脳腫瘍の高校生・ハルカの人生を描いた映画『春の香り』で、ハルカの姉役を務めた篠崎彩奈さん。
AKB48での12年間の経験を経て、本格的に女優の道へと歩み出した彼女が、映画で見せた迫真の演技とは。現場で築かれた家族のような絆、そして演技にかける思いを語ってくれました。
映画『春の香り』作品紹介
脳腫瘍と闘いながらマンガ家を目指した18歳のハルカ
最後まで希望を捨てずに懸命に生きた彼女の姿と彼女を支えた家族の愛情がしなやかな感動を呼び起こす実話を基にフィクションで描く青春ストーリー
小学生の時に患った脳腫瘍のために、普通の学校生活が送れなくなったマンガ家志望の高校生・ハルカ(美咲姫・みさき)は、通信制の高校に転入する。
転入初日に彼女は、自身が執筆中のマンガの主人公と同名のイケメン男子生徒・巧(タクミ・佐藤新(IMP.))とマンガのような運命的な出会いをする。人見知りなハルカの心に、あっという間に入り込み、夢を語る巧。彼にどんどん惹かれていくハルカ――初めての恋。
しかし、幸せの絶頂と思えた矢先にハルカの脳腫瘍が再発する。絶望の中でも自らの運命を呪うことはせず、障害が残るリスクを冒してでも「生きる」ことを選択するハルカ。手術後、麻痺のためにマンガを描けなくなり、学校にも行けなくなったハルカは、会えなくなった理由を話すこともなく一方的に巧に別れを告げる。
そんな失意のハルカを懸命に支え続ける家族。彼女の「生きたい」思いを必死に守る家族の愛情の中で、やがて笑顔を取り戻していくハルカだったが――。
(この映画は、脳腫瘍と闘い、18歳で逝ってしまった娘の春香さんの闘病と介護の実体験を綴った、坂野夫妻の書籍『春の香り』をもとにしたフィクションです。)
3月14日(金)より全国順次公開

(※映画『春の香り』公式サイトより引用)
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出演者、スタッフ全員、敬語禁止の現場。本当の家族になれた気がする

―今回の作品に出演したいと思ったきっかけを教えてください。
篠崎彩奈さん(以下、篠崎):私はお芝居がしたくて芸能界に入ったので、オーディションはよく受けているんです。
この作品は、まだAKB48として活動していた時に受けました。卒業してこういう映画に出演したいという気持ちが強かったので、受かったらいいなと思っていました。
―ユウカは脳腫瘍を患った妹のハルカのそばで彼女に寄り添う役ですね。脚本を読んで、ユウカの役にどういう印象を持たれましたか?
篠崎:ユウカの役は、すごく重要な立ち位置だなと思ってプレッシャーはありました。
お姉ちゃんという存在は親とは絶対違います。病気の妹を支えたいという気持ちはあっても、自分自身も多感な時期。両親とは違う微妙な感情をうまく演じたいと思いました。
―撮影現場は敬語が禁止だったそうですね。現場の雰囲気はいかがでしたか?
篠崎:私は佐藤(佐藤新・IMP.)さんの撮影が終わってからの合流だったのですが、出演者もスタッフさんも含めて、本当に現場の雰囲気がすごく良かったです。
顔合わせの時に、監督から「この現場は、スタッフも含めてタメ口で」と言われました。
監督は何よりも空気感とリアルを大事にしたいっておっしゃっていましたね。
だから私も、丹野監督のことを「たんちゃん」て呼んでるんですよ。「たんちゃん、ここどうしたらいいかな」みたいに。
主人公の美咲姫(みさき)ちゃんとも、年齢は離れているものの、本当の妹みたいですごく仲良くなりました。
パパ役の松田(一輝)さん、ママ役の櫻井(淳子)さんも、大先輩なのに敬語禁止。最初は敬語も混じりましたが、だんだん慣れてきて、本当の家族みたいな関係性を築けました。撮影が終わった今でも、お二人のことは「パパ」「ママ」って呼んでます。
特にお母さん役の櫻井さんの演技は本当に勉強になりました。泣きの演技は圧巻だし、カメラが回った瞬間に、まとう空気まで“母親”になるんです。
そうそう、撮影2日目に家族4人で焼肉を食べに行ったんです。お肉を焼きながら敬語なしでお話しできて、家族4人、すごく仲良くなれました。
みんなに絶賛された、両親に感情をぶつける苦しい演技

