東京国際映画祭出品作品『左手に気をつけろ』井口奈己監督にインタビュー

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6月8日(土)より渋谷ユーロスペースほか全国順次ロードショーとなる映画『左手に気をつけろ』。第36回東京国際映画祭NIPPON CINEMA NOW部門 にも公式出品されており、期待が高まります。

タイトルからすでに不思議な雰囲気の漂う同作が、どのようにして作り上げられたのか、脚本・監督の井口奈己さんにお話伺いました!

「こどもが暴れる映画を撮りたい」という思いから始まった映画制作

『左手に気をつけろ』概要

世界的に高い評価を得た『犬猫』(01)(04)や『人のセックスを笑うな』(07)、『ニシノユキヒコの恋と冒険』(14)などで知られる井口奈己の新作が完成。エグゼクティブ・プロデューサーとして金井久美子、金井美恵子から「短編『だれかが歌ってる』(19)の、こどもが暴れる映画」を提案されたことをきっかけに制作は始まった。2020年に宮崎県で開催された「こども映画教室」でのワークショップの様子を捉えた初のドキュメンタリー映画『こどもが映画をつくるとき』(21)に続いて、常に予想のつかないこどもたちのゆかいな行動が笑いを誘い、エネルギーは暴走し、幼稚な倒錯と暴力がはびこる。これまでにない大胆かつ軽やかでパワフルな冒険映画が完成した。第36回東京国際映画祭NIPPON CINEMA NOW部門 公式出品作品。

あらすじ
20XX年。世界では左利きを媒介するウイルスが蔓延し、こども警察による厳しい取り締まりが行われていた。 行方不明になった姉を探す神戸りんは、その足取りを追うなかで“運命の人”と出会い「世界を変えていく」と意気込んでいくのだが……。

引用元:映画『左手に気をつけろ』オフィシャルサイト

ー『左手に気をつけろ』というかなり気になるタイトルですが、どのように着想を得たのですか。

井口奈己監督(以下、井口監督):漠然と“こどもが暴れる映画を撮りたいな”という思いつきから始まりました。映画を撮ろうという話がちょうどコロナ禍の直前にあったので、コロナ禍に直面した日本の、誰とも会えない、隔離されて、規制される状況を題材に描いてみようかなと考えました。

コロナ禍では県をまたいで移動したり、東京から他県に行くと言うとすごく非難されたりという風潮がすごく気になったんです。

誰からもそうしろと言われているわけではないけど、みんながなんとなくそうするので、規制がかかっていくというか…。

そういった“規制”を、“こどもたちにうっすら支配されている日常”に置き換えて【こども警察】という設定にしました。

提供:映画『左手に気をつけろ』

『こどもが映画をつくるとき』(2021)で、こどもを題材にしたドキュメンタリー映画を作られたと思うのですが、監督はやはり台本で固めずにこどもたちが自由に暴れているという映像に、魅力を感じるのでしょうか。

井口監督:そうですね。

こどもと動物って画面で発揮する威力が強いんですよ。

例えば、どんな名優でも肩に猫が乗っていたらみんな猫を見ちゃうみたいに。

確かにそうですね。

井口監督:動物の方がより制御できないですが、こどもも“野生み”があれば動物と同じくらい威力があると思ったので、なるべく制作側にコントロールされていないこどもたちに出てもらえたらいいなと思って、基本的にこどもたちが走るシーンを撮りました。

こどもたちとの撮影は自由すぎて大変だったのではないですか?

井口監督:みんな撮影が進むにつれて「もう走りたくない〜、監督、OKって言ってくれ~」とか言っていたんですけど、待っている間は遊んだり、走り回ったりしてるんですよ(笑)。

だからなんとなく連れて行って「遊びだよ〜」と声をかけながら、撮影を進めてもらいましたね。

こどもたちに法被(はっぴ)を着てもらって、十手を持たせたら、やっぱり制御しきれないくらいに盛り上がっちゃって。十手も何本かどこかに飛ばしてました。

こどもたちはどのようにキャスティングを…?

