女優・伊藤万理華。R15青春映画『オアシス』公開。記憶障害を抱え、血まみれで疾走。「芝居では、いい顔をしない」

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乃木坂46卒業後、映画祭での最優秀女優賞受賞やNHKドラマ主演など活躍されている伊藤万理華(いとう まりか)さん。デビュー時の個人PV『ナイフ』での、思春期の繊細な演技で人気に火がつきました。今回の『オアシス』では、危なくも切ない大人の青春物語に挑戦。撮影秘話と主演の清⽔尋也さんと高杉真宙さんのアクションシーンの見どころなどを伺いました。

映画『オアシス』作品紹介

©2024『オアシス』製作委員会

ともに青春時代を過ごした幼馴染だったが、“ある事件”をきっかけにバラバラの人生を歩んでいった富井と金森。現在は、地元のヤクザ・菅原組の構成員と犯罪組織のメンバーとして一触即発の関係になっていた2人の前に、互いの心の拠りどころであり、“ある事件”から記憶障害になっていた幼馴染・紅花が現れる。さらに、彼女が組長の一人息子をめぐる事件に巻き込まれたことにより、3人は組織から追われる身になってしまう……。

11月15日(金)〜 新宿武蔵野館ほか全国順次公開

(※『オアシス』公式サイトより引用)

私に頂けると思っていなかった役で、最初は不安もありました

―『オアシス』は、とてもハードなアクションシーンのある映画で、最後まで引き込まれて、ドキドキしながら観ました。伊藤さん演じる紅花(くれは)は、富井役の清⽔尋也さんと、金森役の高杉真宙さんの幼馴染役ですね。

伊藤万理華さん(以下、伊藤):幼馴染3人の友情物語で、私が演じる紅花は記憶障害を抱えています。ハードなテイストの作品には今まで出演したことがなかったので、岩屋拓郎監督からお話をいただいた時は、とても驚きました。

―監督は「圧倒的な存在感」のある俳優を探していて、伊藤さんにたどり着かれたそうですね。

伊藤:今年出演したNHKのドラマは、真逆のキャラクターでした。今までの自分の芝居とは違うので、“監督はなぜ自分にオファーしてくださったのだろう?”と不安もありました。

『オアシス』は岩屋監督の長編デビュー作、監督のルーツである名古屋が舞台なので

“監督が「一番大事にしたいもの」”を映画にされたのではないかなと、脚本を読んで物語を深く知っていきました。

―監督が映画の中で、「一番大事にしたいもの」を、どういう場面で表現していると感じられましたか?

伊藤:『オアシス』は幼馴染3人の物語で、秘密基地が登場します。秘密基地に憧れがある方もいると思うのですが、秘密基地のシーンは、「青春時代の友情」の象徴のようだと感じました。

あとは幼少期から大事にしたい関係性がずっと描かれています。富井と金森と紅花、3人の揺れ動く感情がすごく青く、痛々しさにリアルさも刻まれていて切ないです。友情を描きたいということを強く感じていました。

主演の清水さんと高杉さんにすべてを委ねて、記憶障害の紅花を演じた。

©2024『オアシス』製作委員会

―今までの伊藤さんのご出演作とは真逆のキャラクターなので、お芝居の幅をたくさんお持ちで凄いなと思いました。どのように役づくりをされましたか?

伊藤:監督の地元で撮影をしたのですが、撮影前に、監督が時間を作ってくださって、ロケ地や学生時代を過ごした場所を一緒に巡って『オアシス』に登場する街を歩きました。

歩きながら、監督からたくさんの想い出話も伺いました。私が演じる紅花も同じ街に住んでいるので、その土地の空気と一緒に監督の記憶を辿って紅花に馴染ませていくことが出来ました。この体験が役作りの助けになりとても良かったと思います。

―今回は記憶障害がある役ですが、その役作りはどうされましたか?

伊藤:記憶障害に関する資料はたくさん読みましたが、紅花は記憶障害という認識がないので意識しすぎないようにしていました。

撮影の時は “記憶がない紅花が幼馴染の2人と過ごしていく過程で、なぜか昔の記憶が存在する気がしてくる。”という一瞬の感情の変化を感じとることを一番大切にしながら芝居にしようと思いました。

お芝居をこうしていこうと決めず、主演の二人の空気感に合わせて、その流れの中で芝居をアウトプットしてみてOKかどうかを監督に委ねました。

初めての役柄でだったので、「大丈夫かな?」と不安もありましたが逆にそれがよかったのかもしれません。

―主演お二人とのエピソードを教えてください。

伊藤:清水さんは、初めての共演でした。とても真面目にストイックにこの作品に向き合っていらっしゃったのをかんじました。集中している現場でも、明るく私に話しかけて下さって、気持ちがほぐれてリラックスできました。

―高杉さんとは共演されたことがありますか?

