プロ野球引退後、石原プロモーションの下でアクション俳優として活躍、『ルーズヴェルト・ゲーム』(2014)では寡黙な4番バッターとして出演。193㎝の長身で強面の役が多い小橋さんですが、実際にお会いしてみると、とても親しみやすくてユーモラス。一言で言うと「渋かっこいい」方でした。今回は、これまでの出演作品や俳優人生について語っていただきました!
プロ野球から俳優業界へ|人生を動かした野村監督の一言
ーなぜプロ野球選手から俳優になろうと思ったのですか。
野球でけがをした後、2年間くらいトラックの運転手をやっていたんですけど、友人の横浜ベイスターズの大家友和 (おおか ともかず) は、そのときメジャーリーグで凄まじい活躍をしていました。大家の頑張りに刺激を受けて、野球に打ち込んでいたあの頃の日々のように、何かを基準にした生活をしたいなって考えるようになって…。
今までの人生で自分がやっていて楽しかったことってなんだろうと振り返ってみたんです。中学生のとき、文化祭で演劇をやったんですけど、その演劇で主役をやらせてもらって、優勝したんです。
そのときの記憶が自分の中ではすごく楽しかった思い出で、単純なんですけど、俳優をやってみようかなって思いました。
ーなるほど。中学生のときの文化祭が相当楽しかったんですね。
俳優をやってみようかなって思うだけなら簡単でなんですけど、実際に本気でやろうと思ったきっかけがありました。完全に僕の勘違いかもしれないんですけど、当時野球をしていたときの監督が、かの有名な野村克也監督で、挨拶をしに行ったら去り際に後ろから、ぼそっと「…スター性だけはあるな」って聞こえたんです。
周りに誰もいないし、「え、もしかしてこれ僕のことかな」って思ったんですけど、その時は聞けなかったですし、今となってはもう聞けないんですけどね…。
ーその一言がきっかけで本格的に俳優をやることを目指したのですか!
「野村監督に言われたし、もしかしたらスター性あるのかも…」っていう思い込みから、もう一回一生懸命やれることをやろうと思って俳優を志し始めました。
ー実際に俳優としてのセカンドキャリアを始めてみて、いかがでしたか。
当時は月9に出るようなさわやか俳優を目指していたんですが、気がついたらヤクザ、ボディガード、テロリスト、良くて刑事とか(笑)。でもアクションを学んで、自分の野球をしていたときの体力や身体の使い方を活かせるジャンルができて、本当に運がよかったなと思います。
―役者の楽しさはどういうところに感じますか。
正直、俳優を始めて最初の頃は 「テレビに出れるから」「映画に出れるから」役者をやっているという甘い考えもあって、セリフもそんなに沢山話すわけじゃないし、僕の背の高さで呼んでもらっているから、立ってればいいのかなくらいの感覚だったんです。
その考えが『藁の盾 (わらのたて)』(2013)に参加させていただいて変わりました。今では、台本にないこともときにはやる、それが役者の楽しさだと思っています。
転機となった2013年の『藁の盾 (わらのたて)』
映画のラストシーンに出させていただいたんですけど、セリフもなくて、山﨑努さんの後ろに立っているだけの、ボディガード役の3人のうち 1人だったんです。3人でただ並んで、車から降りてくる山﨑さんをただ見送っている役なんですが、その後に山﨑さんが敵討ちに遭うんですね。
でも、そこで本来の台本では、ボディガードたちは助けに行かないんですよ。そしたらボディガード役の先輩2人が「ボディガードなのに助けに行かないのはどうなんでしょうね」って話始めて、そこから監督とも話をしていくと、そのボディガードっていうのは山﨑さんが目的地に無事にたどり着くまでの役目だったようなんです。でもそれをどう表現しようかという話になって…。
ボディガードってみんな基本銃を取りだしやすいようにスーツの前のボタンって絶対に開いているんです。なので、最後に車を降りた山﨑さんが、後ろを振り向いてこちらにちらっと頭を下げるタイミンでみんなスーツのボタンを一個閉める、これでボディガードの仕事は終わりだということを表現することになったんですよ。
ー仕草ひとつをとっても、お芝居にはとても大事な要素なのですね。
その時に初めて「役者ってこういうことなのか」と、もちろん台本に書いていないことを勝手にやったらダメですけど、もっと何かできることはないかなってその場その場で考えるようになりました。
ー役作りにあたって工夫されていることはありますか。
例えば『僕らはみーんな生きている』(2022)では、周りから追い詰められて、介護していた父親を保険金目当てで殺してしまうという役なのですが、元来真面目な性格で、たぶん楽しみって言ったら月に1回夜にラーメンを食べに行くことくらい、そういう人じゃないかなというのを自分の中で作って、監督と話したところ、同じ認識でした。
これはもう監督の期待に応えたいと思って…!そこからやつれた感じを出したくて、ご飯を全く食べない生活をして、今の体重からいうと10kg くらい落としました。
しかも普通の人なら半年で徐々にダイエットしていくと思うんですけど、半月で減らしたので我ながらストイックですよね(笑)。
俳優としての今後に注目
ーヤクザ、ボディガード、刑事…とさまざまな役柄を演じていらっしゃると思うのですが、今後やってみたい役はありますか。
正直、役に関してこういうのをやりたいっていうのはないです。挑戦したことのない役でも、もちろんやってみたいです。オファーがきたら絶対に断りたくないし、僕にお願いされたのであれば、必ずその期待に応えたいなって思っています。まあ、究極はモテモテのイケメン役がやりたいですね(笑)。
ー無口で不器用な役が多いとおっしゃっていましたが、そういう役柄であるからこその難しさは?
無口だとセリフで表現できない分、顔や表情、仕草で伝えないといけないので、簡単なようで難しいです。実際、僕も昔はその方が楽だと思っていたけど、難しい。その分、何かを伝えられた時の喜びは本当に大きいです。
ー2024 年はどのような年にしたいですか。
僕を入れてくれた事務所に少しでも恩返しができるようにしたいですし、「あの俳優の事務所ここなんだ」って思ってもらえるような仕事がしたいです。
小橋正佳(こばし ただよし)プロフィール
高校野球部の監督である父親の影響で、小学2年生から野球を始める。1993年にドラフト5位でヤクルトスワローズに入団するが、1997年プロ野球3年目に右肘を壊し、一軍登板することなく引退となった。27歳の頃から石原プロモーションの下でアクション俳優として実績を積み、現在に至る。2014年4月より放送された「ルーズヴェルト・ゲーム」(原作:池井戸潤)では青島製作所野球部の4番バッターとして、レギュラー出演。会社の業績悪化の為、廃部危機にある青島製作所野球部の寡黙な4番バッター鷺宮を演じた。
有限会社アーティストボックス公式 HP より引用