末松暢茂「自分の心に正直に」監督としても才能を発揮する俳優の目指すものとは

インタビュー
インタビューニュース

2007年公開の『バベル(2006年製作)』でデビュー以来、映画を中心に活動する俳優の末松暢茂さん。

渡辺謙さん、菊地凛子さんらが出演する日米の共同制作ドラマ『TOKYO VICE(トウキョウ バイス)』に出演。撮影の舞台裏や感想、自身の俳優人生のこれまでとこれからを語っていただきました。

日米共同制作の人気ドラマ『TOKYO VICE』に出演

『TOKYO VICE』はWOWOWとMax(旧HBO Max)による日米共同制作の連続ドラマ。2021年に放送・配信されたシーズン1が大ヒット、日本ではシーズン2が2024年4月6日(土)から配信開始。

末松さんはストーリーに大きく関わる千原会に所属する、若いヤクザの「玄」役で出演されました。

『TOKYO VICE』シーズン1 あらすじ

世界が憧れた大都会“1990年代TOKYO”が牙をむく――。東京の大学を卒業したアメリカ人青年ジェイク(アンセル・エルゴート)は、故郷に戻ることを勧める両親に反し、難関な試験を突破して日本の大手新聞社に就職する。警察担当記者となったジェイクは特ダネを追いかけるうちに、ヤクザ絡みの事件を手練で解決する刑事、片桐(渡辺謙)と出会う。新聞記者として危険な闇社会へと入り込んでいくジェイクに片桐は忠告する。「この世界は、一度開いた扉は閉じるのが難しい」――。

秘密を抱えながら男社会を渡り歩く女性記者・詠美(菊地凛子)、風俗街で暗躍する刑事・宮本(伊藤英明)、ジェイクと意気投合する若きヤクザのリーダー・佐藤(笠松将)、謎めいたカリスマホスト・アキラ(山下智久)。夢や希望ものみ込まれる東京のアンダーグラウンドで、生き残れるのは誰か。そしてジェイクは、新興ヤクザ勢力の危険すぎるネタをつかもうとしていた――。

引用元:https://www.wowow.co.jp/drama/original/tokyovice/

出演されたドラマ『TOKYO VICE』が世界約120ヵ国で放送・配信される大ヒットを記録、今年はシーズン2も放送されました。出演が決まったときはどのようなお気持ちだったのでしょうか?

末松:日米の共同制作ということで、マイケル・マン監督が携わるということを聞いて、すごく興味を持ちました。

僕、マイケル・マン監督の作品がすごく好きなんです。

アル・パチーノとロバート・デ・ニーロ主演の『ヒート』(1995年公開/マイケル・マン監督)という映画が大好きで、エキストラでもいいから監督の作品に携わりたいという思いがあったのでとても光栄でした。

ヒート
パチーノ×デ・ニーロ!2大俳優が激突した90年代を代表するクライムアクション

時代設定が1990年代でしたが、あの世界観は演じていてどのように感じられましたか?

末松:そうですね…僕自身はとくに違和感なくすんなりあの世界に入り込めたように思います。

確かに一昔前の時代設定ということもあって、衣装で言えば、ちょっとスーツの肩が角ばっていたり、柄シャツだったり、現代のものとはすこし違う印象があるかもしれませんね。

実際にどう映っているのかというところは、あとで映像として見て気づくことが多かったかなと思います。

アメリカでもとても評判がよかったそうですね。

末松:そうですね。やはり日本の忍者だったり、侍、ヤクザなどを題材にした作品は皆さん喜んでみていただけるのですかね。

日米共同制作とあって、英語と日本語が混在していますが、それがすごく自然で、皆さん本当に英語がうまいんだなと。なんだか不思議な作品でした。

末松:そうですね。でも実際には、もともと英語が話せない方もいらっしゃって、相当練習されていたと思います。

メインキャストの1人である佐藤役の笠松将さんも英語を話す役なのですが、本当に頭を抱えながらめちゃくちゃ頑張っていて。

ただ覚えるだけではなく、レッスンを受けてきちんと意味を解読して、お芝居をされていたと思います。

主演のジェイク役のアンセル・エルゴートさんも日本語を話されていますよね。すごくお上手でした。

末松:アンセル・エルゴートさん、すごいんですよ。日本語を教える先生がついていらっしゃったんですけど、かなり努力家で天才肌といいますか、流暢に日本語を話されていましたね。

しかも、ちゃんとドラマに沿って少しずつ日本語が上達していっているように感じました。

総製作費88億円!「新しい世界を見た」撮影の舞台裏に迫る

皆さん本当にプロフェッショナルというか、キャストもすごく豪華でした。いま振り返ってみて、改めていかがでしたか?

