舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』ハリー役の吉沢悠「いつまでも心に残る体験をしてくれたらうれしい」

インタビュー
インタビューニュース

人気の絶えない名作であるハリー・ポッターシリーズの舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』。

2022年7月の開幕からロングラン公演3年目を迎え、総観客数100万人を突破した本作で2024年7月よりハリー・ポッター役(Wキャスト)を熱演している吉沢悠さんに、稽古の様子から舞台の見どころまで、たくさんお話いただきました!

現時点で、吉沢さんはTBS赤坂ACTシアターにて2025年2月までの出演が発表されています。

舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』作品紹介

ハリー、ロン、ハーマイオニーが魔法界を救ってから19年後、かつての暗闇の世を思わせる不穏な事件があいつぎ、人々を不安にさせていた。

魔法省で働くハリー・ポッターはいまや三人の子の父親。今年ホグワーツ魔法魔術学校に入学する次男のアルバスは、英雄の家に生まれた自分の運命にあらがうように、父親に反抗的な態度を取る。幼い頃に両親を亡くしたハリーは、父親としてうまくふるまえず、関係を修復できずにいた。

そんな中、アルバスは魔法学校の入学式に向かうホグワーツ特急の車内で、偶然一人の少年と出会う。彼は、父ハリーと犬猿の仲であるドラコ・マルフォイの息子、スコーピウスだった!

二人の出会いが引き金となり、暗闇による支配が加速していく…。

※舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』公式サイトより引用

ロングラン公演3年目 「映画のハリー・ポッターとはひと味違います」

ー舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』とはどのような作品ですか?

吉沢悠さん(以下、吉沢):今回の舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』は映画や小説の『ハリー・ポッターと死の秘宝』でハリーたちが敵を倒して魔法界を救ってから19年後の世界。すなわち、ハリーやロン、ハーマイオニーたちが大人になってからの物語です。

舞台版は映画の「ハリー・ポッター」シリーズとはひと味違います。魔法界のヒーローであるハリーが家庭を持って子育てに悩んでいたり、大人になった他のキャラクターも小さい頃とは違った悩みを持って壁にぶつかっていたりなど、魔法の世界を舞台に人間模様が描かれている作品です。

ー本番を迎えて1ヶ月ほどが経ちましたが、実際に上演してみてどうですか?

吉沢:この舞台は1回の上演時間が3時間40分と長時間なのですが、それを1日に2回公演する日もあります。セリフ量が多く、身体の負担も増えるからといって、「夜も公演があるから昼はこれくらいでいいだろう」とペース配分することは許されません。

出演者全員、1回1回の公演で全て出し切ってお芝居をしているので、その熱量を保ちながら上演し続けるためにも、身体のケアはこれから重要になってくると思います。

ーこの舞台はダブル、トリプルキャストが多いですね。同じハリー・ポッター役の平方元基さんとの関係性を教えてください。

吉沢:僕はダブルキャストという形で役に向き合うのは今回が初めてでしたが、平方さんはひとつの作品に真摯に向き合う俳優さんなので、ダブルキャストと聞いてよく想像されるようなライバル関係にはならず、むしろお互いが同じハリー・ポッターという役を演じるからこそ、それぞれ気付いたところをよく共有していました。

体調不良などのアクシデントが起きてもお互いに助け合える信頼関係を築けたと思っています。

ー初めてのダブルキャストはどうでしたか?

吉沢:ハリーやロン、ハーマイオニーなど、ひとつの役を2、3人が演じるとしてもみんなエリックさんという同じ方から演出を受けているので、単純に考えると同じキャラクターが出来上がるはずなんです。ですが、それでもキャラクターの雰囲気に違いがあるのは、それぞれの俳優さんの魅力がキャラクターに加わっているからだと思います。そこがまさにダブル、トリプルキャストの良さだと感じました。

この舞台は今年の夏でロングラン公演3年目を迎えて、「より良い作品にしよう」という意識が強いのはダブルキャスト、トリプルキャストで向上心と熱意ある俳優さんが多く集まっているからだと思っています。

ーカンパニーの雰囲気の良さが伝わってきます。その理由はありますか?

※カンパニー:その作品に関わる出演者や制作スタッフなどの集団。座組、チーム。

吉沢:この舞台の初年度からいる振付補のヌーノ・シルヴァさんを中心に、肩の力を抜いて色々なワークショップを経験したことで、この舞台に関わるスタッフさんやキャストのみんなと良い関係を築けたんです。

ヌーノさんは実際にイギリスの舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』でベイン役を演じられているので、この舞台に出演する俳優側の気持ちも理解しているし、ディレクターとして舞台全体の空気感も見てくれました。

自分の見えていないところで動いてくれていたアンサンブルの方たちや、スタッフさんの大変さが垣間見える瞬間が今までにたくさんありました。だからこそ自分のコンディションが良くなくても「あの人も頑張ってるんだから」と、自分を奮い立たせて頑張ることができるんです。

