鑑賞後に思わず「冗談じゃないよ!!」と叫んでしまいそうになる映画『冗談じゃないよ』。
企画・主演の海老沢七海(えびさわ ななみ)さんにインタビュー!
佐野岳、竹下景子ら豪華キャストも出演、第15回日本映像グランプリ脚本賞を受賞するなど話題を呼んでいます。
テアトル新宿にて5/24(金)~5/30(木)まで上映。好評につき、延長上映ではテアトル梅田&アップリンク京都にて6/14(金)~6/20(木)まで上映。
誰よりも熱く、まっすぐな海老沢さんの「これまで」と「これから」をたくさん語っていただきました!
初の企画・主演映画『冗談じゃないよ』は自身の人生を投影した作品
映画『冗談じゃないよ』作品紹介
30歳が迫っている売れない役者、江田丈。オーディションを受け、荷上げのバイトで稼ぎ、仲間と酒を飲み、それなりに充実した毎日を送っていた。何に対しても、ただただまっすぐ突き進んできた丈だったが、年齢を重ねるにつれ、周囲とすれ違い、衝突することが多くなる。理想と現実の狭間で、愛する人たちを失いそうになった丈は..。
夢を追うすべての人へ送る、若者たちの物語。
引用元:https://joudanjanaiyo.com/
ーご自身が企画・主演の映画『冗談じゃないよ』は、改めてどういう作品になっているのでしょうか。
海老沢七海(以下、海老沢):江田マックス丈(以下、江田丈)という一人の売れない役者が、30代を手前にし、関わってくる周りの人たちも変化していく中で、夢と現実の間でもがいている人間模様を描いた作品です。
僕自身、30歳になる人生の節目に“自分の代表作を残したい”という想いがあって、僕の実際の20代に起きた出来事をもとに、日下⽟⺒(くさか たまみ)監督(以下、日下監督)と作らさせていただきました。
ー作品を通して、注目してもらいたいポイントや、伝えたいことはどのようなことでしょうか。
海老沢:僕が主演の代表作にはなるのですが、それよりもっと注目してほしいのはこの作品に出演する41人の役者たち。
見たことも聞いたこともないような役者たちかもしれないんですけど、全員夢を追いかけてる人たちなんです。
夢を追いかけてる人たちってみんなものすごいパワーを発しているので、ぜひそのパワーに気づいてもらえたらいいなと思っています。
ー出演者の方はオーディションで選ばれたのですか?
海老沢:ベテランの方以外は全員オーディションで選ばせていただきました。
なんでそんなに人数が多いのかっていうと、オーディションを開催した時に366通くらい来て、110人くらいにお会いしたんですけど、みんな本当にめちゃくちゃ良くて…!
魅力のある役者たちが、自分の知らないところにこんなにいたんだっていうことを知って、日下監督にお願いして当初の登場人数よりも役を増やすことになったんです。
登場人物にリスペクトを込めて、全員にフルネームの役名をつけているっていうのも珍しいのかなって思うので、見てもらえたら嬉しいです。
ー映画制作にあたってクラウドファンディングもされたのですよね!