―印象深かったシーンはどこでしょうか。
篠崎:姉役の私が、病気の妹を優先する毎日にストレスを感じてしまって、家族に感情をぶつけるシーンです。
とても仲が良い家族だったので、いい雰囲気の中であのシーンを演じるのが苦しくて、そのシーンの撮影の日は朝から私ひとりだけ、家族とひと言もしゃべらなかったんです。
楽しい気持ちにならないよう、とにかく目も合わせないし、話しかけないでっていうオーラを出していて。すごく感じ悪く見えたと思うんですが、みんな理解してくれました。
―今回の映画は実話をもとにしたフィクションですが、実際の春香さんのお姉さんである京香さんが撮影を見に来てくれたそうですね。
篠崎:そうなんです。感情を爆発させるシーンのときにもお会いしました。
京香さんに「実際に溜めた思いを爆発させたことはあるんですか?」って聞いたんです。そしたら「いいえ。でも心の中ではずっと思っていたことなんです」と言われて。
「私は感情を出したくても出せなかったから、ぜひ私の分まで思いを爆発させてください」って。
それを聞いて、感情を表に出せなかったお姉さんのためにも、私がこの映画で思いを爆発させようと思って演じました。
試写会で京香さんと再会したとき、「あのシーン、本当によかったです。ありがとうございました」って言ってくれたんです。私の演技を見てすごく泣いてくださったと聞き、本当に嬉しかったですね。
―本当に感情を揺さぶられるシーンでした。
篠崎:実は公開後に監督からもLINEをいただきました。「ユウカのあのシーンがすごく良いって、いろいろな人から言われてるよ」と。
「頑張ったもんな。そこそこよかったよ」…って、監督らしい褒め方でした(笑)。
―実生活では、篠崎さんは2人のお兄さんがいる妹の立場ですが、今回はお姉ちゃんの気持ちになれましたか?
篠崎:なれましたね。美咲姫ちゃんは本当の妹みたいに可愛くて、なんかすごくいとおしい気持ちになりました。
だから途中から、“なんでこんなにいい妹が、こんな思いをしなきゃいけないんだろう”って思えてきて、本当に泣けてきちゃって。
完成した映画を観たときもまた泣いてしまいました。
美咲姫ちゃんは、本当にハルちゃんそのもので。自然体で飾らなくて、真面目で可愛くて、本当にいい子。台本で読んでいたハルちゃんが、そこにいると思いました。
―どうやってユウカの役作りをされたのでしょう。
篠崎:台本を読み込むのはもちろんなんですが、いつも役の人になりきって日記を書くようにしているんです。
「今日はこんなことがあった」「こんなことが大変だった」「姉としてこう思った」なんて風に想像の日記をつけて、役に自分をシンクロさせていきました。
―ロケ地だった愛知県江南市の印象は。
篠崎:江南市は本当にのどかな場所でした。ロケとロケの移動のときには、桜のすごく綺麗な道を通っていくんです。自然が豊かで、いいところだなと思いました。
実際に春香さんが育った街で撮影できたのは、とても贅沢な撮影環境だと感じましたし、私自身も気持ちが入りやすくて、とても演じやすかったです。
―今回の映画は、篠崎さんのご家族も見られるのでしょうか?
篠崎:舞台挨拶の日に、両親が見に来てくれました。「スクリーンで娘を見るのが夢みたい」って言ってくれて、すごく喜んでくれて、泣いてくれて。
「本当に誇りに思う」って言ってもらえて、私もすごく嬉しかったですし、ちょっとだけ親孝行できたかなって思いました。
“元AKB”の肩書きはついて回るが、ここからは女優として生きたい

