日本の民話「鶴女房」のその後の世界と、現代の世界が交錯しながら展開していく舞台『サヨナラソングー帰ってきた鶴ー』。
物語世界では鶴を助けた男・与吉、現代では売れない作家・宮瀬陽一を演じる小関裕太さんにインタビュー。たっぷりお話を伺いました。
舞台『サヨナラソングー帰ってきた鶴ー』作品紹介
売れない作家である宮瀬陽一が残した遺書のような物語は、日本人なら誰もが知っている「鶴女房」のその後を描いた小説だった。
鶴であることが夫にばれ、遠くの空に旅立った鶴が、もし戻ってきたとしたら。村の中で、二人は、どんな人生を始めるのか。
だが、その物語は、小説誌の掲載を断られて、未完で終わっていた。宮瀬の担当編集者だった相馬和彦は、宮瀬の妻であり、夫と違って売れっ子作家の篠川小都に、この続きを書いて下さいと迫る。小都は、悩んだ末、夫のことを知りたくて、夫の作品に没入していく。
物語は、小都と小学三年生の息子、陽翔と、相馬、陽翔の家庭教師の結城慎吾との関係から生まれる現実の世界と、「鶴女房」のその後の世界の二つを、交互に往復しながら展開される。
(※『サヨナラソングー帰ってきた鶴ー』公式サイトより引用)
東京公演 | 紀伊國屋ホール 2025年8月31日(日)〜9月21日(日)
大阪公演 | サンケイホールブリーゼ 2025年9月27日(土)〜9月28日(日)
愛嬌のある与吉とプライドが高い宮瀬。演じ分けた正反対の役柄

ー物語世界では鶴を助けた男・与吉、現代では売れない作家・宮瀬陽一を演じた小関さん。改めて、それぞれどのような役柄ですか?
小関裕太(以下、小関):与吉はすごくエネルギッシュで愛嬌のある、可愛らしいキャラクターです。
愛する妻、おつう(演・臼田あさ美)を思うあまり失言してしまったり、ほんの少しの好奇心がきっかけでおつうが去る原因を作ってしまったり…。ちょっと詰めが甘くてうっかりしている性格です。
与吉は本編を通じてずーっとそうなので、一歩引いたお客様の目線で言うと「しょうがないなぁ」という感じです(笑)。
一方で作家の宮瀬は、プライドが高くてコンプレックスの塊のような男性。
売れない自分と違い売れっ子作家の妻(演・臼田あさ美)は、需要のあるエンタメ的な“売れる作品”を出している中、宮瀬は、みんなが読みたいものを書くのではなく“俺がこれを書きたいから書くんだ”という少しエゴのような、コアな小説を書くんです。
しかし結果が出ず、最終的には自死してしまう。そんな戦い方を貫き、この世を去っていった人物です。
ー役作りで大切にしたポイントを教えてください。
小関:まだ稽古途中なのでどんどん(役の演じ方は)変わっていく可能性もあるのですが、それぞれの個性を大切に、喋り方で演じ分けるようにしています。
やはり与吉は愛らしいキャラクターにしたいなぁと。言うことなすこと全て空回りしてしまうような(笑)。
あとは、訛りや「おら」という一人称が与吉の特徴です。物語の舞台は“東北のとある地方”をイメージしているんです。
宮瀬は自分のネガティブな部分をプライドで隠そうとする人物で、
観ている方にも少し苦々しく思われるようなキャラクターにすることで作品も生き生きしてくると思うので、そういった部分を大切にしたいです。

ー今回の台本を読んで、「鶴女房」の印象が変わったところはありますか?
小関:僕が初めて「鶴女房」を読んだのは、幼少期の頃です。その時は絵本でした。当時はすごく引いた目線で、「好奇心で(鶴の姿を)覗いちゃうなんてダメだよ」っていう印象だけで受け取っていました。
でも、改めて読み返してみると「いやー、こういうことって起こりうるよなー」と。印象が変わりました。
やっぱりこの作品を初めて読んだ頃からもう20年以上経っていて、その間に「ちょっとしたうっかり」や好奇心など、いろいろ経験しました。
それらの経験を経て、「しょうがなかったのかもしれないな」って与吉に寄り添える気持ちも生まれたんだと思います。

ーコメディ要素が強い、鴻上尚史さん演出の今作。小関さんは鴻上さん演出の舞台には初出演とのことですが、いかがですか?
小関:難しいです(笑)。
鴻上さんはご自身の中ですごくお笑いのテンポ感や“お笑いの正解”のようなものを持っていらっしゃるので、僕自身も全力で乗っかりつついろいろな発見をしている最中です。
ちょうど昨日「ヒルナンデス!」に出演して(お笑いコンビ)ウッチャンナンチャンの南原(清隆)さんとご一緒させていただいたんですが、「僕たち世代のお笑い芸人は鴻上さんの舞台にすごく注目している」とおっしゃっていました。
ー稽古に入られる前に想像していた鴻上さんの世界と、実際に稽古を経験して発見した違いはありますか?
小関:去年、鴻上さんの代表作『朝日のような夕日をつれて2024』(2024)を拝見して、とにかく熱量とテンポの速さを感じました。
出演者として制作の裏側を知り、ただテンポが速いだけじゃない、熱量が大きいだけじゃないんだ、と。
鴻上さんは文学的でありながらすごくお客様目線も持っていて、観に来てくださった方がどう感じているのか常に考えてらっしゃるんです。学ぶことが多く、改めて鴻上さんとご一緒できてすごく良かったと感じています。
稽古場で行われるボール遊び。それぞれのキャラクターが見えて仲が深まった