※アンサンブル:主要キャスト以外のキャストのこと。1人で複数の役を演じることも多く、作品には欠かせない存在。

ーヌーノさんもそうですが、クリエイティブスタッフの中には海外の方も多いですよね。

吉沢:そうですね。やはりハリー・ポッターの世界観は世界中どこでもそのイメージがしっかり構築されているからこそ、日本で公演するとしてもその世界観を崩してはなりません。

イギリスで誕生した「ハリー・ポッター」作品の舞台をアジアで公演するにしても「ハリー・ポッター作品の核」を外さずに上演できているのは、クリエイティブスタッフの彼らが演出などの指揮を執ってくれていたからだと思います。

ー海外の方が多いことで大変だったことはありましたか?

吉沢:言語が違うということです。ですが、日本語に長けていない彼らが見ても感情は伝わるようにお芝居しようというところを意識していました。

だからこそ「なんとなくこういうニュアンスでセリフ回しをすればOK」というのは全く通用しませんし、お芝居をしながら発している感情がちゃんと観ている人に届いているというところがお芝居の合格ラインでした。

「なぜハリーは今こういう発言をしたのか、こういう行動をしたのか」という話を聞いてくれたり、お芝居の話をしたりする時間はたくさんあったので、そういった点からも上手く誘導してもらった気がします。

アジアで唯一魔法を体感できる劇場「今アジアでこの舞台を観られるのは赤坂だけ」

ーこの舞台のオーディションを受けたときの気持ちを教えてください。

吉沢:オーディションを受けること自体に不安はありませんでした。「大人になったハリー」の要素を持っているかどうかで選ばれるなら、もし自分が選ばれなくてもオーディションを受けたことに後悔はしないだろうと思い挑戦してみました。

ー37歳のハリーは映画では見られない点や、海外作品が原作であるという点で役作りが難しかったのではないかと思います。

吉沢:稽古場に入る前に『ハリー・ポッター』シリーズと『ファンタスティック・ビースト』シリーズの映画を一度全部見返しました。話が複雑な部分はさらにもう一回見直したりもしました。そのあとにイギリスのパレスシアターまで舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』を観に行きました。

イギリス版の方が日本版よりもシーンが多く、公演時間がさらに長いんですよ。だからなのかイギリスでしか観ることができない舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』の世界があって、それを体感したからこそ深く理解できた部分もありました。そこから自分のなかでイメージを構築して役作りを進められたので、ワクワクしながら稽古に臨めました。

また、演出してくださったエリックさんのアドバイスは、同じ役を演じる僕と平方さんで違うんですよ。エリックさんはそのキャラクターの核である部分は絶対に外しませんが、それぞれの俳優が発するものを丁寧に拾ってくださるんです。ゼロを1、2、さらには10にまでしてくださるので、「自分のハリーはこれでいいんだ」と、楽しみながら役作りができました。

ーハリー・ポッターという大役が決まったときの周りの反応はどうでしたか?

吉沢:びっくりしていました。この舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』が19年後の話だと知らない人も多かったので、「小さい頃のハリーはどうやって演じるの」という疑問を持った方もいました。

僕がこの作品の初日を迎えるまでに6名の俳優さんがハリー・ポッター役を演じていて、それぞれの「ハリー像」があるなかで「吉沢ハリーはどうなるんだろう」という期待を込めたコメントもありました。

新しいハリー像を生み出したいという気持ちもありましたが、カンパニーのみなさんが3年目の今までに培ってきたこの世界観を繋いでいきたいと思いました。

ー魔法や魅力的なシーンがたくさんですがその中で特に注目してほしいシーンを教えてください。

吉沢:ホグワーツ魔法魔術学校に通っていたころから19年後の世界に、当時校長だったダンブルドア先生が登場するシーンです。

ハリーは1歳で両親を亡くし、11歳まで不遇な環境で育っています。それゆえハリーは親としての子どもへの接し方が分からず、自分の感情を伝えることが苦手な人なんだと思います。

ハリーにとって特別な先生であったダンブルドア先生が、大人になったハリーの前に登場することで、ハリーの感情が揺れ動き渦巻くようなシーンでは舞台の空気が少し変わるんですよ。

稽古の段階からそのシーンは、「他のシーンとはどこか違う」とビリビリ感じるものがありましたし、実際にハリー役を演じる俳優として役に向き合っていくうえでも心が動かされたシーンです。

ーこの作品の魅力についても教えてください。

吉沢:作り込まれた舞台美術と魔法、その世界の中で描かれるストーリーが魅力です。

作中に登場する魔法は本当に不思議な部分が多く、出演している俳優側もどうなっているか分からないところがあります(笑)。ハリー・ポッターの世界観を演出している舞台美術にもぜひ注目してもらいたいです。

