札幌国際短編映画祭の発起人・久保俊哉 短編映画を原点に、映画に生きる姿とは

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札幌国際短編映画祭の発起人にしてエグゼクティブプロデューサーの久保俊哉(くぼとしや)さん。この映画祭を立ち上げた理由やそこに込められた想いをお伺いしました。

「映画の歴史は短編映画から始まっている」札幌国際短編映画祭の誕生秘話

ー札幌国際短編映画祭というのはどのような映画祭なのでしょうか。

久保俊哉さん(以下、久保):国際映画祭なので、日本だけでなく海外からも作品が応募され、そこから審査員たちによって選ばれた短編映画に賞を授与しています。

映画祭は映画祭でも、短編映画を扱うという特色を大事にしている映画祭です。日常生活のなかで、ショート動画や短い映像を見ることは多くても、短編映画を見る機会ってほとんどないと思います。

でも、短編映画を見た人は「これ映画だね」って言うんですよ。ただ上映時間が短いというだけで、映像の画質や演出が悪いということもないので、短編映画を見るのと長編映画を見るのとで、上映時間以外に違いはないんです。

ーなぜ短編映画なのでしょうか。

久保:僕にとって、映画の原点は短編映画なんです。僕はヒッチコック劇場というテレビシリーズが好きでしたが、これはテレビ番組だから30分もない番組なんですよ。

※ヒッチコック劇場:アメリカの映画監督アルフレッド・ヒッチコックが原作・プロデュースを手がけたミステリー作品を放送する番組

そもそも映画は長編が当たり前というイメージがありますが、映画の歴史は短編映画から始まっていると思うんです。3分や10分だったものを、1時間半、2時間以上と長くすることで収益を上げるという興行のシステムのなかで、長編映画が主流になっていっただけの話なんですよ。上映時間の長さというものは、本来映画には関係ないんです。

スピルバーグ監督やジョージ・ルーカス監督だって最初は短編映画を作っていました。映画を作ろうと思う方やこれから映画監督を目指す方の一番最初のステップとして、この札幌短編国際映画祭があるんです。

ー映画祭のなかで重要だと思うことはなんですか?

久保:ひとことで言うと、「様々な文化と表現の多様性」です。世界中には様々な文化があり、それに対応して映像での表現も多様であるはずなので、そこに“決めつけ”があると文化が成り立たなくなってしまうと思うんです。これは、この映画祭で募集している作品にジャンルの制限を設けていない理由のひとつでもあります。

色々な短編映画を見て「こういう視点もあるんだ」「こういう表現ができるんだ」という気づきを得られるような映画祭であってほしいです。

ボーダーレスな姿勢であるからこそ世界中の短編映画作品が札幌に集まってくるし、その作品を鑑賞できるということが、重要なことだと思います。

ーなるほど。今年は2000作品以上の応募があったそうですね。

久保:本当はこれでも絞っているんですよ。今までは一番多くて3800~4000作品近く募集があった年もありました。

応募を有料にして数を絞った理由は、より質の高い作品を集めたかったということと、4000作品ともなると、なかなかすべてを見るのが大変になるからなんですよね。

いただいた応募料を映画祭を開催するための資金にするという策がないわけではないですが、そういうことよりも僕らはより良い作品を集めてそれを見てもらいたいんです。

映画祭を盛り上げ支えてくれるボランティアの存在

ーこの映画祭のスタッフのみなさんにはボランティアが多いそうですね。

久保:そうですね。この映画祭は2006年から始まりましたが、実は2000年から2005年までは、東京中心だった別所哲也さんのイベントを「ショートショートフィルムフェスティバル in 北海道」という感じで札幌でも開催していたんですよ。

そのころから一緒にやっている方が今、札幌国際短編映画祭のプロデューサーになっています。あとは以前にこの映画祭に作品を応募してくれた方が今では実行委員として手伝ってくれていたり、僕は大学で講師をやっているのですが、その生徒もボランティアとして手伝ってくれていたり…。たくさんの人から力を借りて成り立っているイベントです。

