映画『花束』が初監督作のサヘル・ローズ。作品を“手渡し”で届けながら伝える想いとは

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2024年10月11日~14日にかけて開催された第19回札幌国際短編映画祭で、国際審査員を務めたサヘル・ローズさん。

この映画祭で、サヘルさんが初めて監督を務めた映画『花束』が特別上映されました。

俳優としてご活躍されているサヘルさんがメガホンを取り、ご自身の生い立ちを重ねながら生み出した映画『花束』に込めた想いを語っていただきました。

映画『花束』作品紹介

煌びやかな日本が抱える大きな闇
その犠牲になっているコドモたち
その当事者である彼等が見つめる一筋の光とは?
大人が幸せじゃないと、子どもは幸せになれない
大人が救われ、子どもがいつも笑顔でいられる世界を願っている

(※映画『花束』公式サイトより引用)

下記映画館にて上映決定!

  • 11/17~11/30 「CINEMA Chupki TABATA」

サヘルさんが視覚障害者の方向けにナレーションを入れております。

詳しくはこちら

  • 12/20~12/24 「吉祥寺アップリンク」

『花束』特別上映イベント(アフタートーク付き)を12月20日と12月24日に開催致します。

クリスマスにどうしても『花束』を上映したかったのです。煌びやかな夜にみえる『花束』とは。

「映像に色を付けたくなかった」こだわりの裏に隠れた想いに迫る

ー映画『花束』とはどのような作品なのでしょうか。

サヘル・ローズさん(以下、サヘル):実際に児童養護施設で生活をしていた8人のキャストの実話をもとに、彼らが彼ら自身のことをお芝居しているという、今までにあまりないような映画になっています。

彼らの人生の中で一番楽しかったことを語れる場所や、今まで抱えてきた苦しみを吐き出せる場所を作りたくて、それを今回は映画という形にして作りました。

ー児童養護施設に焦点を当てた作品なんですね。そのようなテーマで映画を作ろうと思ったきっかけを教えてください。

サヘル:私自身がイランとイラクの戦争による孤児で、私を産んでくれた親や私の本当の名前、いつどこで産まれたのかもわからないんです。

幼少期の寂しさや誰かに愛されたい気持ちをずっと抱えていて、大人になって俳優という表現の仕事をしてから、戦争という形ではないにしろ、日本にも産みの親と生活が出来ずに苦しんでる人がいるのではないかと思うようになりました。

12年ほど前に調べたときは、4万人以上の子どもが社会的養護下に置かれ、実親のもとで生活できていなかったんです。そしてそのうち約7割は親の虐待が原因だという数字をみたのです。

煌びやかで何の問題もないように見える日本でも、実はその裏で苦しんでいる人はたくさんいます。大人が苦しんでいると子どもたちにも影響しますし、犠牲になるのはむしろ子どもたちの方なんです。

私は寂しさを感じたとき映画に救われたことがあったので、映画を作りたいと思いました。

ーなるほど。映画に救われた経験が今回の映画を作る理由になったのですね。

サヘル:私はお芝居をしているときが一番苦しみから逃げられるんです。お芝居をして何かを表現するということは、ある種のメンタルケアでもあります。

“お芝居をする”というのは俳優に限った話ではなく、私は産まれたときから全員役者だと思っています。お母さんの前にいる自分、パートナーの前にいる自分、仕事をしている時の自分、みんな無意識のうちに何かを演じています。

だからお芝居を通して自分の苦しみを和らげられるような場を作りたかったんです。

ーラストシーン以外、ほとんど映像がモノクロだということもこの映画の特徴だと思いました。

サヘル:モノクロにしたかったというよりも、映像に色を付けたくなかったんです。カラーの映像だと、観る人にとってそれが“決められた正解”になってしまうんですよ。人は見かけではわからないですし、みんな色々なものを抱えていると思います。

