『爆上戦隊ブンブンジャー』のブンバイオレット・焔先斗(ほむらさきと)役で一躍話題になった宮澤佑さん。映画『夢に生きる』で藤堂日向さんとW主演を務めます。
端正なルックスとイケボが話題の宮澤さんは、下積み時代を経てようやく注目され始めた側面もあるそう。夢を追いかける若者の生きざまを描いた映画出演にちなんで、ご自身の“夢”の軌跡を伺いました。
映画『夢に生きる』作品紹介
夢を信じるシンジ(藤堂日向さん)と夢を諦めたアキラ(宮澤佑さん)の「夢」をめぐるクロスストーリー。
アキラは社会人になってミュージシャンになる夢を諦め、日々の仕事に忙殺され自分を見失っていた。シンジにとってアキラは高校時代から憧れの存在だった。シンジはアキラの背中を追いかけて、ミュージシャンになるために、東京でアルバイトをしながら路上ライブの日々を送っていた。
そんな時、東京の街でアキラとシンジが再会する。現実に追われながら夢を取り戻そうとするアキラと、夢を追いながら現実に直面するシンジ。「夢」と「現実」との狭間で揺れる人々の、リアルな葛藤やもがきを描いた渾身の一作。
3月28日よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開。
※映画『夢に生きる』公式サイトより引用

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「宮澤くんはもうちょっとダメになってくれ」と監督から

ー映画『夢に生きる』に出演されるきっかけを教えていただけますか。
宮澤佑さん(以下、宮澤):オーディションの募集を見て、やってみたいなという思いから応募しました。この映画には、夢を追いかけているシンジと、夢を諦めて仕事に忙殺されているアキラという2人の主人公がいます。役者としてリアリティのある役を演じてみたいなと思いました。
今回の映画は、脚本と監督を務められた石田(祐規)さんの実体験や思いが込められている映画です。石田さんご自身のストーリーなのだと知ってからは、演出やセリフを含めて大切に演じたいなと思いました。
ー今回演じられたアキラは、ご自身と似た部分はあるのでしょうか。
宮澤:むしろ違う部分の方が多いと思います。それこそ石田さんに最初に「宮澤くんはちょっとアキラっぽくはないから、アキラに合わせてもうちょっとダメになってくれ」って言われたほど(笑)。
ただ、俳優という仕事は、夢に向かって走っている部分もあるじゃないですか。その過程で挫折したり、苦しい期間はやっぱりある。僕は今年30歳になるんですが、特に20代の半ばのころは、夢に向かって走るのがしんどいと思っていた時期でした。そこはアキラに共通する部分でもあるかなと思います。
ーこの映画の見どころはどんなところですか。

宮澤:この映画は、単純なハッピーエンドでもバッドエンドでもないんです。そこが僕の中ではすごく新鮮でリアルだなと思いました。
よくあるパターンは、主人公が挫折しながらも、這い上がって成功するみたいな、起承転結がはっきりしているようなサクセスストーリー。そういう作品に比べて、今回の作品では、登場人物たちは最後までもがいているんです。夢が叶うってわけでもないかもしれない。でも、リアリティってそういうことかなと思うんです。
今回の映画を見て、もちろん感動してくれる人はいると思う。でも、感動ばかりでなく、挫折に苦しむ感覚だけでも伝えたい。きっと同じような立場にいる人の心には、なにか刺さるものがあると思います。
苦しい、悔しい、もどかしいといった感情は、多くの人が経験しているもの。僕のアキラを見ている人が「アキラはちょっとムカつくな。でもなんとなく分かる」みたいな感想でもいいから、この映画を見て何かを感じてもらえたらいいな、と。「もじもじしないではっきりしろよ」でもなんでもいいから…。そんな気持ちで演じました。
ー撮影中のエピソードを教えていただけますか。
宮澤:大変だったのは、1~2週間、撮影期間が空いてしまうことが多かったことですね。撮影期間にブランクがあると、キャラクターの感情や、それまでの演技との整合性をとるのがなかなか難しいんです。
綿密に稽古や本読みをやりながら、石田監督の思いとのすり合わせを繰り返しました。
ーシンジ役の藤堂さんともいろいろ話し合ったのでしょうか。
宮澤:(藤堂)日向と共演するシーンは、実は出会いの場面とラストシーンぐらいなんです。あとは電話のやり取りばかりですから。一緒にシーンを積み上げていくことができない分、感情の作り方が難しかったですね。
ただ、シーンの中で一緒に行動しているわけではないけれど、実際にシンジとアキラは同じ世界線で生きている。学生時代のシンジとアキラの立場の違いや、最後のクライマックスに向けての気持ちなどを揃えたくて、日向ともたくさん話し合いました。
ー最後、本当にいいシーンでした。グッときました。
宮澤:ありがとうございます。
サッカー選手を目指すも挫折。俳優業にも苦悩する中、突然の転機が訪れる

