実在する福島の移住者をモデルにしたオムニバスドラマ『風のふく島』。このドラマの第6話に出演する北乃きいさんは、飯舘村でキャンドル作りをする女性の人生を演じます。
東日本大震災直後からひとりボランティアとして福島に入って活動した北乃さん。彼女の目に映る今の福島と、気になる結婚観を伺いました。
ドラマ25『風のふく島』作品紹介
福島12市町村(※)を舞台にしたドラマであり、実在する12名の移住者たちにフォーカスした1話完結のオムニバスドラマです。葛藤や挫折をしながらもそれぞれの課題に挑戦して移住に至る姿や、福島県の人々との交流を通じて成長していく様子を、実在する場所やモデルとなる人物にインタビューを行い、そこから着想を得たストーリーをオムニバス形式で紡ぎます。
北乃きいさんは、仕事に悩みを抱える中でキャンドル作りに魅了され、飯舘村に移住する朝比奈三咲(あさひなみさ)という役を演じます。(第6話は2月14日放送予定)
2025年1月10日から、毎週金曜深夜24時42分にテレ東系で放送
(※)福島12市町村…東日本大震災の際、東京電力福島第一原子力発電所の事故に伴う避難指示の対象となった田村市、南相馬市、川俣町、広野町、楢葉町、富岡町、川内村、大熊町、双葉町、浪江町、葛尾村、飯舘村を指します。
ドラマ『風のふく島』公式サイトより引用
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●ドラマ『風のふく島』公式X @tx_fukushima
共演する子役と気持ちを通わせるために、自宅からおもちゃ持参でロケに参加
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―今回の役どころについて教えてください。
北乃きいさん(以下、北乃):私が演じた三咲(みさ)は、人生に悩みながら、さまざまな人と出会って成長していく女性です。自分のやりたいことを諦めない姿、強く前向きに生きていく姿に刺激を受けました。
ドラマには、モデルになっている実在の方がいらっしゃるので、台本を読んでいてもドキュメンタリーを読んでいるような気持ちになり、責任や役の重みを感じました。ファンタジーテイストなのも楽しみでしたし、キャンドル作りをする役も初めてで、演じる前からすごくワクワクしました。
―撮影で印象に残っていることはありましたか?
北乃:撮影で思い出に残っているのは、三咲の分身・ミニミサとの共演シーンです。私、今まであまりファンタジーな作品に出たことがないのですが、撮っている時から「これ、絶対に可愛い!」と思えるようなシーンだったので、仕上がりがすごく楽しみです。
一緒にお芝居をするミニミサ役のマイカ・ピュちゃんは、自分の小さな分身という設定で、なんだか不思議な感じがしました。
―目の前にいる自分の分身と芝居する…。難しそうですね。
北乃:ミニミサは三咲の分身で、2人でひとり。撮影期間は役作りのためにもマイカちゃんとずっと一緒に過ごそうと思ったので、仲良くなるために家から折り紙とか間違い探しの本とか…その年の子が喜ぶものを持って行ったんです。「今日はこれやろう」とか「今日はこれかな」なんて考えて。
撮影の空き時間におもちゃで遊んだり、シールをあげたり、一緒にお菓子を食べたり。妹と同じぐらいの子だから、何が好きなのかもだいたいわかるんです。
「ロケバッグがこんなにおもちゃだらけになること、あっただろうか」っていうくらい毎日新しいおもちゃを投入してましたね。それがすごく楽しかったです。
去年、アンガーバランス・マネジメント や、チャイルドコーチングマイスターという資格を取ったことが、今回のドラマで子役の子と接する際にもすごく役立ちました。
―北乃さんは子どもの心をつかむのが上手なんでしょうね!福島ロケはいかがでしたか?
北乃:私、“道の駅”がめちゃくちゃ大好きで、たった10分でもいいから絶対に行きたいタイプ。
今回のロケ地・飯舘村にも道の駅があったので、滞在した3日間のうち2日出向きました。
野菜がとにかく大きくてリーズナブル!花束も抱えきれないほどのボリュームなのに、すごく安い。翌日再び行ったら、店員さんが私に「お帰りなさい」って言ってくれるんです。なんだか家族みたいだなと思って嬉しかったです。
撮影中にもエキストラの皆さんが、初対面の私に「きぃちゃん!」ってフレンドリーに接してくださって。空気もすごく綺麗で、たくさんの人とおしゃべりできました。「福島は人がいい」ってみんなが言いますが、それ、本当です!