映像に色をなくすことで、よりフラットに考えてもらいたいですし、8人の出演者のインナーチャイルドに出会ってほしいです。

ー「彼らが彼ら自身のことをお芝居している」とお話しされていたように、実体験が語られるからこそ、先入観を持たずに考えることが大事ですね。

サヘル:そうですね。実際に出演した8人全員が当事者です。しかし施設出身だからと言って、決してかわいそうな存在ではないし、弱者ではないです。

生い立ちは人それぞれですが、彼らは映画の中で笑いながら自分たちのことを語っているんです。

彼ら8人は児童養護施設の出身だからといって何か特別なわけではなく、施設出身であることが理由で苦しんでいるわけじゃないんです。裕福な生活ができる人もそうでない人も、おそらくみんな同じように苦しみを抱えていると思います。

「社会のみんなだって苦しみを抱えていて、だからあなたはひとりきりじゃない。」

これはこの映画が伝えたいメッセージのひとつでもあって、この映画では施設の子だけにフォーカスを当てているのではなく、施設の子どもを通して社会の抱える問題をテーマにしています。

8人のキャストたちが抱えてきた孤独や闇というものを、観てくれる方に一筋の光のかけらのようなものとして繋ぎたい。そういう意味も込めてこの映像には色を付けなかったんです。

映画『花束』の由来「花束になった瞬間に、温かみのあるもらってうれしいものになる」

ーどのように出演者が決まったのでしょうか。

サヘル:私は最初、キャストが集まらないかもしれないと不安でした。

自分の生い立ちを話すということは、まさにかさぶたをはがす作業なんです。私自身、生い立ちを話したことで後悔したことが何度もあったし、その苦しみや悩みがわかっていました。しかし実際に募集をしてみると、手を挙げてくれた子がいたんです。

自分のことを伝えたいという強い気持ちを持って参加してくれた方や、どこかで家族が見ているかもしれないからこの映画をメッセージにするという方、映画を通じて家族や兄弟、姉妹と向き合いたい方など、三者三様の思いを持って出演することを決めてくれました。

ー映画のタイトル『花束』という名前の由来について教えてください。

サヘル:『花束』というタイトルは、本作のエグゼクティブプロデューサーの岩井俊二さんがつけてくださったんです。私は出演してくれた8人の人生でもあるこの映画にタイトルをつけられなかったのですが、岩井さんが“花束”という言葉をくれました。

お花は一輪だと寂しく見えてしまいますし、お花自体にもいびつな形があったり、毒々しいものもあったりします。でもどんな形であれ「花束」になった瞬間に、温かみのあるもらってうれしいものになるんですよ。

ポスター写真にもありますが、岩井さんには集まった彼らが花束に見えたそうで、映画のラストシーンにこのタイトルの意味が込められています。

ー映画『花束』はどのように企画されたのでしょうか。

サヘル:私は最初、監督になるつもりはなかったんです。ただ企画だけ考えて、プロデュースの佐東亜耶さんや脚本のシライケイタさんたちとミーティングをしていた時に、ケイタさんが「サヘルが監督やりなよ」と言ってくれて…。

私は映画を作る側のお仕事を学んだことがなく、監督は未経験なのにいきなり長編の映画を撮るというのはハードルが高く難しいと思っていましたが、岩井さんにも相談をしたんです。すると「表現したいものや作りたいものがあるなら、監督をやってみた方がいい」と背中を押してもらいました。

岩井さんとは以前に私が企画したイベントで、難民問題や児童養護施設についての話をしたことがありました。音楽のSUGIZOさんも施設出身の方々を支援する活動をしていましたし、施設職員として出演した佐藤浩市さんもそういう思いで長く支援活動もされています。

なので映画『花束』のチームは、ずっとこの映画のテーマとなっている問題に関心があって、当事者たちと向き合い続けている方々なんです。

ーなるほど。“当事者”というのはこの映画の大きなポイントになりますね。

サヘル:そうですね。私もひとりの当事者として出演者にカメラを向けましたし、もちろん彼らも全員当事者です。だからこそ当事者としての意見や彼らの繊細な心もすべて入れ込んだ作品になっています。

