ドラマ『私の知らない私』で精神科医役を演じた渋谷謙人。こだわったのは“名前の呼び方”

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現在放送中のドラマ『私の知らない私』で記憶喪失の主人公を担当している精神科医・佐竹恭平を、俳優の渋谷謙人さんが演じています。

放送を重ねるごとに、SNSでは熱い考察がされるなど、盛り上がりを見せています。今回は、渋谷謙人さんにドラマの撮影秘話や見どころを語っていただきました。

ドラマ『私の知らない私』作品紹介

主人公・羽田芽衣が目覚めると、1年間の記憶を失っていた……
しかも、記憶を失くす前の“思うようにいかない冴えない日常”から一転、生涯のパートナー(=婚約者)、社会的ステイタス(=転職)、そして、亡くなったと思っていた無二の女友達(=親友)を手に入れていたのだ――
戸惑いながらも、憧れていた幸せを手にしたことを実感する芽衣。
「だがそれは…嘘にまみれていた…」
次第に親友を始めとした周りの人間から大切なものを奪われ始める芽衣。そして、“人殺し”という“殺人疑惑”までかけられることに……
「記憶を失った空白の 1 年に、いったい何が――」
記憶を辿ることを決意した芽衣が真実に迫ったとき、仕組まれたワナの裏に驚愕の秘密が隠されていた――

ドラマ『私の知らない私』公式サイトより引用

私の知らない私
主人公・羽田芽衣が目覚めると、1年間の記憶を失っていた……しかも、記憶を失くす前の“思うようにいかない冴えない日常”から一転、生涯のパートナー(=婚約者)、社会的ステイタス(=転職)、そして、亡...

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繊細な人物分析が役作りの始点

ーこのドラマでは渋谷謙人さんはどのような役を演じられているのでしょうか。

渋谷謙人さん(以下、渋谷):僕が演じた佐竹恭平という人物は、記憶を失くした主人公・羽田芽衣を担当している精神科医です。芽衣だけではなく、芽衣の夫や友達など、色々な人と関わっていますが、実は過去にはトラウマを抱えているというような人物です。

ー演じていて特に意識したことについて教えてください。

渋谷:人とコミュニケーションを取る精神科医として、僕は“人の名前を呼ぶ”ことを意識しました。

名前の呼び方ってその人との関係性や、その時の状況も表現できるものなので、視聴者の方に名前の呼び方を通して会話している人との関係性を伝えられたらいいなと思いました。

この台本をいただいてから、精神科医というお仕事について調べましたが、精神科医自身も精神科に通う場合がある大変なお仕事だと分かりました。

医者と患者、同じ人間として辛いことを抱えていたとしても、精神科医である以上、クリニックに来院された方との会話を通してカウンセリングをします。

だから、相手に「話したい」と思わせるような話し方をしよう、というところから佐竹の役作りが始まったように思います。

ー精神科医ならではの役作りは興味深いです。撮影を通して役への向き合い方に変化はありましたか。

渋谷:実はクランクインした日にクリニックのシーンを一気に撮影したんです。午前中は芽衣が来院するシーンで、それが終わったら翠(芽衣の友人)が来て…というような感じで連続した撮影でした。

僕のいる部屋に続々とゲストが来るというのが『徹子の部屋』みたいで面白かったです(笑)。

クランクインした日なのに、その日の撮影が終わった時はクランクアップしたかのように「終わったー!」って叫んでしまいました。

体力的には大変なスケジュールでしたが、だからこそ「佐竹の人との関わり方」のイメージがよくつかめたんだと思います。話す相手によってその人の雰囲気は変わるものなので、人によって変わる佐竹の雰囲気の違いも意識するようになりました。

ー長時間の撮影は本当に大変ですね…。

渋谷:撮影場所が半地下という感じで、セリフを読んでいる時でも上の階のトイレが使われると水の音がするということもあったり…。

でもそれを含めてみんなで撮影を楽しめたと思います。カメラマンのチーフの方が「ずっと同じところで撮影しているけど、佐竹クリニックの空気が流れてる」って言ってくれた時はうれしかったです。