―篠崎さんご自身は15歳の時にAKB48に入られたんですよね。
篠崎:もともとアイドルではなく女優になりたかったんです。だから普通に芸能事務所のオーディションを受けようと思っていました。
その前にAKB48のオーディションの締め切りがあって、AKBに落ちてからでも芸能事務所のエントリーには間に合ったので、まずはAKBを受けようと。そしたら受かってた、みたいな感じでした。
当時、前田敦子さんや大島優子さんがいろんなドラマに出演されていたので、「AKBに入ったら女優になれるかも」と思いました。
―そこから28歳までアイドルをされるわけですが、アイドルを長く続けられた理由とは?
篠崎:アイドルって本当に素晴らしい職業だなと思うんです。
かわいい衣装を着て歌って踊って。そんな私たちの姿を見て「明日もまた頑張ろう」って思うファンがいる。
自分が原動力になって、誰かの背中を押せるって、奇跡みたいな職業だなっていつも感じていました。
ファンの方は、ライブで推しに会うために日々の生活や仕事を頑張るわけじゃないですか。
そこまで人に影響を与えられるって本当にすごいことだし、もう一回アイドルをやり直したいなって思います。
―やり直したい…ということは、後悔もあるんですか?
篠崎:もちろん自分なりに頑張ってきました。でも、あの頃は本当に忙しくて、来た仕事をただこなすだけで精一杯のときも。
今思うと、“もうちょっと頑張れたんじゃないかな”とか、“もっとファンの気持ちを理解してステージに立つべきだったな”って、思うことがあります。
アイドルの素晴らしさを理解したうえで、もう一度やり直したいんです。
―AKBをやっていた経験は、今のご自身の役に立っていますか?
篠崎:AKB48は劇場公演があるので、誰かに見られているときの土壇場での行動力はあると思います。オンオフの切り替えも、AKBで鍛えられたと思っています。
今、女優としてお仕事をしていて、監督によく言われるのが「カメラが回ると人が変わるね」という言葉。
私自身は特に意識していないんですが、自然と切り替えができるのは、AKBでの経験があったからこそかなと感じています。
今回はとても大事な役というプレッシャーはありましたが、「映画のメインキャストだから」というプレッシャーはなかったですね。プレッシャーに強くなれたのも、AKBをやっていたおかげかもしれません。
―一方で、AKB48を卒業しても“AKB”という肩書きが付いて回るジレンマはありませんか?
篠崎:それはとてもありますね。
“AKBらしさ”を求められすぎてしまって、“元AKB”ってだけで落ちているオーディションも、数え切れないくらいあると思います。
今回の映画も、監督には「正直、期待してなかった。アイドルだから、そんなにすごい演技ができるとも思ってなかった。でも、いい意味で期待を裏切ってくれてありがとう」と言っていただきました。
「アイドルだから、もっとキャピキャピしてると思った」って、いつも、いろんな人に言われますし…。
イメージはずっとついて回るものだと思うので、それはこれからも悩み続ける課題かなと感じています。
―オーディションに落ちて、凹むことはありませんか?
篠崎:凹むことはないです。落ちるのが当たり前だと思って受けているので(笑)。
だから、たまに受かるとすごくうれしくて。今はとにかく、演じることが楽しくて仕方ないです。
アイドルの私が好きだったというファンの方も多いんですが、映画出演が決まるとすごく喜んでくれます。
今回も映画が公開されたらすぐに見に行って、「本当によかったよ」って感想を言ってくれました。
熱心なファンの方がとても多くて、本当にありがたいです。ファンの皆さんは、私にとってかけがえのない宝物ですね。
―なぜ今から、本格的に女優を目指したいのでしょうか。
篠崎:それは、きっと私がテレビっ子だったから。
子どもの頃からドラマを見て、たくさん心を動かされてきました。だから私も、そうやって人の気持ちを動かせるような仕事がしたくて。
作品を通して何かを感じてもらえたり、私のお芝居で誰かを感動させたい。女優という仕事に出会えて幸せですし、これからもずっと続けていきたいです。
今はとにかくドラマに出たいですし、不倫をされてしまう妻の役なんかも演じてみたいですね。
―ちなみにプライベートについてもお伺いしたいです。最近、AKB同期で仲良しの梅田綾乃さんがご結婚されましたが、篠崎さんも結婚願望があるのでしょうか?
篠崎:実はあります。32歳くらいで結婚して、35歳までに子どもが2人ほしいなって思ってるんです。
―結婚の気配はありそうですか?
篠崎:いや〜、どうですかね(笑)。あったらいいんですけどね。
―最後に今後の活動について教えてください。
篠崎:自分の好きなことを、いつも大事にしていきたいです。お芝居はもちろん続けていきたいし、せっかく今年、FP2級の資格が取れたので、金融系のお仕事にもチャレンジしてみたい。
「意外としっかりしてるじゃん」って思ってもらえるような、意外性のある人でいたいですね。

篠崎彩奈(しのざきあやな)プロフィール
1996年1月8日生まれ。埼玉県出身。2011年、AKB48第13期生研究生オーディションに合格。21年12月に10周年を迎えた。食生活アドバイザー検定3級・2級、実用毛筆書士認定試験3級など、多数の資格を所持。FP技能検定2級に合格し、金融知識の発信も行っている。24年2月にAKB48からの卒業を発表。今後は、女優業や舞台など活躍の場を広げていく。2025年には映画『6人ぼっち』、『囁きの河』の公開が控えている。
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取材・文:小澤彩