ー宮澤さんは学生時代に13年間もサッカーをやられていて、プロも目指していたとか。まさに“夢を追いかけていた人”ですよね。
宮澤:そうですね。プロサッカー選手への夢を持ちながら育ちました。中学時代はエスパルス下部組織だったんですが、高校に入る時にユースのセレクションで落選。そこで一度目の挫折を経験しました。
高校時代も高校のサッカー部に入り、副キャプテンをしていました。全国大会へは高校2年の時に出場したものの、腕を骨折してしまったのでベンチ。それも挫折というのか、悔しい思いはありましたね。
サッカーは好きだったんですけど、高校に入り、怪我も多くて実力不足なこともありプロへの道は険しいと思ったので、もう高校で終わりにしようと思いました。高校3年のスタメンの中で、唯一僕だけがサッカーをやめて東京に出て、普通に大学生をしていました。飲食のバイトをしつつも、その頃は本当に、チャランポランに生きていたかな。
ーそして、芸能のお仕事を始められていく。
宮澤:俳優の仕事を始めたのは19歳の時ですね。初めて『ガールズ・ステップ』という映画でレギュラーのクラスメイト役をさせていただくことになりました。撮影の現場がかっこいいなと思ったのが、この道で生きていくきっかけになりました。
就活をどうするかというタイミングで、やっぱり就職するのではなく、芝居を続けたいなと思ったんです。一度きりの人生なら、本当にやりたいことにチャレンジしてみたいと思ったから。
もともとテレビや映画に出たいと思ってはいたものの、20代中盤までは舞台が多かったですね。舞台に出ている最中に映像のオーディションを受けて受かっても、舞台の仕事を中断できないから、結局、映像作品には出演できなくなってしまう。
そもそも映像の仕事は簡単に受かるものじゃないので、だったら舞台の出演を一度全部やめて、映像の仕事にチャレンジしてみようと思ったのが25歳の時です。アパレルや飲食、ブランドのドアマンなど…いろいろとバイトをしながらオーディションを何本も受けて、それでも受かったのはたった数本。しかもセリフがある役じゃないなんてことはザラだったので、結構悔しかった。
このままバイトだけを続けていくことになったらどうしようかなと思っていて、自分の中で「芽が出なかったら27歳で辞める」という区切りを作りました。そこからなぜかチャンスが巡ってきました。

