ふんわりとやわらかい雰囲気をまといながら、思ったことをずけずけという若者を好演。映画『三日月とネコ』で、主人公を演じる安達祐実さんの同僚・優香役を演じている女優の日高七海さんにインタビューしました。
高校生の役もこなすほど役の幅の広い彼女は、2024年も多くの作品に起用されています。「こんな子、いるいる!」という今どきの女性像を巧みに表現する、大注目の個性派女優の素顔に迫ります。
現代女性の生き方を描く作品。要所要所に、日高さんのセリフが響く
映画『三日月とネコ』作品概要
「第1回anan猫マンガ大賞」の大賞受賞作『三日月とネコ』(集英社マーガレットコミックス刊)の実写映画化。
熊本地震をきっかけに出会った、恋人でも家族でもない、境遇もバラバラな猫好き男女3人暮らし。書店で働く40代お一人様女性の灯(あかり・安達祐実)は、30代精神科医師の鹿乃子(かのこ・倉科カナ)、20代のアパレルショップ勤務の仁(じん・渡邊圭祐)、みんなの愛猫のミカヅキと仲良く暮らしています。ごく普通の人生を歩んできた灯にとって、人生で一番【普通ではない生活】をしているものの、その生活はとても楽しくて……。
三日月の様に満ちていく途中の、迷えるオトナ3人と愛おしい猫の共同生活物語。日高さんは、安達さん演じる書店員・灯の同僚女性・優香を演じています。
―『三日月とネコ』、拝見しました。とても温かい映画で、見終わって幸せな気持ちになりました。
日高七海(以下、日高):これまではいじめっ子の役や、感情が激しめの役が多かったので、こういうコミカルな役がとても新鮮で、演じられることがうれしかったです。
―全編を通して、猫がもうめちゃくちゃ可愛くて癒されました。
日高:本当に可愛いですよね~!私の撮影は東京だけで、猫ちゃんとの絡みがなかったので完成を見て本当に羨ましかったです。
―序盤で、高校生におばさんと言われた灯(安達祐実さん)に対して、優香が「おばさんなんて失礼すぎますよね、40代の独身女性に向かって…」と話すシーン。安達さんの曇った顔を見ていて、どストレートに傷をえぐるな、とヒヤヒヤしてしまいました(笑)。
日高:あのセリフは、上村監督から「意地悪な感じじゃなく、ただ純粋に灯を心配しているような雰囲気でセリフを言ってみて」と言われて、あんな感じになりました。
―現場はどんな雰囲気だったんですか。
日高:いつも和気あいあいとした雰囲気で、撮影現場は本当に楽しかったです。私は宮崎出身、倉科カナさんは熊本のご出身で、九州つながりだったので、撮影中によく故郷の話で盛り上がりました。
私が好きなのは居酒屋のシーン。小林聡美さんが演じる小説家のすみ江さんが「楽に生きましょう。蝶よ花よと自分をたたえて褒めそやすの」と言う場面は、現場にいながらグッときました。
年上なのに自由で寛容な考え方のすみ江さんと、人生経験がないのに固定概念で話す優香という役と。映画を見ながら比較してもらえたら、きっと面白いと思います。
ピアニストになれと言われながら、本当は映画の世界に進みたかった少女時代
―日高さんは、大学を卒業されてから本格的に女優の道を進まれていますよね。小さい頃から女優志望というわけではなかったんですか?
日高:そうなんです。演技の勉強は全くしていなくて、大学を卒業して事務所に入ってから、ワークショップなどで勉強していきました。でも小さい頃から映画が大好きだったので、映画に関する仕事には就きたいとは思っていました。
―どんなジャンルの映画が好きだったんですか。
日高:私は黒沢清監督のオタクなんです。あとはポン・ジュノ監督とか…人間の怖さが描かれている作品が好きですね。俳優の緒形拳さんもすごく好きで、緒形さんのちょっとセクシーな映画を観て育ちました。
―日高さんにとって映画の魅力とは?