スタッフさんがみんな優しくて、すごく素敵なチームだから僕も楽しかったし、お互いに鼓舞しあっていました。そういう空気感もクリニックのシーンに出ているんだと思います。

ーなるほど。佐竹には優しい雰囲気もあるからこそ、逆に「怪しい…」とも疑ってしまいます(笑)。

渋谷:見た目も少し怪しいですよね(笑)。でも佐竹はマインドコントロールをする怪しげな精神科医というのとはちょっと違う感じがします。

僕も最初は“マインドコントロールをする精神科医を演じた方が面白いのかな”と思いましたが、実際に演じてみると、患者さんをどれだけコントロールできているのかというのは目に見えないから難しいと気づきました。

精神科医として信用される関係性を築くためにも、名前を呼んで心を開いてもらえるような話し方をしようという意識が強まりました。

目を見ながら話すとか、所作一つ一つを繊細にやっていくことで、精神科医の佐竹という人物が出来上がっていったんです。

「答えを出しすぎないことも重要だと思います」渋谷謙人の流儀と撮影秘話

ー撮影現場での印象深いエピソードはありますか。

渋谷:ディスカッションが多い撮影現場でした。僕は初日の撮影が多かったので、ドラマ全体を俯瞰して調節してくれるスタッフさんや監督さんを含めたみんなでディスカッションをしました。

短い撮影期間の中で、納得しながら撮影を進めるためにもディスカッションは多い方がいいと思います。

シリアスなシーンが多いですが、リハーサルから何回も撮影を繰り返して、だんだんセリフの中の「マインドコントロール」の発音が良くなる、ということもありました(笑)。

重いシーンを撮影している時でも、カメラが回っていないときは急に笑いが止まらなくなったりもして。楽しい現場でした。

ー撮影をしてみての感想を教えてください。

渋谷:すごくいい意味で、撮影終わりに不完全燃焼のようなものを感じることがありました。

役者にとって、演技で「答えを出しすぎない」ことも重要だと思います。「今こう思いながら、このセリフを言っている」ということを演技で前面に出しすぎてしまうと、それが視聴者にとっての「答え」になってしまいます。

答えにならないよう「このくらいかな」って演じていると、撮影終わりに「ここは答えを出しちゃった方が良かったのかな」「いやそうでもないかな」と振り返って考えることもあり、持ち帰るものが多かった現場でした。

ー渋谷さんの演技へのこだわりが感じられます。このドラマの一番の魅力や注目ポイントについて教えてください。

渋谷:僕自身のことだと、最初に言ったように「名前の呼び方」に注目してもらいたいです。1話から最後まで通して、人の名前の呼び方やニュアンスは変化していると思います。

そういう演じている本人じゃないとわからないような調整が作品の随所にあるんです。台本に書かれているセリフ以外のところで、表情や関係性など、役者それぞれのこだわりや個人で仕掛けるトラップ的なものはたくさんあります。

台本に書かれていたこと以外の現場での思いつきもたくさんあったので、それが編集されてどう完成するのかということは僕自身も楽しみです。考察も楽しめる作品なので、答えが分かってからもう一回見てみるというのも楽しいと思います。

ーなるほど。SNSでは考察もされ、反響が大きいですね。

渋谷:「先が気になって、なんか見ちゃう」というのは褒め言葉。みんなすごい細かいところまで見てくれていて、嬉しいです。

考察の意見を見ると「もしかしたら佐竹もそうかもな」って人物像のイメージが広がるんですよね。ドラマで描かれる部分以外でも佐竹の役を作らないといけないことは多いので、考察の意見も「なるほど」と取り入れていけたらと思います。