キャストたちが自分の言葉でお芝居にアドリブを入れてくれたシーンもありました。彼らの伝えたいことは、脚本であらかじめ決められたような言葉では伝えきれなかったんです。

ーこの映画で伝えたいことはなんですか。

サヘル:「あなたは絶対一人じゃない」ということを伝えたいです。コロナ禍を経て、“分断”が一層激しくなり、社会と家庭のつながりが遮断されてしまいました。しかし家族と共存すると言っても、血のつながりが家族のすべてというわけではないです。

色々な家族の形があって、そのどれもが正解で、それぞれに葛藤があると思います。家族と一緒にいるということが幸せという場合もあれば、家族と少し離れることでいい距離感になるという場合だってあります。

この映画だけでは社会を変え、問題を解決することはできません。たとえ一石を投じることしかできなかったとしても、それをきっかけにどこかのスイッチが切り替われば、そこにこの映画が作られた意味が生まれると思います。

苦しんでいる人の人生に関わるということは難しくて怖いことですが、この映画を観たことで、もしかしたらあなたの隣の家に住んでいるかもしれない「助けて」と声を上げられない大人や、児童養護施設を退所した子の“モールス信号”に気づける存在になってくれたらと思います。

「過去の苦しみは誰かと繋がる大切なツールになる」当事者だからこそ紡ぎだせる言葉

ー札幌国際短編映画祭での特別上映ではトークショーも開催されますね。

サヘル:今回の映画祭に限らず、この映画の後にはトークショーを開いていて、ただ映画を観て終わりにするのではなく、お客さんの言葉を聞くということを大事にしています。札幌にキャストたちは来ることができませんでしたが、普段は彼らもトークショーに登壇してくれています。

この映画は構想から完成までに7年ほどかかっていて、撮影自体ももう4年前なんです。4年前の彼らだったからこそ語れた部分もあると思いますし、今カメラを向けても同じようには語らないはずです。ある意味、この映画は4年前の記録なんですよ。

だからこそ、上映後のトークショーとして観てくれた方と会話をしたいんです。そうすると、観てくれた方も自分のことを話し始めるんです。

「自分のことを人に話す」ということは私が一番やってもらいたかったことでもあるんですよ。これは、出演した当事者たちにもしてもらいたかったことで、自分と向き合うきっかけになったらいいなと思います。

ーこの映画に関して今後やりたいことはありますか。

サヘル:全国の児童養護施設で無料上映会を開いていきたいです。また、今施設の子どもたちに花束の絵を描いてもらっているんです。この映画には配給をつけていないので、花束の絵を持って、映画『花束』を“手渡し”で届けています。

興味を持ってくれた方はホームページから問い合わせていただけると幸いです。

ー最後にひとこと、お願いします。

サヘル:この1本の映画では「なんで自分がこんな目にあわなければいけないんだろう」と苦しんでいる人全員に光を当てることはできませんでしたが、この映画のキャスト8人の裏側には約42,000人*もの当事者がいるということを、まずは知ってもらいたいです。

*参照元:こども家庭庁

そして、この映画は誰のことも否定していないんです。今までに負った傷はすごく痛くて、でもその痛みや過去の苦しみは誰かと繋がる大切なツールになるんです。痛みを知っている人は強い人間だと思うから。

「否定しないで、自分を。」

最終的にそう伝えたいです。

サヘル・ローズ(SAHEL ROSA)プロフィール

1985年イラン生まれ。俳優、タレント。
7歳までイランの孤児院で過ごし、8歳で義母フローラと来日。
主演映画『冷たい床』はイタリア・ミラノ国際映画祭など多くの映画祭最優秀主演女優賞を受賞。
国際人権NGOの「すべての子どもに家庭を」の活動で親善大使を務めた経験もあり、国内問わず、個人で支援活動を続け、2020年にはアメリカで人権活動家賞を受賞する。
著作に『言葉の花束困難を乗り切るための“自分育て”』(講談社)などがある。
2024年、初監督作品『花束』を公開。

●X @21Sahel

●Instagram @sa_chan_1021

●映画『花束』公式X @hatanaba_pro

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