海老沢:目標が250万円だったんですけど、ありがたいことに2ヶ月ちょっとで298人の方が応援してくださり、約340万円が集まりました。
ー撮影で大変だったことはありますか。
海老沢:撮影期間は全部で11日間だったんですけど、自主制作映画って予算もないので、シーンの撮影を1日にまとめてすることが多いんです。
作品内容の時系列と撮影のスケジュールがごちゃごちゃなので、ラストシーンを撮ったあとに、序盤の4年前の江田丈に戻して演じるということもありました。
20代前半の江田丈と、29歳の江田丈を演じ分けなくてはいけなかったので、その切り替えが大変でしたね。
ーどうやって切り替えていたのですか。
海老沢:29歳というのは演じていた当時の僕の年齢と近いのでそのままで良かったんですけど、4年前の25歳ってなるともっと尖っていて、元気で、切れ味が鋭い江田丈でいないといけなくて…。
もう気合です。
4年前の江田丈を演じる前はわざと「うわ~~~~~!!!!」って大声出してから撮っていましたね(笑)。
江田丈の役になりすぎて自分と役の境がわからなくなったこともありました。
僕、タコアレルギーでたこ焼きとか食べられないんですけど、“江田丈だったらタコアレルギーじゃないだろ”とか思ってタコのサラダ食べちゃったりして。
普通に蕁麻疹出ました(笑)。そういう訳の分からないところまで自分を持っていっていました。
ーご自身と江田丈は似ているというか、同じ、ということですか。
海老沢:同じではないかなと思います。僕も最初は、自分だったらこういう感じかなと、“自分を出す”ことを考えていたんです。
でもやっぱり海老沢七海を出しすぎてしまうと、江田丈が江田丈ではなくなってしまうということに気がついて。
一番はっきりそのことに気がついたのが、最後の疾走シーンを撮ったとき。
思いっきり江田丈がかわいそうだと思うようになって、それから役として江田丈を俯瞰して見るようになりました。
ー海老沢さんご自身の20代をもとに作られた作品とのことですが、具体的にどういうところが同じなのですか。
海老沢:まず誤解のないように言うと、江田丈の彼女のこのみ(日下⽟⺒が演じる)とのシーンは全部フィクションです。
でも“後輩を自分の家に招いてペペロンチーノを食べさせるシーン”とかは本当に僕で、作中で江田丈が住んでいる家も、実際に僕が前に住んでいた家なんですよ。
江田丈が母子家庭っていうのも本当の僕と一緒ですし、荷揚げのバイトも実際にしていますし、江田丈と関わる人物には、ほぼ僕の人生で出会った人の要素が盛り込まれているっていう感じです。
ー江田丈の母親(江田幸子)役は、竹下景子さんが演じられていましたね!
海老沢:僕がお世話になってる俳優の先輩の、関口アナンさんが竹下さんの息子さんなんです。
江田幸子役がどうしても決まらなくて悩んでいたところ、アナンくんに竹下景子さんへのオファーについて連絡してみたんです。
そうしたら1週間も経たずに出演OKの連絡をもらって…!
江田丈と江田幸子のシーンで共演させていただいたんですけど、実際に竹下さんに会ったとき、なんか泣き出しちゃいそうなくらいすごいオーラというか、覇気を感じました。本当に光栄でした。
最強のタッグ 企画・監督・出演の日下玉巳との関係性だからできたこと
ー企画から上映、そして作中でも特に日下監督と一緒にいることが多かったと思うのですが、おふたりのエピソードを教えてください!
海老沢:“江田丈”という男を作るうえで、日下監督が僕に「こんなとき海老沢さんならなんて言う?」っていう質問をよく投げかけてくれて、それに僕が答える形でどんどん江田丈が作られていきました。
日下監督には脚本作成の段階で、僕が生きてきた人生を120%すべて隠さず伝えたので、それで引かれたとしたらしょうがないなっていう気持ちでいたんですけど、日下監督の口からは「こんなモンスターに出会ったことないわ、(主演映画)やりましょう!」って言ってもらえたので、良かったですね。
ー海老沢さんから見た日下監督ってどういう方ですか?
海老沢:すごくガッツがあるというか、負けず嫌いです。
『冗談じゃないよ』の脚本作りから完成まで3年くらいあって、何回も喧嘩してますからね。
僕も負けず嫌いなのでどっちも譲らないんですよ。でもお互いああだこうだ言って、だからこそこの映画ができたのではないかと思います。
僕の役が『冗談じゃないよ』で全役と対峙させてもらうんですけど、唯一日下監督と芝居したときに、なんというか、圧倒的な強さを感じて「絶対勝てない相手だわ」って思いましたね。
ーもともと仲の良いおふたりなので、アドリブのシーンもあったのですか?