自分の演技に満足したことなんてない。「反省して次に生かす」の繰り返し
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―最近の北乃さんは、ぐっと落ち着いた作品に出演されている印象があります。
北乃:10~20代は恋愛系のドラマに出ることが多かったんですが、実は私自身、恋愛ジャンルにはそこまで興味がないんですよ。
むしろ昔からヒューマンドラマが好き。ここにきてヒューマンドラマにキャスティングしていただけることが増えました。年齢的に、そういう作品に出していただけるようになったのかもしれないです。
今回のように、主人公が夢に向かってひたむきに頑張っていく役は、演じていてすごくやりがいがあるなと思いました。
―主人公の三咲さんは仕事がうまくいかずに悩んでいたという女性ですが、北乃さんにも仕事で悩んだ経験はあるのでしょうか。
北乃:あります!なんなら、うまくいっている経験の方が少ないかもしれない。自分の演技に満足したことはないんです。
―え!意外です。
北乃:もちろんすべての作品、全力で演じていますし、監督にOKはいただけてはいます。でもなぜか、完パケや試写、オンエアを見ると、自分の演技の反省点ばかりが目についてしまう。あとから気付いた反省点を修正して、次のアウトプットにつなげていくという作業をひたすらやっていたら、20年経ってしまったような感じ。
まだ完成品をもらっていないのですが、「なんでここをもっとこうしなかったんだろう」と思っている部分が絶対にあるはず。それをまた修正して、次の作品に臨む。その繰り返しです。仕事を始めた13歳の時からずっとそうですね。
東日本大震災で福島のボランティアに参加。福島にはずっと寄り添いたい
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―北乃さんは、東日本大震災の時に、自ら進んでボランティアで福島に入られて画用紙や折り紙を被災地の子どもたちに届けたり、写真洗浄や瓦礫撤去もされていたと聞きました。
北乃:そうなんです。画用紙や折り紙は事務所の社長と一緒に被災地に行きましたが、ヘドロの洗浄や瓦礫撤去のときは、何回かプライベートでひとり福島に入りました。マスクをつけていると顔を見られることもないし、私だとバレないから(笑)。
―すごい行動力だと思います。
北乃:私、小学1年生のころから、週末は市のボランティアに参加する趣味があったんです。福島の被災地でのボランティアもその延長線上にあって、自分の中ではあまり特別なことではなかったというか。
―震災から14年。今も福島には、震災を経験された方が数多く暮らしています。役を通して、福島の方にどんな思いを伝えたいですか。
北乃:私の演じた三咲とも重なってしまうのですが、諦めずに困難に立ち向かっていくこと、自分を奮い立たせて、自分自身に常に問いかけながら夢を叶えていく姿は本当に素敵だなと思いました。
そういう姿を作品から感じ取っていただけたらと思っています。
こうして福島の作品に携わらせていただいて、今あらためて思うのは、震災の記憶を風化させないことがすごく大事だということ。
福島を忘れずに、住民の方に寄り添ってみんなで支え合っていくこと。そして今回の作品のように、福島に携わり続けていくことが大切だと思っています。今回も“福島の今”を伝え続けるお手伝いができてよかったです。
―今回は福島への移住がテーマですが、もし移住したらどんな過ごし方をしますか。
北乃:今の年齢で移住するなら、第2の故郷になるように町おこしに携わってみたいかな。でも本当に移住するなら老後がいいです。飯舘村は空気が綺麗で、そこに自分がいるだけで、何もしなくても幸せを感じられる場所だなと思いました。移住したら、本当に何もしたくないですね(笑)。
結婚も出産も現世でしてみたい。でも今の独身生活もかなり楽しい
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―30代で自分の人生を見つめ直し、福島に移住した主人公のように、北乃さんもご自身の生き方を振り返る瞬間はありますか。
北乃:実は私は30代の今よりも、母が私を生んだ19歳という年齢のときに、自分の年齢を強く意識したかもしれないです。19歳は、私はバリバリ仕事をしてたので。「母と同じ年齢なのにフィアンセもいない、婚約もしていない、結婚もしてなきゃ子どももいない」って思って。
若い時に子どもを産むか、少し年齢が進んでから産むか、どっちがいいのかなと考えてはいたんですが、そうこうしているうちにいつの間にか30代になってしまった(笑)。ここまで来たら、いい巡り合わせが来るまで仕事を頑張って、それから出産してもいいかなって思っています。
―かつてインタビューで「現世では一生独身でいい」っておっしゃっていたようなので、結婚や出産は考えていないのかと勝手に思っていました。
北乃:違うんです!