井口監督:知り合いの知り合いの、そのまた知り合いみたいな感じで、延べ60人ほど来てもらいました。

“あまり話さない”が井口監督の演出スタイル

コロナ禍の規制が題材になっているとのことだったのですが、ちょっと恋愛要素が入っていますよね。

井口監督:以前、年齢差のあるカップルを題材にした恋愛映画を撮ったことがあったのですが、当時脚本を作っている段階で“ただ恋愛しているだけで映画が成り立つのか?”というディスカッションをしたことがあって。

その中で“世界が異様だったら恋愛しているだけの映画でも成り立つかもね”という話になったことを覚えていたので、こどもに支配され、左利きが連れ去られていく異様な世界で、おとなたちは他愛もなく出会ったり、日常を普通に送っているっていうのは面白いんじゃないかなと思い、そうしました。

脚本、監督、それから編集と、全てやられたそうですが、何が一番大変でしたか。

井口監督:一番大変なのは脚本ですね。

どんな作品でもそうなんですけど、脚本を書いている時は、”こんなことやって意味あるのかな?”と思っていて。でも撮影になるとそんなこと言ってられないし、編集も大変だけど、それでも続けられるのはやっぱりなんだろう…楽しいからです。

こどもだけではなく、おとなの役者さんも登場しますが、みなさんとはどのようなコミュニケーションをとられていたのですか。

井口監督:脚本にセリフや動きなど、お願いしたいことは全部書いてあるので、現場ではほとんど何も言わないことが多いです。

そうすると役者さんたちも自由にやってくれるというか。

やってみてもらったら、ちょっと監督の意図と違うときももちろんありますよね?

井口監督:そういうときは、例えば右から歩いてくるシーンだったら、「左から歩いてみようか」みたいに言って、具体的に変えてもらっちゃう。

そうすると“違うんだな”って役者さんたちも分かるので、違う風にしてくれたりしますが、だいたい3日くらい撮影していると役者さんたちも役に慣れていくのか、何も言わなくてもいい感じにやってくれるようになります。

そうなんですね。結構話し合いをされる監督さんもいますよね。

井口監督:私は全然しないです。

たぶん脚本に書いてあること以上に私の好みを伝えてしまうと、役者さんが考えすぎちゃってOKが出にくくなると思うんです。

人間、考えないでって言っても考えちゃうので。

確かにそうですよね。考えないでやってもらうほうがいいのでしょうか。

井口監督:そうですね。

日常で生きている人たちって、瞬間、瞬間が一番新しいし、別に先のことは知らないじゃないですか。先のことを考えながら今を生きていたりしないのではないかなと。

だから先のことを考えていると、それはリアルじゃなくなっちゃう。

何も考えてないっていう状況で、ただ書かれているセリフを言ってもらって、動いてくれたらそれでいいんですよね。

個性的な俳優陣のキャスティング秘話・作品の見どころについて

主演の名古屋愛さん(神戸りん役)へのオファーはどのようにされたのですか。

井口監督:今回準備期間がすごく短くて、私自身もあまり役者の知り合いもいないので、私が講師をさせてもらっている「ENBUゼミナール(映画と演劇の学校)」の演技コースの知り合いに「こんな感じで、このくらいの年齢層の女優さんいませんか?」と聞いたところ、一晩で何十人もの写真を送ってくれて、そこに名古屋さんがいました。

写真を見た瞬間に、この方がいいんじゃないかと思ったのですが、さすがに写真しか見ていないのにオファーしてしまうのはどうだろうと思ったので、インスタも拝見したんですね。

今回はやっぱりちょっとオタク的な、ちょっとした狂った感じがあるけど、ちょっとぼんやりしてる、自我が抜けている感じの女の子がいいと思っていたら、名古屋さんのインスタに“エイゼンスシュテイン※に関わる本を読み漁りました”という旨の投稿があって、“もうこの人だ…面白すぎる…”と思ってお願いすることになりました。

