月28日生まれ、長崎県出身。1983年、映画『時をかける少女』(大林宣彦監督)でスクリーンデビュー。以降、多数の映画、ドラマに出演。そしてドキュメンタリー番組などのナレーションを担当するなど幅広く活躍。主な出演作に『落下する夕方』(98)、『サヨナラCOLOR』(05)、『紙屋悦子の青春』(06)、『しあわせのパン』(12)近年では、『星の子』(20)、『砕け散るところを見せてあげる』(21)、『あなたの番です 劇場版』(21)などがある。また、歌手としてもデビュー当時からコンスタントにアルバムを発表し、鈴木慶一、 トーレ・ヨハンソン、伊藤ゴローなどさまざまなアーティストとのコラボレーションが話題に。24年11月にはミニアルバム『カリン』をリリース。
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取材・文:小澤彩
撮影:髙橋耀太