TVアニメ『シュガーアップル・フェアリーテイル』で主人公のアンの声を担当した、声優の貫井柚佳さん。 “アリルズプロジェクト”ではノエルとして透明感のある歌声を披露し、7月からアニメ化される『2.5次元の誘惑』への参加も決定。大人気の彼女に『シュガーアップル・フェアリーテイル』の再放送のタイミングでお話を伺いました。
『シュガーアップル・フェアリーテイル』作品概要
関連累計83万部(※)を突破したライトノベル、『シュガーアップル・フェアリーテイル』(2023年放映)。一流の銀砂糖師だった母を亡くした少女・アンは、跡を継いで、自らも銀砂糖師になることを決意する。そのためには、年に一度開催される王都の品評会で、職人としての腕前を認められなくてはならない。王都へ向かう途中、アンは護衛として戦士妖精のシャルを雇う。シャルは戦士としての腕は確かだが、口が悪く、人間を信用しないせいで、アンとの喧嘩が絶えない。けれど、そんなシャルと旅をするうちに、友達になりたいと願いはじめるアン。種族や立場の違い、そして、困難な状況を乗り越えながら人間のアンと妖精のシャルが、ともに紡いでいく未来とは――?
引用元:BS朝日HP
BS朝日で再放送中(2024年4月7日~)。
(※紙本と電子書籍の合算数字となります。2024年2月現在。)
人気小説の主役に抜擢。女性読者に「貫井さんでよかった」と言われてホッとした
―去年、TVアニメ『シュガーアップル・フェアリーテイル』の主役・アンの声を担当されました。アンを演じられてどうでしたか。
貫井柚佳(以下、貫井):この役をやらせていただいてとても光栄でした。主人公のアンは、女の子の可愛らしさを持ちつつ、実は強くてたくましくて、人として憧れる存在です。目指す夢があって旅をしていくのですが、道中で素敵な出会いもあれば、意地悪をされてしまうこともあります。
私だったら「もう人と関わりたくない!」ってふさぎ込んじゃうかもしれないのに、アンは何も捨てないで受け入れて、全部を自分の力に変えていく。夢に突き進んでいくことの大変さ、難しさ、困難にどうやって立ち向かって生きていくのかっていうことを、すごく考えさせられる作品でした。
―アンの生き方から学んだことはありますか。
貫井:いっぱいあります!例えば私、オーディションに落ちたり、現場でうまく出来なくて落ち込んだりするときに、悔しさと不甲斐なさとで、どんどんマイナス思考に陥ってしまうことがあるんです。でも「アンだったらこんなときどうするかな?」って考えてみると、たぶん彼女は一筋の光を見逃さないだろうと思えてきて。
よし、悩む時間があるんだったら本を読もうとか、時間があるなら腹筋しよう、っていう風に、夢に向かって突き進むアンに恥ずかしくないように生きたいって思えるようになりました。
―貫井さんの SNSを見ると、女性ファンからのコメントも多いなと感じました。
貫井:とても嬉しいです。もともと原作の小説が女性向けのレーベルで出されているものなので、アニメを見てくださったのも女性の方が多かったと思います。
昔から多くの人に愛されている作品の、憧れの女の子を演じさせていただくとなると、ファンの方に認めていただけるかすごく緊張する部分もありました。でも「貫井さんがアンでよかった」みたいに言っていただけることもあって、それを聞いたときには本当に嬉しくて、気持ちが救われました。
初恋相手はコナンくん。高山みなみさんに憧れて声優の道に
―声優になりたいと思ったきっかけは何だったのでしょうか。
貫井:進路を考えていたとき、声優志望の友人と話していて、「声優ってなれるんだ」と職業として初めて意識して。もともとアニメや歌、何かを表現するのが好きだったこともあって、「挑戦したい!」と思うようになりました。
初恋は『名探偵コナン』のコナンくんなのですが、コナンの声優・高山みなみさんが『魔女の宅急便』で1人2役をやっているのを知って、本当に感銘を受けて。
それに対する憧れもあったので、アルバイトをしてお金をためて、声優の養成所に入りました。
―以来、本当にたくさんの番組で、声を演じられています。さまざまな作品で求められる理由はなんだと思いますか。
貫井:私自身は、「自分の声って特徴のない声だよな」と思ってはいるんです。でも器用なところがある分、もしかしたらいろんなお役で声をかけてもらいやすいのかもしれないです。
声に特徴がないことをコンプレックスに思う時期もあったのですが、光栄なことに沢山の作品に携わらせていただけたので、とても嬉しくて、これもひとつの武器だなと思うようになりました。
ずっと私のことを応援してくださっている方でも、私の声だと気付かないときがあるようなんです。声のキャストが画面に出て初めて「あ、貫井柚佳、いたんだ!」って思ったと言われました。
