映画『プロミスト・ランド』で若きマタギを好演。若手実力派俳優・杉田雷麟(らいる)。「脇でも主役でも、印象が残せるような俳優に」

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雪深い東北の山を舞台に、禁じられた熊狩りに向かうマタギの若者2人を描いた映画『プロミスト・ランド』。2024年6月29日より全国順次公開されたこの映画で、主人公の信行を演じている杉田雷麟(らいる)さんにインタビューしました。

射抜かれるような杉田さんの目力に圧倒されながら、撮影のエピソードや俳優にかける思いを伺いました。

映画『プロミスト・ランド』作品紹介

(C)飯嶋和一/小学館/FANTASIA

春の東北、マタギの伝統を受け継ぐ山間の町。高校を出て親の仕事を手伝う20歳の信行は、

この土地の閉鎖的な暮らしに嫌気が差しながらも、流されるままに日々を送っていた。そんなある日、マタギ衆の寄り合いで、熊狩りを指揮する親方の下山が一同に意外な言葉を告げる。

「今年はどうも申請が通らねえみたいだ」。

熊が減っていることを理由に、役所から今年の熊狩りを禁止する通達が来たというのだ。

違反すれば密猟とみなされ、マタギとして生きる道を閉ざされてしまう。皆が落胆しながらも決定を受け入れるなか、ただひとり、信行の兄貴分の礼二郎だけは、頑なに拒み続ける。

後日、礼二郎から呼び出された信行は、ふたりだけで熊狩りに挑む秘密の計画を打ち明けられ…。

引用元:映画『プロミスト・ランド』公式サイト

6月29日(土) ユーロスペースほか全国順次公開

杉田雷麟 寛一郎 
三浦誠己 占部房子 渋川清彦 / 小林薫
脚本・監督:飯島将史
原作:飯嶋和一「プロミスト・ランド」(小学館文庫「汝ふたたび故郷へ帰れず」収載

プロミスト・ランド
春の東北、マタギの伝統を受け継ぐ山間の町。高校を出て親の仕事を手伝う20歳の信行は、この土地の閉鎖的な暮らしに嫌気が差しながらも、流されるままに日々を送っていた...

映画公式サイト『プロミスト・ランド
映画公式X『プロミスト・ランド』

大自然と共存しながら撮影を重ねた

―今回の映画は、マタギとして生きる若者の話ですね。杉田さん演じる主人公の信行、とても迫力がありました。まずは今回の映画に出演を決めた理由を教えてください。

杉田雷麟さん(以下、杉田):『プロミスト・ランド』の飯島監督は、以前僕が出演した、映画『半世界』で助監督をされていた方でした。今回マタギの話をいただき、山が好きな僕にとってはすごくありがたいなと思いましたし、台本がとても良くて出演を決めました。

―今回の映画は月山で撮影が行われたそうですね。スクリーンでは雄大な自然の美しさに圧倒されました。

杉田:撮影は、去年の4月~5月に行われたのですが、まさに自然と共存しながらの撮影でした。

ロケ地の月山は、夏までスキーができるといわれている山で、ずっと雪が積もっていました。撮影現場の山の中まで、毎日1時間くらいかけて歩いていくんです。暗くなると帰ってこれなくなるので、早めに撤収する必要もありましたし、吹雪いてしまうと本当に前が見えない。そんなときは撮影は中止になるし、結構大変でした。

でもきれいな朝焼けを見ることができたり、野生のカモシカが近くまで降りてきてくれたりして、こちらが撮影しているというより、撮影させてもらっているような感覚を覚えました。

―杉田さんの演じられた主人公・信行と、ご自身との共通点はありましたか。

(C)飯嶋和一/小学館/FANTASIA 

杉田:決めたことにはまっすぐに突き進む礼二郎(寛一郎)とは正反対で、熱い衝動はありつつも行動できない信行。心に不満を持ちつつ行動できない信行には、なんとなく共感を持ちました。