伊藤:だいぶ前に、ご一緒させていただきましたが、同じシーンはそれほどありませんでした。

今回、実際に長く現場をご一緒して、高杉さんは信念がとても強い方なんだなと。一人でいてもすごく強くいられる方です。撮影現場の空気を作って引っ張ってくださいました。

あと、感動したことがあって、菅原タケル役の青柳翔さんがご自身の撮影が終わった後、スタッフさんとして映画の制作に参加されていたんです!

とても驚きましたし、愛がある方なんだなと思いました。それもあって私もビデオを回したり、メイキング撮ったりしました。

―男性陣のアクションシーンをご覧になってどうでしたか?

伊藤:もう、迫力がとてつもなくて!

現場でアクションシーンを見学していたのですが、カメラワークを意識しながらの芝居で、大変だろうなと思いました。

かなり血を出しているので撮り直すことが難しく、撮り直しなしのワンカットで撮るシーンもありました。

監督も事前シミュレーションを入念にされていました。みんなが息を合わせないと成立しないシーンでした。

あとで映像を見たときに、カッコいい!と震えました。私もこんなに動けたらいいのにと(笑)。

―ほかに、印象に残っているシーンを教えてください。

伊藤:秘密基地のベンチで3人で喋っている時の言葉。あと、最後の方のシーンでネタバレになるから言えないんですけど、ある重要な決断をした後の紅花のセリフなんですが、演じている間に切なくなってしまいました。

―あそこのセリフは泣けました…

伊藤:その一言のなかに、たくさんの想いがこめられています。ここでは言えないので、映画館でその言葉を聞いてもらえたら嬉しいです。

乃木坂を卒業した今、お芝居で大切にしていることは、いい顔をしないこと

―乃木坂46の頃はアイドルで活躍されていました。女優になられてから、大切にされていることは変わりましたか。

伊藤:お芝居をする時は、いい顔をしないことを大切にしています。

―たしかに、お芝居はリアルが求められるので、自分を可愛く見せる笑顔のアイドルとは反対ですよね。

伊藤:実は、そういうの不器用で(笑)。

役者は、ただリアルな人間としてそこにナチュラルな姿で立ちます。そのリアルが嬉しくて大好きです。

―『オアシス』でのご自身の演技をご覧になっていかがですか?

伊藤:そうですね。いいとか悪いとかは、自分では難しいので観た方に委ねたいです。撮影していた頃は、自分の演技についていろいろと考える時期で迷いがありました。それが顔に出ているなと思いましたし、迷いのせいか、演技に幼さがありました。

ただ、幼さが残る大人の青春をこの映画で、感じてもらいたいとも思っています。多分もっと大人になった自分にはできない役だった。

―この作品への伊藤さんの想いを聞かせてください。

伊藤:R15で、アクションがあって、大人たちが全力で創り上げた青春映画です。

映画だからここまで暴れられます。プロフェッショナルのみなさんが集まって最高なものを創っているのに、その中に青さを感じられることも魅力です。不器用な登場人物で、私も荒削りな空気感で演じています。主役のお二人も私も、今の年齢だから出せる空気感だと思います。

この作品を通じて、何かに憧れてしまうこととか、自分が守りたいものってなんだろうと思い出してもらいたいです。

―最後に、今後の目標について伺えますか?

伊藤:映画は好きなので、映画の現場にはずっといたいです。

俳優としては、今までしたことがない雰囲気の役を食わず嫌いしないでチャレンジしたいです。

伊藤万理華(いとうまりか)プロフィール

1996年生まれ。神奈川県出身。乃木坂46の1期生としてグループを牽引し、個人PVの『ナイフ』での演技が話題となる。2017年卒業後、俳優として映画やドラマ、舞台で実績を積み重ねる。2021年のTAMA映画賞において、主演映画『サマーフィルムにのって』『息をするように』が高く評価され、最優秀新進女優賞を受賞。近年は、アートの方面でも才能を発揮し、10組のクリエイターとコラボした大型書籍『LIKEA』を刊行、アートカルチャーの最前線をキャッチし続ける。

【映画】『サマーフィルムにのって』(2021年)主演、『チャチャ』(2024年)主演、『オアシス』 (2024年11月公開予定)
【舞台】『DOORS』倉持裕演出(2021)、『宝飾時計』根本宗子演出(2023)
【ドラマ】『お耳に合いましたら。』テレビ東京(2021)地上波連ドラ初主演、
『燕は戻ってこない』NHK(2024) 、『パーセント』NHK(2024)主演
【ショートムービー】『ナイフ』(柳沢翔監督)、『息をするように』(2021)
【写真集】ファースト写真集「エトランゼ」集英社(2018)
【雑誌】「装苑」文化出版局 連載 伊藤万理華のときめき録
【書籍】「LIKEA」PARCO出版(2022年12月20日)

●Instagram @marikaito_official

●HP       https://itomarika.com/s/m03/?ima=3003

 

文:姫田京子

撮影:天倉悠喜

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