とあるインタビューで結婚について聞かれて、「結婚できなかったら来世で結婚してもいいけど、もちろん現世で結婚したい」って言ったのに、「現世ではずっと独身でいい」っていう感じにまとめられてしまって。
しっかりと子育てもしてみたいし、お嫁さんにもなってみたい。仕事でウェディングドレスもたくさん着させてもらったけど、自分個人としてウェディングドレスを一度着てみてもいいのかなって思ってます。
―そうだったんですね(笑)。「この年齢までには結婚したい」という希望はあるんでしょうか。
北乃:それが…ないんですよ。だから危なくて (笑)。
このままでいいやって思っている自分がいるからダメなんですね。結婚したい自分もいるけど、今好きなことを好きなようにできる自分も気に入ってて。
独身だと好きな時間に寝られるし、好きな時間に起きられる。お弁当だって作らなくていい。好きなときに映画を観に行けるし、行きたいときに美容室に行ける。今が一番楽しい!
この幸せを手放してまで、自分の時間を子育てに全部費やせるかなと。結婚している友達も多いけれど、私は今の自分が楽しいから…危ないと思ってます。こんな幸せな時間を過ごしていたらつい、「このままでもいいか」って思っちゃうから(笑)。
でも人から「子どもを持って初めて分かる幸せもあるよ」って言われたら、そうなのかなとも思うし。子育て経験はきっと役者としての幅を広げてくれると思うから、結婚も子育てもしてみたいなと、ホントに思っているんですけどね(笑)。
―幸せの報告、楽しみにしていますね(笑)。毎日忙しいと思うのですが、疲れているときはどうやってリフレッシュされていますか。
北乃:掃除です。
疲れて「わーっ」となったときに掃除すると、無になれる。掃除をしている時間には何も考えない。頭の中のセリフとかも一度全部頭の中から出します。
今日も朝からずっと掃除してました。定期的に掃除しているから、年末大掃除するほどの汚れはたまらないんです。昔からじゃないんですよ、ある時から急にそんなタイプになったので不思議です。
でもこの性格、きついときもあって(笑)。「トイレに入ったらトイレ掃除をする」と自分で決めちゃっているから、何回か続けざまにトイレに入っても、その度にトイレ掃除せざるを得ない。
汚れていないのに、便座まで上げて全部綺麗にするルーティンがやめられないんです。
―見習いたいです(笑)。ちなみに北乃さん、お肌がすごくキレイですね!こだわっている美容法はあるんですか?
北乃:実はパックがすごく好き。周りの30代はみんなエステに行ってるんですけど、私はエステに行かない分、毎日パックするようにしています。
―最後に、2025年にチャレンジしたいことを教えてください。
北乃:20代には明るくて前向きみたいな役が多かったので、今までやったことない役柄にすごく興味があります。20年間でやってきたことのないような役柄に挑戦してみたい…。これは毎年言っていることなんですが(笑)。
あとは私、インプットするのはすごく好きなんですけど、アウトプットが下手。2025年はインプットしたものをアウトプットする作業をしっかりやっていきたいです。
人は覚えたことを人に伝えると、すんなり覚えられるそうで。絶対に忘れたくないことは、誰かにすぐ伝えようと思いました。あとは今年も勉強して、資格をなにか何か取得したいと考えています。
北乃きい(きたのきい)プロフィール
1991年3月15日生まれ、神奈川県出身。2005年にモデルとして芸能活動をスタート。以来、映画『幸福な食卓』(主演)、『ザ・テノール 真実の物語』、『おしょりん』(主演)、『てっぺんの剣』(主演)ほか。ドラマは、NHK連続テレビ小説『なつぞら』、『嘘解きレトリック』、『御手洗家、炎上する』(Netflix)ほか数々の話題作に出演し、主演作も多い。2023年には舞台『ロミオ&ジュリエット』でも主演を務めた。第45回ゴールデン・アロー賞 新人賞、第31回日本アカデミー賞新人俳優賞などの受賞歴もある。趣味は中国語、特技はモダン・クラシックバレエ。2024年にはアンガーバランス・マネジメント、チャイルドコーチングマイスターの資格を取得。
●Instagram @kie.kitano.official