日高:私、まず映画館というもの自体がすごく好きなんです。
スクリーンだけの逃げられない空間に閉じ込められて、観ている人みんなが共犯者となって、1人の人生を観るというのがすごくいい。
映画館にいる時間は、私にとっては現実逃避であり、観終わると、映画が自分の性格や生活の材料のひとつになる感覚があって。映画を1本観るだけで、自分の中に何かの成分が増えていく…その感じがたまらなく好きです。
小さい頃は、私が母を映画館に連れて行く感じで、徐々にひとりでも映画を観に行くようになっていきました。
映画館の館長と仲良くなって、「ひとりで観に来たの!」と褒められる。なんだかかっこいいな自分、みたいな、ある意味ステータスのようになっていた気もします。
―どんな少女時代を過ごされたんでしょう。
日高:父は介護関係の仕事、母は幼稚園の園長という共働き家庭で、私は祖父母の家で過ごすことが多かったです。
祖父は県議会議員で、祖母は小学校の先生から専業主婦になった人。2人ともお堅くて、「公務員かピアニストかお医者さんか、どれかになりなさい」と言われて育ちました。
―ピアノはコンクールで優秀賞をとるほどの腕前ですよね。
日高:優秀賞をとったのは中学2年のときだったかな。ピアノは好きではなかったのですが、負けず嫌いなのでコンクールでも負けたくなくて、練習していたようなものでした。
そのうち、高校受験で東京の音大付属高に行くために、宮崎から東京の先生のところまで、飛行機を使ってレッスンに通うことになってしまったんです。
でも私はその頃から、監督、照明部、撮影部、どんな形でもとにかく映画に関わる仕事に憧れていました。
「ピアニストになりたくないのに、これ以上お金をかけさせるわけにはいかない」と思って、「本当はピアノをやりたくない」って母に泣いて伝えました。
その時点で祖父母はきっと、「ピアニストではなく公務員か医者」に私が方針転換したつもりでいたと思うのですが、私は映画関係の道が頭にあったので、とりあえず東京の大学に入って将来を模索するはずでした。
それなのに周りに流されつつ、就職活動をして、複数の内定もいただいて。その時になってようやく「あれ、私はなんで東京に来たんだっけ?」って。
たまたま、NCW(ニューシネマワークショップ)という映画学校の卒業制作のオーディションがあるのを知り、「試しに受けてみるか」と行ったら主役に選んでいただきまして。
いざ撮影現場に行くと、これがすごく楽しかったので、就職している場合ではないと、内定をいただいていた会社に辞退のお手紙を書いたんです。
スクリーンの中で自分じゃない人間になって、言葉を発するのがすごく楽しかったし、お客さんの反応を見るのも好きだった。私がやりたい仕事は女優だったんだって、腑に落ちた感じがしました。
―初めての映画撮影が主役なんて緊張しそうですが、それは大丈夫だったんですか。
日高:私、あまり緊張しないタイプなんです。就活の面接も緊張しなかった。多分、自分にあまり期待していないんですよね。自分が200%の力を出せるなんて思っていないからドキドキしない(笑)。
これを越えてやるぞ、みたいな感じはなくて、「なんだ、思ったよりできたな」っていうことが多いんです。誰も私のことなんか見てないよ、と思っているからかな(笑)。
めちゃくちゃ美人だったら、いつも人に見られている気がしちゃうかもしれませんが、私は見た目がすごい平凡だから、そこが逆の意味でプラスというか。周囲からの期待値はそんなに高くないと思えて、緊張しませんでした。
さりげないスキンシップで共演者との距離を縮める
―おじいさま、おばあさまは、日高さんが女優をやっていることはもうご存知なんですか。
日高:祖父母は、私が東京の大学へ行ったところまでは知っていて、その後、普通に就職したと思っていたんでしょうね。映画『ステップ』が公開されて、映画を見た人が「七海ちゃんが出てるよ」って伝えてしまった。
その年に宮崎キネマ館という映画館で、私の映画特集も行われ、地元・宮崎日日新聞の新聞記事からもばれました(笑)。
―でも、ばれたのが女優になったあとでよかったですね(笑)。
日高:ホントにそうです!もっと早い時期に気づかれていたら、絶対に止められていたと思う(笑)。私の本気をスクリーンで見て、祖父母も、「もういいよ」ってなったと思います。
―女優をやっていくうえでのこだわりとか、心がけていることはありますか。
日高:私は共演者の方と仲良くしたいので、できる範囲で演技の中でスキンシップを図るようにしています。なぜか人に触れていると落ち着くんです。
撮影の序盤で、演技の中でさらっと共演する人の手首を触ってみる(笑)。普段から仲良しという設定なら、1回も手に触れていないのって変だとも思いますし。
実は『三日月とネコ』の撮影でも、私がセリフを間違えたときに「間違えちゃった!」と安達さんに抱きついてしまいました(笑)。もちろんそんなことをするのが無理な現場もありますが、相手役の方と現場でもいい関係をつくることは心がけています。
あとは、常日頃から人間観察をめっちゃしているかもしれない。ものまねが好きなんです。
アラサーの私が高校生の役をやることになったときも、こそっと共演者の高校生たちの様子を観察しながら、演技の参考にさせていただきました。
学生時代が平和だった私には、いじめっ子の高校生役がなかなかイメージできなかったので、現役高校生の仕草やしゃべり方をチェックして若い子の要素を演技に取り込んだりしました。
―目標としている女優さんがいたら教えてください。
日高:私、樹木希林さんみたいな存在感のある人になりたいなと思っています。希林さんの演技もめちゃめちゃ好きだし、ちょっとわがままな考え方、生き方もとっても好き。あんなふうに年をとれたらいいなと思っています。
―最後に、『三日月とネコ』をどんな人に見てほしいですか。
日高:灯さんと同世代の方にももちろん見ていただきたいのと、20~30代の方々にも見てほしいです。
社会の流れや固定概念、昔の人たちが作ってきた流れにとらわれる必要はないんだ、っていうメッセージに、私自身ウルッときたし、安心したから。
この年齢になったらこうしなくちゃいけない、とか、遠距離の彼氏と付き合ったら、仕事をやめて彼氏のもとに行かなくちゃいけない、とか、そんなのどうでもいい。もっとワガママしていいんだよ、年齢とか誰も見ていないし、関係ないよ、っていうのが誰の心にも響くと思います。
日高七海(ひだか ななみ)プロフィール
4月28日生まれ、宮崎県出身。映画『ブルーイマジン』、『銀平町シネマブルース』、『幕が下りたら会いましょう』、『ステップ』、『左様なら』、ドラマ『孤独のグルメSeason10』(テレビ東京系)、『東京ラブストーリー』(FOD)ほか出演多数。2024年も公開映画が複数待機中。特技はピアノ(西日本コンクール本選優秀賞)、剣道(初段)、文章、絵、韓国語。
●X @n2ynana
●インスタグラム @nanami.hidaka.71
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取材・文:小澤彩