ー現場の雰囲気を教えてください。
小関:皆すごく仲が良くて楽しいです。
鴻上さんの舞台では、お稽古の前にみんなでボール遊びをするんです。心も体も温まるし、初めましての方が多い中でどんどん仲も深まっていきました。
運動する中でそれぞれのキャラクター性が見えて面白いです。声を出す人、周りをサポートする人、ちょっと一歩引く人…。お互いを補い合うような関係性で、自然と役割分担ができているのかなと思います。
ーご自身はどんな役割でしたか?
小関:僕は声を出す係で、「1、2」って数を数えていることが多いですね。
ー他の皆さんはどんなキャラクターでしたか?
小関:もっくん(太田基裕:相馬和彦/馬彦役)は運動神経がよくて、リーダーシップがある方だなと思います。
もっくんとはミュージカル『ロミオ&ジュリエット』(2024)で1年前に共演させてもらって、その時に信頼関係を培いました。もっくんはしっかりしていて芯があって、強さと誠実さをすごく感じます。
臼田さんはすごくカラッとしていて明るくて、しっかりしていながらムードメーカーでもある。みんなの癒し的存在だなと感じます。
臼田さんは役者さんとしていい意味で飾らない方。舞台の経験が少ないとご自身はおっしゃっているんですけど、全くそう思わせないような、本当に客席側からも“心”が見えるような方なんです。ご一緒していてすごく影響を受けます。
(安西)慎太郎くん(結城慎吾/吾作役)は積極的にサポートに回る安定感のあるタイプ。
慎太郎くんとは今回初めて共演するのですが、本当に丁寧な方でとにかく用意周到。カンパニーの誰よりも早くこの作品を準備していたんじゃないかな。もっくんとはまた違う色の誠実さをすごく感じました。熱量は強いし、でも控えめだし、周りを支えるし、柔軟だし。すごく信頼できる方です。
30歳を迎え、“ワクワク”だけでない原動力も模索していきたい

ーここからは小関さんご自身についても伺えればと思います。お仕事をする上で大切にしていることや心がけていることはありますか?
小関:これまでずっと「ワクワクすることを大切にしたい」って言い続けてきました。
物事を選択するときはワクワクする方を選びたい。どんなに大変でも苦しくても、こっちの方が面白い未来が待ってる気がするっていうワクワクを大事にしています。
でも、6月8日に30歳になって約2ヶ月過ごして、最近ふと思ったんですが、もしかしたらワクワクだけじゃ過ごせない時期が来るかもしれないな、と。
いろんな本を読んだり、いろんな人と会ったり、この作品も含めていろんなことと触れ合う中で得た価値観だと思います。
もちろん今まで通りワクワクは大切にしたいし、それは間違ってないと思うんですが、多分ワクワクだけではやり過ごせない、そんなこと言ってられない時期が自分に迫っているっていうのを感じ始めました。
そんな時に備えて、もっと違う原動力を見つけるべきかなと思っています。
ー芸歴22年の小関さん。お忙しい日々の中で、気持ちが落ちた時の回復方法はありますか?
小関:都度都度、状況に合ったことをしてみる感じですかね。
お仕事も長い間しているはずなのにうまくいかないこともたくさんあるし、難しいな、と…。ただ、手を抜くことだけは嫌なので、とにかくそのときの全力を出しています。

ー先日、アーカイブブック『Y』の発売とイベントをされていましたね。ファンの方の存在はどういうものですか?
小関:今年はファンの方と会う機会を増やしているのですが、ファンの方々とイベントでお会いしたときに、嬉しいって感情が今までより濃く芽生えました。会えてよかったなって僕自身も思うし、ファンの方の存在は頑張る原動力なんだなぁって感じます。
例えばこの作品も、解禁前、解禁後、そして稽古が始まる直前から始まってから、段階を追っていろんな形で自分を応援してくださっている方々と直で触れ合う機会があって、ものすごくたくさんのエールをいただいてるんです。反響を本当に肌で感じるんですよね。応援してくださる方の存在を今まで以上にすごく感じています。
台本がまだ出来上がる前に「実は再来週くらいから稽古が始まるんだよー」みたいな話をしたりすると、「もうチケット取りました」って言ってくれる。
台本もまだ出来上がってないからどんな作品になるかも分からないし、実際稽古場入ってみてどんな作品に出来上がっていくかも分からない。何も分からないんですけど、その先にこの人たちが絶対に見に来てくれる、僕が頑張ることでこの方々が「面白かった!」っていう風に言ってくれる未来がすごく見えて。稽古に入る前の勇気というか、楽しみがすごく増したんですよね。
ー今年はファンの方と会う機会が多いですね。
小関:ファンの方々と会うことは楽しいし新たな発見もあるし、応援してくれる方がいるという実感にもなるのでパワーになります。
僕はアイドルではなく俳優なのであくまで役を通して皆様にエンタメをお届けしたいっていう思いではあるんですけど、いつもはたくさんイベントもできないし、今年くらいはっていう気持ちです(笑)。
30歳という記念の年なので、今年は僕にとってもすごく大事な年にしたい。皆さんと過ごす時間をちょっとでも多くしたいです。

小関裕太(こせき ゆうた)プロフィール
1995年6月8日生まれ、東京都出身。2006~2008年、「天才てれびくんMAX」(NHK)のテレビ戦士として活躍するなど、子役として俳優活動をスタートさせる。主な出演作品はTBS「ごめんね青春!」(2014年)、「みをつくし料理帖」(2020年)など。特技はダンス・写真・利き食パン。
●Instagram @yuta_koseki_68
●X @yutakoseki
小関裕太さん出演作はこちら
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撮影:髙橋耀太
小関裕太さん:
ヘアメイク/堀川知佳
スタイリスト/吉本知嗣