「この声は貫井柚佳じゃない」って思ってもらえることは、人に気付かれずにそのアニメの世界の中にいられたんだってことだからすごく嬉しい。自分の声の可能性なんじゃないかなと思うので、これからもその可能性を広げていきたいと思っています。
「役を演じる」のではなく、「その世界の住民として過ごす」スタンス
―声優をしていく上でのこだわりがあれば教えてください。
貫井:いろいろなお仕事をさせていただいていると、その世界にのめり込んでしまって、気持ちが戻らないときもあるんです。そんなときは、次の現場に入る前に広い空を見上げて、気持ちを切り替えるようにしています。
あと、自分の中で意識しているのは、作品で名乗りをするときに「〇〇のお声を担当させていただきます貫井柚佳です」という表現をすることです。
私、昔からアニメとかゲームとか、フィクションの世界に憧れがあったので、その世界が本当に存在していてほしいんです。だから私も「役を演じる」のではなく、「その世界の住民として過ごす」という感覚でいたいなと思っていて。
作品が作り上げられるにあたって、そのキャラクターの後ろには、キャラクターデザインを考えている人がいて、セリフを書いている人がいて、原画を描いて、動かしてくれている人がいる。そのキャラクターを形作るものの中で私が担えるのは声だけなので、傲慢にならないように、世界観を大切に、そして誠実に、私ができることやるべきことをどんどん積み重ねていかなきゃ、という気持ちで臨んでいます。
…とはいうものの、いつも自分の未熟さを痛感するばかりです。現場で頭を抱えるとか、泣きながら帰ることだってしばしば。それでも、いろんなことを学んで成長して、少しでも役のキャラクターたちに恥ずかしくないよう、誇り高くありたいなと思っていますね。
大きな役も小さな役も、作品の世界観の一部だから気を抜かない
―貫井さんは、主役のような大きな役だけでなく、小さな脇役にも精力的に取り組まれているように感じました。どんなスタンスでお仕事を受けていらっしゃるんでしょうか。
貫井:演じさせていただく役によって、背負うものは違うと思うんですよね。主役なら主役で、作品全体を引っ張っていかなくちゃと思いますし、作品の根本でもあるので、役に比例して責任の重さを感じることはあります。
でも、名もなき役も、キャラクターがデザインされていて、その世界に生きる登場人物ですから、軽く考えることはできません。自分の担当するキャラクターに役名があればもちろん嬉しいですが、彩るものが小さかろうが大きかろうが、その作品の世界観を作るにあたって、とても大事な存在であることに変わりはありません。
名前も知らない誰かのたった一言が、世界をあらわしていたり、物事を動かしたり。私たちの生きる世界にも往々にしてあることだなと思います。
それに、言い方ひとつで、もしかしたらもう次がなくなってしまうかもしれません。私にお声を任せてくださった制作スタッフの皆さんの思いに応えたいとも思います。そういう意味では、たったひと言だけのセリフのほうが逆に難しくて、演じるときにもかなり緊張します。
―作品に真摯に向かうストイックさが伝わってきます。数々のキャリアを重ねてきて、自分自身が変わったなと感じる部分はありますか?
貫井:昔と比べて、自分のことを理解できるようになりましたね。私の場合は、お酒を飲んだ翌日は、思ったような声が出ないんです。風邪をひくときも喉から。だから、マスクは欠かせないし、3食よく食べ、よく寝て、朝起きたらカーテンを開けて太陽を浴びて白湯を飲むようにして。
声優を始めたばかりの自分は、自分の体についてあまり考えていなかったので、あのときの自分に「自分をよく知ったほうがいいぞ」ってアドバイスしたい(笑)。
あとは、もっと視野を広げたいと思うようになりました。自分の心もそうですし、誰かの感動や、悲しみ、街ゆく人の目線…人の感情が動く瞬間を見逃さないようにしたい、って思いながら、日々暮らしています。
―最後に、今年の目標を教えてください。
貫井:去年はありがたいことに、いろんな作品を通して「貫井柚佳」という存在を知ってくれた人が増えたのかなと思うので、このままどんどんチャレンジしていきたいです。
もっと誰かの心を動かせるようなものをお届けできるように、キャラクターの心をさらに魅力的に伝えられるように、たくさん勉強していこうと思っています。
―新たな作品でどんな声を聞かせてくれるのか、今から楽しみです。今日はありがとうございました。
貫井柚佳(ぬくいゆか)プロフィール
東京出身、12月30日生まれ。2016年から声優としてさまざまなアニメの声優をこなし、『シュガーアップル・フェアリーテイル』(アン・ハルフォード役)、『絆のアリル』(ノエル役)で注目を集める。2024年7月から始まる TVアニメ『2.5次元の誘惑』(マギノ役)にも出演予定。趣味は歌うこと、料理、麻雀、食器集め、散歩、猫とたわむれること。特技は歌うこと、細かい作業。