ーきっかけとなったお仕事は。
宮澤:『刑事7人』というドラマでした。昔出演した『警視庁・捜査一課長』という作品のスタッフの方が呼んでくださったんです。そのとき役のために髪にメッシュを入れたら、そこから半年で1本しか通らなかったオーディションが、立て続けに7、8本受かり出すんです。髪が長かったのも良かったのかな。
その後、『親愛なる僕へ殺意をこめて』や映画『OUT』に出演が決まったので、「俳優をやめるのは今じゃないな」と感じました。そして今回の『夢に生きる』や、『爆上戦隊ブンブンジャー』に繋がっていきます。きっと運がよかった。
役をいただけるようになったから「もうちょっと頑張ってみようかな」と思えて、俳優を続ける原動力にもなっています。まだちょっと役者の道を諦められないんですよね。役者としての可能性があるなら、まだまだやりたい。演じることが好きですし。
ー宮澤さん自身、夢を追いかけていくことは一貫していますね。
宮澤:そうですね。お芝居もサッカーもそうだったんですが、好きなことだったからずっと続けられたっていう感じです。それ以外のことなら全然負けてもいいんですけれど。そういう意味では、僕自身はシンジの方に近いかもしれません。
ー夢を叶えるためにはどうすればいいんでしょう。
宮澤:結局のところ、夢が叶うかどうかは、本当にやりたいのか、やりたくないのかに尽きると思うんです。
戦隊ものも、実は10年間オーディションを受け続けていて全く受からず、「もうオーディションを受けるのやめよう」と何度も思ったし、マネージャーにも「今回で最後にする」と言っていた。そしたらついに『ブンブンジャー』のオーディションに受かりました。
映画『OUT』のオーディションのときも、「こういう役がやりたいと思って、たくさん作品を見て研究してきたから、この役をやらせたら絶対に俺が一番うまい」って思って臨んだからこそ、役を勝ち取れた。そういう時ってすごく嬉しいし、自信がつくんですよね。
“努力”という言い方が適切かはわかりませんが、いつかやりたいという気持ちで諦めずに信じていれば、自ずと努力するんじゃないかなと思っていて。そうやって前に進んでいれば、それが形になった時に余計に嬉しくて、「じゃあもっと頑張ろう」と思える。僕自身、その1つ1つの積み重ねでやってきました。
やりたい役は、「演じたい」と思っていれば絶対いつかやれると思っていますし、「夢を叶えたい」と思っていれば、きっと夢に近づけると思っています。
表情ひとつでキャラクターの思いを伝えられる役者に

ー宮澤さんは4月に30歳。節目の年ですね。今までを振り返り、30代に向けての意気込みをいただけますか。
宮澤:20代前半は、学生やバイトをしながら俳優も続けて、夢はあるものの、やりたいことがはっきりしていなかったかもしれないです。でも、20代後半になって一つ一つ仕事が実になり、俳優であり続けたいなという思いは、年齢を重ねるごとに強くなっていくので、30代になっても変わらず演じ続けていきたいです。
街を歩いていても、たくさんの人がいますよね。その一人一人に違った人生があるわけで、そういう人間の人生を映画やエンターテインメントの中で表現するのが役者という仕事。僕にとって役者をする意味は「売れたいから」ではなく、人の人生を背負って表現していきたいというところにあります。終わりがない仕事なので、どこまで続けられるか不安はありますが。
ーこれからどんな俳優になっていきたいのでしょうか。
宮澤:作品を見た人に何かを感じてもらうのが、役者の仕事の醍醐味だと思っているので、見た人の心に何かを残せる人になりたいですよね。
僕は韓国のパク・ヘスという俳優がすごく好きなんです。彼はセリフを言わずに、表情だけでキャラクターの感情を伝えられる役者さん。それってすごいことじゃないですか。
役には役者自身がそれまで辿ってきた人生がにじみ出ると思うんです。だから僕自身、いろいろな経験をしていきたいし、その上で自分の演技を多くの人に見てもらって、「感動するな」「ムカつくな」「面白いな」…何でもいいから何かを感じてほしいです。
僕の演技や作品を見て、その日1日が楽しくなるような何かを伝えられたら、役者冥利に尽きると思っています。

宮澤 佑(みやざわ ゆう)プロフィール
1995年4月3日、静岡県出身。大学在学中に映画『ガールズ・ステップ』で俳優デビュー。テレビ朝日系『爆上戦隊ブンブンジャー』焔先斗(ほむらさきと)/ブンバイオレット役として出演し話題に。映画『OUT』や『春に散る』、『有り、触れた、未来』などにも出演し、その存在感と演技力で人気急上昇中。趣味はフットサル、競馬、ブラジリアン柔術。特技はサッカー(高校サッカー全国大会出場)、陸上競技(中・長距離)。
●宮澤佑 公式X @yuu_mi0403
●宮澤佑 公式Instagram @yuu_m0403
取材・文:小澤彩
撮影:髙橋耀太