末松:そうですね、すごく濃い時間を過ごさせていただいたなと思います。

作品を通して自分自身が色々な面で成長できたと思える作品に出会えたのも久しぶりで、新しい世界を見させていただいたなという感覚です。

どのような成長や発見があったのでしょうか。

末松:たとえば本読みなんですけど、日本の現場では会議室とかで行われるのが一般的かと思うのですが、都内の大きなホテルの中で、劇場くらいの大きいサイズのモニターを使って、アメリカと中継してという感じで。

記者会見みたいな雰囲気で、役名とマイクが置かれていて「これ本読みなの…⁉」と。すごく驚きました…。

キャストの皆さんと顔合わせをさせていただいた時も、すごく豪華な会場で、華々しい世界というか…本当に大規模で桁違いだなと。

皆さんすごく熱をもって挑まれていると感じましたし、「玄」という役を演じさせていただくことの喜びはもちろんですが、いい意味でプレッシャーを感じました。

僕が関わりが深かった相手でいうと、笠松将さん演じる佐藤との関係性が変わっていったりする中で、どう表現したらいいのだろうと考えたり、作品とともに成長していくといいますか、役者としてすごく貴重な経験をさせていただいたなと思います。

スクール在学中に『バベル』で映画デビュー

末松さんは2007年公開のブラッド・ピット主演作『バベル』で映画デビューされました。どのような経緯で出演が決まったのでしょうか?

末松:20歳のときに、奈良橋陽子さんが代表を務める「ユナイテッド・パフォーマーズ・スタジオ(以下UPS)」という俳優スクールに入学して2年間通っていたんですが、在学中に『バベル』のオーディションを受けたところ、運よく出演させていただけることになったんです。

初めての撮影はいかがでしたか?

末松:もう本当に右も左もわからないような状況だったんですけど、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督がすごく情熱のある監督で。

監督と俳優ってもっと距離が遠いイメージがあったのですが、肩を組んだり「今のすごくよかったぜ!」みたいな感じで気さくに接してくださって。

海外のスタイルというのもあったのかもしれないんですけど、さっくばらんな一面もありつつ、作品に対してはものすごく情熱を持った監督でした。

スクール在学中に出演されたということですが、学ばれたことは活かせたと思いますか?

末松:そうですね。メソッドという演技手法があるのですが、「セリフを相手のために言う」とか、自分の内にある感情を呼び起こす訓練だったりとか。

そういうものを通じて、「あ~結構自分に嘘をついていたんだな…」と気づけたり。身ぐるみをはがされたと言いますか、そういう突っ張ってきたところを、いい意味で壊してもらったなと。

UPSをお芝居の入口にできたことは自分としてはすごくよかったなと思っています。

卒業公演の舞台もあったので、その中で、切磋琢磨する役者仲間もできたりして、すごくよかったですね。

様々な映画祭で受賞の『OLD DAYS』。「3作目までは自分で」監督・主演を

末松さんは俳優はもちろん、監督としても活動されていますが、末松さんにとって思い出深い役や作品はありますか?

末松:そうですね…一番最初に手掛けた作品で『TORE(トーレ)』という映画があるんですけど、大阪の西成区を舞台に、貧しい若者たちを描いた物語なのですが、当時、実際に3畳の部屋に8人くらいで住んだりしていました。

押し入れに頭を突っ込んだり、丸まったり、みんなでギュってなる感じで、最高8人くらいで寝たことも(笑)。

3畳に8人とは驚きです…(笑)。

役というか、実際にすごく過酷な毎日を送っていたので、ほとんどドキュメントのようなシーンもあります。

今見たら脚本も全然たいしたことないのですが、20代半ばで、その年の頃の情熱といいますか…右も左もわからない中で、自分たちで初めて手掛けた作品なので、いい思い出ではありますね。

そもそもどのような経緯で映画制作を始められたのでしょうか。

末松:スクールを卒業した後、『THE WINDS OF GOD(ザ・ウインズ・オブ・ゴッド)』という神風特別攻撃隊をテーマとした作品の舞台に、今井雅之さんが演じた役で出演させていただいていたんです。