※ソ連の伝説的なサイレント映画の巨匠

提供:映画『左手に気をつけろ』

大抜擢だったのですね!確かに舞台挨拶の話し方とか仕草が、役に似てるなと思いました。

井口監督:本人の方が面白いかもしれないです。

一人で静かにしてるなと思うと、川原で石をひっくり返したり、蹴ったりしてました(笑)。

監督がオファーされる際は、すでに役に似ている方にお願いすることが多いのですか。

井口監督:どうだろう…そうかもしれないですね。この人がそのまんまでいてくれたら、もうOKという人に声をかけているという感じがします。

例えば、劇中に三田ゆりかっていう、もう一人女の子が出てきますが、美女だけど、情が厚そうな人を探していたんです。

そういう“説得力のある美女”を探していたところ、以前の私の映画にも出てくれていた北口美愛さんにオファーすることになりました。

彼女、おにぎりを食べるシーンも「いつもの自分と一緒です!」と言って、おにぎり5個ぐらい食べてくれて(笑)。

あと明石翔平という男の子の役は、眼鏡をかけているとちょっと地味な感じだけど、眼鏡を取るとイケメンで、みんなにキャーキャー言われるような人をイメージしていました。下校しようとすると、窓辺に女の子たちが見送ってるみたいな、静かな人気のある人が良かったんです。

提供:映画『左手に気をつけろ』

結構具体的なイメージがあったのですね(笑)。

井口監督:そうなんです。でもなかなかイメージに合う方が見つからなくて。

講師をしているENBUゼミナールでは、講師生徒の間柄のうちは個人的な交流を持たないようにしているのですが、そこに通っていた松本桂さんがイメージにぴったりで…背に腹は代えられない、ということでオファーしてしまった、という経緯です(笑)。

しかも3月が撮影で、オファーが決まったのはギリギリの2月だったんですけど、「やります」と快諾してくれて、ありがたかったですね。

作品の見どころと、監督が一番お気に入りのシーンを教えてください。

井口監督:見どころは、すごくこどものパンチが効いているところですかね。

自分で編集してる時も、“こんなにパンチが効いてて大丈夫なのか”って思うくらいでした(笑)。

好きなシーンは、ある人を陥れようとした神戸りんが思いとどまる場面です。

実はそれが今回すごくやりたかったところで、山中貞雄監督の『河内山宗俊』(1936)の、不良が自分の利益とは全く関係なくかわいい女の子を身を挺して助ける、そんな物語を描きたいという気持ちがありました。

こういう話を名古屋さんにも一切してないんですけど、名古屋さんがそのシーンをすっとナチュラルにエモく演じてくれたことに感動しました。

映画をご覧になった方からのコメントや反響をご覧になってみて、いかがですか。

井口監督:いろんな方からコメントをたくさんいただいたんですけど、みんなそれぞれ感じてくれたことが全然違って…!

意見が全然違うというか、例えば「優しさが~」みたいなことをおっしゃっている方もいたり、「破壊が~」とおっしゃている方もいたりして、同じ映画とは思えない(笑)。

それがすごく面白かったです。

映画って感じてほしいことを決めて作っている方も多いと思いますが、どういうことを感じてほしいとかはありますか。

井口監督:特にないです(笑)。

自由に気軽に観て、好きなように楽しんでいただけたら嬉しいなと思います。

6月8日(土)からの公開が楽しみですね、ありがとうございました!

井口 奈己(いぐち なみ)プロフィール

1967年、東京生まれ。在学中に、矢崎仁司監督『三月のライオン』の現場に録音助手として初参加。その後、黒沢清監督『地獄の警備員』など、数々の映画で録音助手や助監督を務める。1997年、はじめての自主映画に着手。完成までに4年を要した『犬猫(8mm)』は、PFFアワード2001で企画賞(TBS賞)を受賞し、8mm映画作品としては異例のレイトショー公開され、第12回日本映画プロフェッショナル大賞新人監督賞を受賞。2004年、『犬猫』を35mmでリメイクし、第22回トリノ国際映画祭で審査員特別賞、国際批評家連盟賞、最優秀脚本賞を受賞した他、女性監督として初めて日本映画監督協会新人賞を受賞。2008年に監督・脚本を手がけた2作目の『人のセックスを笑うな』が公開。2014年『ニシノユキヒコの恋と冒険』が公開、他に2019年短編『だれかが歌ってる』。2021年『こどもが映画をつくるとき』は初のドキュメンタリー作品。

HP 映画『左手に気をつけろ』オフィシャルサイト
X 映画『左手に気をつけろ』|6/8(土)より公開!(@hidarite_movie)

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