信行は、周りに流されやすい性格ではあるものの、実は芯には強いものが隠れている。演じる上で、その部分を大事に演じたいとも思いました。

―どうやってマタギ役の役作りに取り組まれたのでしょうか。

杉田:僕の地元の栃木県は自然が多く、よく山登りもしていたので、山歩きには慣れていたのですが、マタギは自分が触れたことのない世界だったので、とても興味深かったですね。監修してくださるマタギの方の話を聞いたり、一緒に山を歩いたりして、信行という役への理解を深めていきました。

マタギは熊を獲って、しっかり肉を食べ、皮まで利用する。熊は授かりものとして、山に感謝し、獲ったあとも丁寧な作法で死んだ熊に接する。これは本当にすごいなと思いました。

何かに迷っている人、決断できずにいる人の背中を押すような映画

―撮影中のエピソードで、思い出に残っていることがあればぜひ教えてください。

杉田:礼二郎役の寛ちゃん(寛一郎)と山の上に座って、寒い中望遠鏡を覗いて熊を探すシーンがあるんです。そのとき、いきなり寛ちゃんが、「あ!熊がいた!」と騒ぎ始めて。そういう芝居なのかなと思って寛ちゃんの指さす方向を見てみたら、本当に熊がいたんです。

マタギの映画の撮影中に本物の熊を見つけてしまう。これこそ奇跡だなと感じましたね。

(C)飯嶋和一/小学館/FANTASIA 

―それはすごい。

杉田:もうひとつ、印象に残っているのは雪原をひとりで歩くシーンです。他の人の足跡ひとつついていない新雪の上を一人で横切るのは、すごく贅沢なロケーションだなと思いました。

ただ、もう一度撮り直すとなったときの足跡対策が、かなり大変だったんです。

新雪につけた自分の足跡を、そのまま後ずさりしながら戻っていかないと、さらに足跡が増えてしまう。新雪を再現するために、スタッフの方がホウキとかを持ってきて、つけた足跡をもう一度新雪のようにならしていくんです。本当に大変そうでした。

―そんな苦労の上に、あの広大な雪原のシーンが出来上がっていたんですね。撮影現場はどんな感じだったのでしょうか。一緒に主役を演じられた寛一郎さんとは仲良く?

杉田:礼二郎役の寛ちゃんは、気のいいお兄ちゃんという感じで、いろいろ気を使ってくれました。僕が運転するシーンで、停車位置とは全く違うところで止まってしまったら大爆笑されるなんてことも。

2人の現場では、結構楽しく過ごしていました。

―もう一人、マタギ役の渋川清彦さんとは、共演回数も多いですよね。

杉田:そうなんです。渋川さんは僕も大好きな方で、多分、共演は今回が5作目くらいですね。

2作目までは「あ、また会ったね」という感じだったのですが、ここまで共演の機会が多いと毎年挨拶している感じにもなっていて、僕にも結構フランクに接してくださって嬉しいです。

新しい現場でも、渋川さんがいてくださるおかげで安心感もありますし、緊張がふっと解けるというか。すごくご縁があるなと思っています。

杉田さんは、この映画を誰に見てもらいたいですか。

杉田:何かを決断できずに、何かに迷っている方がいたら、ぜひ見ていただきたいです。信行の生き方に、感じてもらえる何かがあると思うんです。

そして、シンプルに映画館で『プロミスト・ランド』の世界観を体験してほしいですね。映画館ってまさに体験の場だと思うので、そこに身を置いて、何かを感じてもらえたら嬉しいです。

「脇でも主役でも大丈夫」この軸はぶれずにやっていく

―ここからは少し、杉田さん自身のことも教えてください。雷麟(らいる)というお名前、すごく素敵ですね!

杉田:親に、“雷”のように厳しく、‟麟”という難しい漢字で頭が良くなるようにと名付けてもらった名前なんです。本名を芸名にすることに、最初は悩みました。日常生活と同じ名前にするのはどうなのかと。

でも、事務所の社長にも名前を褒められて、杉田という名前とのバランスもいいといわれたこともあって、本名でいくことに決めました。

―どうして俳優になろうと?