ーなるほど。短編映画は馴染みのない人が多いと思いますが、集客が大変だったのではないですか。

久保:外から見ているだけでは、映画館で何をやっているのかがわからないんですよね。町の色々なところにポスターは貼ってありますし、今年でもう19回目の開催になりますが、「札幌国際短編映画祭」という名前を知っているだけでは劇場に見に来てくれない人も多いかもしれません。

そもそも「短編」という言葉から学生や素人が作った映画、小難しいアートフィルムというイメージを持ってしまう方も多いと思います。

でも実際に見てもらうと、「すごく面白い」と言っていただけますし、名前の通り“映画”として楽しんでもらえると思います。

「新しい才能を見出したい」魅力的な企画を打ち出す主催者の想い

ーこの映画祭を開催するにあたって意識していることはありますか

久保:少しでも多くの方に見てもらえる機会を作るために、色々な企画を準備することです。例えば、今年はサツゲキ横の「空き地」という場所で野外シアターを作って映画を上映しています。映画館では来館した人しか短編映画を見ることができないので、無料で見られる野外の上映というイベントはどうしてもやりたかったです。

映像を見ながら「短編映画って面白いな」と思ってもらえるきっかけを作って、町を少しでもにぎやかにするということもこの映画祭にできることだと思います。

ーなるほど。野外スクリーンでの映画鑑賞も盛り上がっていましたね。

久保:そうですね。どんどん外にアピールしていかなければと思います(笑)。ただそこで何を上映するかも重要なんです。しっとりとした作品だと気づかずに通り過ぎてしまうから、アニメの短編映画を上映してみたり、有名な俳優さんが出演している映画にしてみたり、興味を持ってもらえるようなものを選ぶことで短編映画の魅力に少しでも気づいてくれたらうれしいです。

ー野外で気軽に短編映画を見ることで映画館に来てもらえるきっかけになりますね。

久保:多くの人が短編映画に対して先入観がありすぎるんだと思います。ただ上映時間が違うだけで、実際は長編と変わらない“映画”なんですよ。

ープログラム名が「映画好きもびっくり」「酔っ払いプログラム」というようにオリジナリティがある名前なのはなぜですか?

久保:作品一個一個のタイトルだけだと、どのような映画か全然わからないのでプログラムの雰囲気を掴んでもらうために名前をつけています。5分や10分で終わってしまう作品を集めて90分にまとめたときに、このプログラムはどのようなテイストなのかを分かってもらうためにタイトルをつけています。

「酔っ払いプログラム」は酔っ払った状態で映画を見るというだけで、「面白そう」「これはなんだろう」と思ってもらえます。伝わりやすいからこそ興味を持ってもらえるという意味と狙いからタイトル名を付けています。

ーこの映画祭で今後やりたい企画はありますか?

久保:いっぱいありすぎますよ(笑)。朝起きた時にパッと思いついてメモをしています。

例えば町全体を巻き込んで「市民審査員」を大募集したり、コメディ特集を作ってみたりしたいです。

この札幌国際短編映画祭は国際的なコンペティションであり、応募作品にジャンルの制限を設けないことで、新しい才能を見出したいという思いもあります。

だからドキュメンタリーもあればアニメーションもあって、というように自由なスタイルにしているんです。一般の方に見てもらうにはコメディ特集は魅力的ですし、今までの映画監督たちへリスペクトを込めた名作特集みたいなものもやってみたいです。

この映画祭は来年で記念すべき20周年を迎えるので、短編映画の魅力が伝わるような企画を考えて活動していきたいです。

久保俊哉(くぼとしや)プロフィール

1957年生まれ、小樽市出身。(有)マーヴェリック・クリエイティブ・ワーク取締役社長。
札幌国際短編映画祭プロデューサー。世界妄想学会会員。
東京にて青春時代を過ごし、日本大学芸術学部在学中、TV朝日にて淀川長治氏のアシスタントを務める。農業団体、広告代理店、ゲーム会社を経て、札幌にUターン。アニメーション+ゲーム会社でキャラクタービジネスを成功させ独立。2001年から札幌市の産業振興の一翼を担い多くのクリエーターを発掘・育成。2006年に札幌国際短編映画祭を立ち上げる。

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