マドンナのバックダンサーから女優へ。Netflix『忍びの家 House of Ninjas』に出演し、国内外から脚光を浴びました。
役との対話を真摯に続け、現在ドラマ『降り積もれ孤独な死よ』(読売テレビ)で、性暴力のトラウマを抱える女性という難役に挑んでいる女優・仲万美(なかばんび)さんにインタビュー。
ダンサー時代の苦悩や女優デビューしてから今までの挑戦について伺いました。
ドラマ『降り積もれ孤独な死よ』作品紹介
13人の子どもたちの白骨死体が見つかった、通称“灰川邸事件”。現場に残された謎のマークが、7年の時を経て、再び姿を現す。不可解な共同生活、“父”と呼ばれる容疑者、事件の6人の生存者、幾重にも隠された真実。降り積もる謎が予測不能な結末へ誘うヒューマンサスペンス!
読売テレビ・日本テレビ系全国ネット 毎週日曜よる10時30分放送中
(※『降り積もれ孤独な死よ』公式サイトより引用)
弱さを隠して生きているところに共鳴して演じた
―現在放送中のドラマ『降り積もれ孤独な死よ』で、仲さん演じる沖島マヤは、性被害の苦悩を抱える女性ですね。役への向き合い方や役作りについて教えてください。
仲万美さん(以下、仲):役作りは頭で考えてするというよりも、本能でしていると思います。
―本能ですか?
仲:ヘビメタを聴いてる感じがしたので、朝からヘビメタを聴いたりとか(笑)。
タトゥーショップで働いている女の子なので、タトゥーショップで流れてそうな曲。たしかにうるさいんですけど、でもそういう役づくりをしてますね。もちろん、調べたりもするんですよ。
―今回の役のことはどう調べられたんですか?
仲:被害を受けて悩んでいる女性たちが通うセラピーがあるのを見つけました。実際に大変な現実があることを知って、この役に向き合おうと思いました。
あと、マヤはタトゥーをしているんですが、それは、自分の弱さを隠すための鎧なのではないかと。実際は弱くて、繊細で、人のことを気にして、それを守るためにタトゥーをしてる。
私もタトゥーをしているので、「気持ちわかるよ、一緒だよ、大丈夫だよ」って、思いながら、彼女に近づいていきました。
―ダンスと芝居は向き合い方が違いますか?
仲:全然違います!
ダンスは、曲や衣装は変わるんですけど、振り付けは、自分が躍りやすい振り付けをしてたので毎回あまり変わらないように感じていました。
芝居は毎回、全部違う人間を演じるので、毎回新人という感じで、緊張します。
自分はあがり症で、毎回吐きそうなくらい緊張するんですけど、気持ち悪いって思いながら、終わった頃には気持ちよくなって、また芝居を続けたいっていう気持ちにさせてもらっています。
刺激が好きなんだと思います。毎回、挑戦するものがあると終わった後に満ちていって、幸せな気持ちになります。
―あがり症というのが意外です。舞台もされてますよね。
仲:舞台にでているときは、楽しさよりも緊張が頭も体の中も支配してる。不思議と終わると、楽しかった、またやりたいなって、心が言うので。
頭と心と身体がいろんなこと言ってる感じで、疲れるけど楽しいです。
マドンナのバックダンサーという肩書から脱却するため選んだのが芝居だった
―現在、女優として活躍されていますが、マドンナのバックダンサーにまでなって、頂点にいらした仲さんが、ダンスを辞めようと思った時のことを教えてください。
仲:ダンスは小さい頃からしていて大好きでした。ミュージカルのダンサーになりたかった母が、娘に夢を託したんです。いつの間にか、それが仕事になっていました。
好きなことが仕事になったんですけど、同時に、苦しくなっていました。ダンスを仕事にすることは望んでなかったので、自分を騙しているようなのも苦しくて、このまま続けていたら、ダンスを嫌いになるんじゃないかと思って、ダンスを好きでいるために辞めました。
―好きだからダンスを辞めたんですね。
仲:一番好きなことは仕事にはせず、趣味程度がいいです。
―やめるのを決意した最後のきっかけは?
仲:決意したきっかけは、やっぱり母です。もともとは母が私にダンスをさせたかったんですけど、私がダンスを続けていくときに、お金もかかったし、母もすごく頑張って働いてました。
母に働いてもらったお金でやってたダンスなので、ダンス辞める前に、母に、「辞めたらどうする?」って聞いたら、「あんたはダンスやめても私の娘だよ」って背中を押してくれました。
母との関係がこじれてた時もあったんですけど、母は分かってくれて、嬉しかったです。私を応援してくれるのが心の支えになりました。
―ダンスを辞めた時に離れたファンの方もいたんですか?
仲:そうですね。ダンスから逃げたみたいに思われて離れた方もいたと思います。ただ、Netflixの『忍びの家』に出たときの反響が大きくて、“アイツ結構頑張ってんな”みたいな雰囲気になっていって、それから応援してもらえるようになりました。
―ダンサー時代、マドンナのイメージがついていましたがそれはご自身はどうでしたか?