杉田:中学までサッカーとボクシングをやっていて、サッカー選手も夢見ていた時期があったのですが、高校進学の際にサッカーもボクシングも諦めることにして。

ずっとやってきたことを無駄にしたくないという気持ち、父と一緒に洋画を見ていたこともあって、俳優を目指そうかなと思いました。

俳優という仕事は、日常生活が仕事の糧になる。今までやってきた経験もきっと無駄にならないと思いましたし、単純にスクリーンに映ってみたいというのもありました。

この世界に入ってから、ありがたいことにお仕事に恵まれて、新人のころからすごい方々と現場をご一緒する機会が多かったと思います。

映画『半世界』では稲垣吾郎さんや長谷川博己さん、スペシャルドラマ『Aではない君と』では佐藤浩市さんや天海祐希さん…。衣装合わせのときに、浩市さんに「お前、この世界で食っていくのか」といきなり聞かれて、思わず「ハイ!」って即答してました。

半世界
僕たちはまだ世界の半分しか知らない。稲垣吾郎×阪本順治監督による希望の物語

そんな自分自身に一番ビックリしていました。心のどこかで「自分には俳優しかないな」と思っていたんでしょうね。

―杉田さんは、ドラマや映画…どの仕事が好きですか。

杉田:僕は映画の撮り方が好きですね。

ドラマは瞬発力を求められるんですが、映画はキャラクターを深掘りして、じっくり、ゆっくり、みんなで作り上げていける。もちろん、僕自身、映画を見るのが好きだからということもありますが。

―映画『教誨師』で共演された、亡き大杉漣さんの言葉に感銘を受けたとも聞きました。

教誨師
なぜ、生きるのか。生きることを“死”の側から捉えた強烈な“生”の物語

杉田:「脇でも主役でもどっちでも大丈夫って気概がないといけない。そのなかでどうやって“大杉漣”ってものを残すかが大事」―――。これは大杉さんの訃報(新聞記事)に書いてあった言葉なんです。学校の新聞を切り取らせてもらって、今もその記事を大切に持っています。

―俳優として着々とキャリアを重ねてこられた中で、ほかにも心に残っている言葉はありますか。

杉田:あとは、『半世界』の阪本順治監督に言われた言葉も心に残っています。

「雷麟くん、これからどんどん売れていく中で、周りの人への感謝を忘れないように。こんなおじさんがこんなこと言ってたなって、覚えておいてね」と。

俳優をやっていると、つい調子に乗っちゃうことがあるかもしれないけれど、俳優だけで映画が撮れるわけじゃない。カメラマンさん、録音さん…裏方のスタッフがいて、ようやく映画ってものが完成する。

全部自分の力でやっているわけではないので、それを勘違いしないように。阪本監督が僕に伝えたかったのは、そういうことだと感じました。

―役にも、俳優という仕事にも真摯に取り組む杉田さん。今後の活躍が楽しみだと感じました。最後になりますが、今後の展望を聞かせてください。

杉田:大杉漣さんの言葉どおり、「脇でも主役でも、印象が残せるような俳優になりたい」と思っています。この軸はずっとぶれないでやっていきたいですね。

芸能界で生き残ること自体、そもそも難しい。そんな中で、僕はずっと俳優を続けていきたいと思っているので。

いつかやってみたいのは刑事役ですが、でも自分のイメージをこうだと決めつけず、いろんな役をやって、視野を広げていけたらいいなと思っています。

杉田雷麟(すぎた らいる)プロフィール

2002年12月10日生まれ、栃木県出身。スペシャルドラマ『Aではない君と』(2018年・テレビ東京系)、『鎌倉殿の13人』(NHK・2022年)、映画『教誨師』(2019年)、『福田村事件』(2023年)など、演技力が問われる作品に多数出演し、キャリアを重ねている注目の若手俳優。映画『半世界』では第41回ヨコハマ映画祭 最優秀新人賞、第34回高崎映画祭 最優秀新進男優賞を受賞。趣味・特技はボクシング。

取材・文:小澤彩

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