ーご自身で演じられたからこその考察の楽しみ方ですね。回を重ねるごとに秘密が明らかになり、1話も見逃せないです。

渋谷:本当にそうですね。「そこつながってたんだ」という展開が続いています。

佐竹は自分からかき乱そうとしているわけではなく、「巻き込まれていく」という感じがしますが、でもこれってドラマとか関係なく、普通に生きていても巻き込まれることってよくあるじゃないですか。

1話ずつ辻褄を合わせて繋がっていくから、この台本すごいって思います。

ーTVerではスピンオフドラマも配信されていて、作品全体の盛り上がりが感じられます。

渋谷:やはりスピンオフを見ているのと、見ていないのとでは楽しみ方が違うと思います。スピンオフもドラマ本編と変わらない形で撮っているので、本編でハマった人にはぜひ楽しんで見てほしいと思います。

陶芸品に洋服など、多彩な渋谷謙人のバイタリティ

ーここで少し渋谷さんご自身のことについても教えてください。芸能界を振り返って大切にしていることはなんですか。

渋谷:お芝居大好きという気持ちもずっと変わらずに持っていますが、みんなで作っているということを今は一番大切にしています。

撮影現場では時間に余裕がない場合もあって、現場のスタッフみんな団結して取り組んでいる実感がありますが、それ以外のところでもSNS担当の人など、関わっている人みんなで作品を作っているということを意識しています。

その意識が自分の悩みを解消してくれることもありますし、楽しくやれたらと思います。楽しむためにはやはりみんなで共有することが大事なので、ディスカッションをはじめ、みんなで作っていくという作業をより一層大切にしていきたいです。

ードラマ以外のところについてもお聞きしたいのですが、以前中尾明慶さんのYouTubeチャンネル「中尾明慶のきつねさーん」にも出演されていましたね。

渋谷:あの焼肉屋のやつですよね。彼とは同い年で子役をしていたという共通点もあって、立ち振る舞いや表現の仕方が男らしいので勉強になりますし、一緒にいて楽しいです。

焼肉の回も、「今焼肉食べてるから来てよ」って突然言われて、「ちょっと悩みでもあるのかな」って気持ちで行ったらカメラが回ってて(笑)。あれ実はこのドラマのクランクインの前の日だったんです。

ーそうだったのですね。次にご自身で立ち上げられた「yurerugallery」(ユレルギャラリー)についてもお伺いしたいです。

渋谷:僕はもともと陶芸をやっているので、その陶芸作品を出すギャラリーであり、あとは今日着ているこのパーカーもそこのものなんです。去年、僕が演出を担当した一人舞台『クラップの最後のテープ』のチラシのデザインを入れて洋服を作りました。

yurerugallery(ユレルギャラリー)

渋谷謙人が立ち上げたアパレルブランド&制作した作品のギャラリー。
俳優の仕事では表現しきれない、頭の中に浮かんでは消えそうなイメージの欠片を、その時その時のフィーリングで形にしていきます。

yurerugallery公式サイト:https://www.yurerugallery.com
yurerugalleryストア:https://yurerugallery.stores.jp

ー最後に、2025年はどういう一年にしたいかを教えてください。

渋谷:ジャンル関係なく映画でもドラマでも、映像作品に力を入れていっぱいやりたいです。かと言ってやりたくないものもないので、演劇問わずやっていきたいなと思います。

渋谷謙人(しぶやけんと)プロフィール

1988年生まれ、神奈川県出身。
子役として活動を始め、2002年にNHKドラマ愛の詩『どっちがどっち』で初主演を務めた。近年の主な出演作に、ドラマ『ソロ活女子のススメ』シリーズ、『オクラ~迷宮入り事件捜査』、連続テレビ小説『らんまん』、『九ちゃんの断罪』など。また演劇ユニット「クモラス」を立ち上げ、第1回公演「CITY」を5月に上演予定。

公式X @ShibuyaKent
公式Instagram @knt_sby

ヘアメイク/岩村尚人(SPIELEN)
パーカー/yurerugallery
その他衣装・アクセサリー/スタイリスト私物

撮影:天倉悠喜

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