1年ほどやっていたのですが、その後、これから自分がどうしたいのかわからなくなって、何か挑戦してみよう、みたいな感じで。

そこから仲間内でインディーズの映画をたくさん作って、出演したりしていました。

そのあと、岐阜県の飛騨高山の北アルプスの麓にある村に行って、『ハルとロウ』というマタギ(猟師さん)を描いた短編を手掛けました。

実際にマタギの方と生活して、ツキノワグマとか、イノシシとか、狩猟を体験させていただきました。

『ハルとロウ』も短編ですか?この作品でも監督を務められたのでしょうか。

末松:本当は長編を作りたかったのですが、それは叶わなくて、村の少年と僕で本当にコンパクトに撮影を。

3作目までは自分で監督・主演を務めると決めていたので、『OLD DAYS(オールドデイズ)』まではそのスタイルで手掛けました。

『TORE』、『ハルとロウ』を経て、『OLD DAYS』ができたのですね。『OLD DAYS』は国内外の映画祭で受賞されるなど高い評価を得ましたが、いかがでしたか。

末松:すごく嬉しかったですよ。皆さん本当に頑張っていただいたので。

両親の影響で映画に惹かれ、俳優の道へ

末松さんは俳優、監督など多方面で活動されていますが、もともと俳優の道に進んだきっかけは何だったのでしょうか。

末松:子供の頃は釣りが好きで、漁師になるのが夢だったんですけど、両親が映画好きだったので、よく映画館に連れて行ってもらいましたし、家にも映画がたくさんあったので、興味を持つようになりました。

『バットマン』とか『七人の侍』とか、そういう難しいものを子供の頃からなんとなく観ていたのが影響しているのかなと思います。

今後の展望を教えてください。

末松:役者としていろんな作品にチャレンジしていきたいと思っていますし、映画も作りたいです。

前回は自分たちでお金を出し合って、本当に低予算の中で制作したのですが、次は色々な面でもっと整えて、日本独自の作品を作りたいなと考えています。

末松さんはデビュー作の『バベル』に始まり、『TOKYO VICE』に出演されるなど、もしかして今後は海外での活動を視野にいれていたりするのでしょうか。

末松:自分としては、ハリウッドを目標に掲げてきたわけではなくて、本当にたまたまそうなったというか…素晴らしい作品に携われることが何よりの喜びです。

ハリウッドには素晴らしい作品がたくさんあると思いますが、日本にしか作れない、日本映画の良さというものもあると思っているので、僕が手掛けた作品は、日本ならではの題材にしてきたんです。

『OLD DAYS』は暴走族を題材にしていますが、誰が喧嘩が強いとかそういうところに焦点を当てた作品ではなくて、元暴走族だった仲間たちが大人になって再会するところを描いているんです。

暴走族という日本ならではの独自のカルチャーだったり、そういうところでちょっと違う視点で海外に向けて作れたら面白いんじゃないかと思っています。

役者と監督の比重としてはどのように考えているのですか?

末松:自分ではそこはあまり分けていないんです。映画を撮るのって、本当に強烈な何かがないとなかなか動き出せなかったりしますし。

演じることで知れることもありますし、逆に監督をさせていただくことによって演じることを知ることもできるので、どちらをということはあまり考えていないです。

僕、ショーン・ペンさんが大好きなんですよ。俳優さんですけど『イントゥ・ザ・ワイルド』(2007年/ショーン・ペン監督)とかすごく素晴らしい映画を撮っていらっしゃったりして、そういうのがすごくいいと思うんです。

あまり深く考えずに、自分の心に正直にチャレンジしていきたいなと思っています。

今後のご活躍も楽しみにしています。ありがとうございました!

末松暢茂(すえまつ のぶしげ)プロフィール

2005年にアレハンドロゴンザレスイニャリトゥ監督「BABEL」で俳優デビュー。
帰国後には大阪の⻄成を舞台にアンダーグランドに生きる若者を題材にした映画「TORE」を自主製作し、近年では、実在する元暴走族を題材にし大人の⻘春を描いた「OLD DAYS」を脚本、監督、主演し、様々な映画祭で受賞。
役者としてもハリウッドと日本の共同制作「TOKYO VICE2」にSeason1より出演中。
俳優、監督として第一線で表現を続けている。

SQUAD Management所属
https://squad-management.com/
Instagram @nobushige.suematsu

タイトルとURLをコピーしました