魔法や舞台美術は席に座って見ているだけで楽しめる魅力がありますが、ストーリーに描かれている大人になったハリーたちの悩みや葛藤など心の機微は、子育てをしている方や子育てがひと段落した方、大人の方にこそ楽しんでいただけるところだと思います。

自分たちの日常とはかけ離れた魔法の世界が舞台ですが、ストーリーでは「家族」をテーマに人間関係がしっかり描かれているところも魅力です。

この作品をより楽しんで観劇していただくには、誰と誰がどんな関係かという相関図を見ておくと内容をより理解しやすいかもしれません。

ーこれから観るという方に向けてメッセージをお願いします。

吉沢:世界中で人気を誇る「ハリー・ポッター」だからこそ演劇や舞台作品に触れていく最初のきっかけになると思います。

このTBS赤坂ACTシアターは舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』のために改装されていて、この作品はこの劇場でしか上演することができないので、今アジアでこの舞台を観られるのは赤坂だけなんです。また、ハリー・ポッターたちをアジア人が演じているのもここだけです。

この貴重なチャンスを逃さず、魔法を体感できる舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』という作品を観ていただき、いつまでも心に残るような体験をしてくれたらうれしいです。

俳優・吉沢悠「求められるレベルを超えていかなければならない」

ー少し吉沢さんご自身のことについても教えてください。俳優デビューのきっかけはなんだったのでしょうか。

吉沢:ドラマに登場する少年Aみたいな役のオーディションがあって。ですが意外と準レギュラーのような役だったので“これは絶対勝ち取ろう”と思っていたところに、内容が変更されて、ドラマのレギュラーメンバーを1名選ぶオーディションになったんです。

結果的にそのオーディションに受かりレッスンも受け、気づいたら俳優デビューをしていましたね(笑)。

ーその頃は映像作品に出演することが多かったのですか?

吉沢:ドラマが多かったです。舞台に挑戦したのは20代の頃で、最初は『ラヴ・レターズ』(2002)という朗読劇でした。そのあとに内村光良さんが演出を務めた舞台『ハンブン東京』(2007)に呼んでいただいたんですよ。

その舞台はバナナマンさんやさまぁ~ずさんのお二人も出演されていたので、舞台慣れしていない僕は先輩たちに助けてもらうことが多かったのですが、毎日の稽古が面白かったです。

その次はつかこうへいさんが演出をしてくださった『幕末純情伝』(2008)でしたが、あの現場では『ハンブン東京』とは違い、がっつり追い込まれました。それでも1週間ほど経って、楽しみを見出せるようになりました。

一緒に舞台を作っていくカンパニーの素敵な方々に支えてもらえたので、“もうお芝居やりたくない”とは思いませんでした。

ー今まで出演してきた作品で特に心に残っているものはなんですか?

吉沢:やはり『幕末純情伝』(2008)は印象深いですね。それまでは自分を型にはめて演じようとしていましたが、その型を取っ払ってまずは自分を出せば、役を演じていても客席にちゃんと感情が届くということを教わりました。20代中盤頃にそれを経験し学ぶことができたのは大きかったです。

ー今後は俳優としてどうなっていきたいですか?

吉沢:50代を見据えていくなかで、後輩のお手本となれるような俳優になりたいです。

年齢が上がるにつれて若い俳優さんよりも経験していることが多くなり、「この俳優さんはこれができるだろう」と求められるレベルが上がってくるので、50代はそれを超えていかなければならない世代だと思うんです。

20代の頃には気付けなかった、先輩たちが担ってくださった部分を今度は僕が向き合っていかなければならないと思いますが、僕自身もこれから様々な良い先輩方に出会って色々と気づいていきたいですね。

「お手本になれる存在」にこだわり過ぎて、がんじがらめになってしまうのも良くないと思います。楽しく笑ってうまくやっていきつつ、先輩として振る舞っていけるような俳優になっていけたらと思います。

All characters and elements © & ™ Warner Bros. Entertainment Inc. Publishing Rights © JKR. (s24)

吉沢悠(よしざわ ひさし)プロフィール

1978年8月30日生まれ。東京都出身。

1998年ドラマ『青の時代』にて俳優デビュー。以降、テレビ、映画、舞台など幅広く活躍。2002年『ラヴ・レターズ』にて初舞台を踏み、2013年『宝塚BOYS』にて舞台初主演を果たす。主な舞台出演作品に『TAKE FIVE』、『華氏451度』(主演)、『MONSTERMATES』などがある。近年の主な出演作に、ドラマ『夫婦が壊れるとき』、『週末旅の極意〜夫婦ってそんな簡単じゃないもの〜』、『泥濘の食卓』などに出演。映画『十一人の賊軍』2024年11月1日に公開、2025年大河ドラマ『べらぼう』出演。近年では役者の幅を広げ、人間味あふれる演技で幅広い層から支持されている。

Instagram @hisashi_yoshizawa

タイトルとURLをコピーしました