仲:故郷が熊本なんですけど、熊本地震があったとき、ダンサーやってて、海外にいたんです。それでなにもできない自分が不甲斐なくて、申し訳なくて、そのあと、ワークショップとかイベントとか九州で復興支援をしました。
でも「マドンナの」万美ってみんなが言うので、「マドンナ」は覚えてるけど、そのあとの「万美」は覚えてくれてるのか不安になりました。ただの私だけでみんなの前にいたいから。マドンナのイメージから離れるためにはダンスを辞めるしかないと。
いろいろ探す中で、なんでもやってみたいと思ってたんですが、お芝居が候補にありました。丁度、デビュー作となる映画の『チワワちゃん』の二宮監督から「オーディション来てくれ」って誘っていただいて、そこで台本というものを初めて持ったんです。
ワクワクしたのを今でも覚えています。なので、監督の「来てくれ」が今の俳優人生のきっかけです。
―芝居をはじめてからダンスとの関係性は変わりましたか?
仲:家の屋上で踊ってインスタにあげるくらいがいいなって。ダンスしてたときの関係が恋人だったとしたら、今はいとこです。親戚の集まりでたまに会うような距離感。
デビュー作からこれまでの作品で印象的なエピソードを教えてください
仲:『チワワちゃん』は、いまも共演者とつながってて、コロナ期間中に門脇麦ちゃんとテレビ電話をしました。
初めての現場だったんですけど、映画が仲間とか恋とかの青春の物語だったから、撮影以外でも仲良くしておこうとおもって、コミュニケーションをとってました。
私はみんなより歳が上の方だったんだけど、打ち上げで、プロデューサーさんが「万美のおかげで、みんな繋がったよ、ありがとう!」ってマイクで叫んでくれて、驚きました。そしたら、役者さんとか麦ちゃんも「万美に感謝だよ」って言ってくれて。
―すごいですね。それで今でも仲がいいんですね!
仲:仲がいいです!人見知りとかしないので人が大好きなんです。
他の役者さんから「役者の友達いない」って話、聞くんですけど、自分は割とコミュニケーションをとって仲良くなれるタイプだと思っています。
―最近のNetflix「忍びの家」の作品についてはどうですか。共演者の方々が、すごい方たちですが…!
仲:撮影現場では、どこを見てもベテランの方で、必死でした。追いつこうと思って。自分のケツを叩いて、一緒に並ばないといけなかったです。自分はペーペーなので、ケツ叩いて、相当努力しました。Netflixは自分にとって、大きな刺激がありました。
―主演の賀来賢人さんとインスタで兄妹みたいに仲良さそうでした!
仲:賀来さんは顔合わせのとき、すごい方たちに囲まれて一人緊張してた私に、「万美ー!」て向こうから気にかけてくれて、安心させてくれました。私よりも、人が大好きだと思います(笑)。ほんと良い人。
TikTokの動画はふざけすぎだけど、現場はそういう和気あいあいな時もありました。でも集中しているシーンはピリッと緊張感が半端なくて、役者さんみなさんのスイッチの入り方が垣間見れて、自分も集中できました。なんてカッコいい人たちなんだろうって、監督もスタッフさんもみんな。
―仲さんの転機になった作品は?
仲:デビュー作の「チワワちゃん」は、芝居というのを全く知らなかった私に、芝居の楽しさとか奥深さを教えてくれました。
芝居のレッスンはしたことがなかったので、全くゼロから「チワワちゃん」に出ました。監督は、私が思う通りにやっていいと言ってくれたので、 お芝居の楽しさを自分で見つけていけたんです。
―今では、マドンナのバックダンサーだったことを知らない人が増えてますよね。
仲:それを目指してたので、よっしゃって、ガッツポースしてます。あの方々にまた見てもらうために、良い芝居を頑張ろうという思いは常にあります。
―今後目標とかはありますか?
目先の目標を立てるのが苦手なので具体的な目標はないですが、いろんなことに挑戦したいと思っています。
ダンスやっている時も、来年は優勝するって目標立てたとしても、もしかしたら来年はダンスをやっていないかもしれないし…。
俳優でも、こういう賞を取りたいとかもないです。取れたらもちろん嬉しいのですが、今はただただ好きでやってます。
死ぬ時に「自分の人生最高だった」って言えればいいやと思っています。
仲万美(なかばんび)プロフィール
5歳からダンスをはじめ、20年以上のキャリアを誇る。2015年にはマドンナのバックダンサーとしてワールドツアーに同行。2016年リオデジャネイロ パラリンピックの閉会式における、日本のプレゼンテーション「SEE YOU IN TOKYO」にも参加。映画『チワワちゃん』で女優活動を開始
【映画】『チワワちゃん』 (2019)、【舞台】『DustBunnySHOW』(2021)、ROCK OPERA『R&J』(2019)
【ドラマ】2024年 Netflixシリーズ「忍びの家 House of Ninjas」 監督:デイブ・ボイル『降り積もれ孤独な死よ』(2024)読売テレビ
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文:姫田京子