海老沢:アドリブはなくてちゃんと台本はあるんですけど、リハーサルで一回も合わせなかったんですよ。
日下監督とはもう2年くらい一緒にいたんで、もう「どんな感じでやる?」とかないんですよ。
「そう来たらこう行くけど」っていう感じで瞬発的にやったっていう感じです(笑)。
ーまさに阿吽の呼吸ですね。リアルで引き込まれる演技でした。最後に作品を観る方へのメッセージをお願いします!
海老沢:江田丈という男の役者の話ではあるんですけど、役者以外の登場人物もいっぱい出てくるので、夢を持っている人も、持っていない人も、役者志望の方も、そうでない方も、色んな方が自分ごとのように共感できる作品になっていると思います。
僕の全てを出し切った作品なので、これを機に“なんか面白いやつだな”って思ってもらえたら、ぜひ作品作りなどでご一緒できたらいいなと思っています。
俳優人生の「これまで」と「これから」 自転車を24時間漕ぎ続け、日本海にたどり着いた過去も…
ー海老沢さんが役者を志したきっかけは何だったのですか。
海老沢:将来の夢は消防士か漁師だったんですけど、高校1年生の時に母親に「あんた留学したい?」って言われたんです。
「行ってきなよ」って言われて、イギリスに1ヶ月行かせてくれて。
英語なんてまったく話せなかったんですけど、電子辞書とか本を使って、現地の人と会話をしようとしたときに、現地の人が僕の言おうとしていることを一生懸命聞こうとしてくれて、伝わったときに現地の方も笑顔だったんですよね。
それで“言葉を伝える”って、めちゃくちゃ素敵なことだなって思って、言葉を伝える仕事をしたいなって思ったことがきっかけです。
ー優しいお母さまですね。
海老沢:でもうちの母親ってちょっと変わっているんですよ。
小学校のときに僕に“アルゼンチンタンゴ”を習わせてくれたんです。
タンゴのアルゼンチンバージョンです。おかしいでしょう?(笑)
習いに行く教室もお金持ちのマダムばかりなんで、小学生の僕がマダム相手に踊るっていう…。
ちょっと恥ずかしかったんですけど、それでも人の前で発表するのは好きだなと思ったので、役者をやってみようかなと思いました。
ー今回の『冗談じゃないよ』の公開は、お母さまにとっても嬉しい出来事だったのではないでしょうか。
海老沢:劇場に何回も観にきてくれています。なんてったって自分の役が竹下景子さん。
周りに超自慢してますからね(笑)。
でもやっぱり喜んでくれるのは嬉しいので、早く親孝行できるように大きくなってマンションを買ってあげたいですね。僕が頑張るしかないです。
ー今まで俳優をやっていて挫折はありましたか。
海老沢:2020年の夏、コロナ禍になって俳優の仕事がなくなったときですね。
入ってた撮影も延期になって、オーディションもなくなって、マネージャーからも「お前、どうすんの」って煽られて。
自分の中では俳優を続けていきたいですけど“自分って人前に立っていい人間なのかな”って1ヶ月くらい人に会わず、引きこもっていた時期がありました。
ある日“俺ってそんなタイプじゃないだろ、引きこもってんじゃないよ”って自分このままじゃだめだって思ったんで、自転車で家を飛び出して24時間自転車を漕いで、300キロ先の新潟の日本海まで行きました。
ーそれはなぜ日本海へ?
海老沢:メンタルが下に落ちていたので、とりあえず上の方に行こうと思って…(笑)。
あくまで僕の感想ですけど、そのときの僕には、波も全然なくて、穏やかで日本海が天国みたいに見えました。
でも日本海を眺めていたら「こんなところにいちゃだめだ」って思って、そのまますぐ新潟から東京に帰ってきました。
ーまた自転車でですか!?
海老沢:あ、いえ新幹線です。自転車は折り畳みではなかったので分解して(笑)。
ーそういう辛い時期も経て、俳優を続けてこれた理由は何だと思いますか。
海老沢:僕、人が好きなんです。人が好きなのがそのまま反映される仕事だからかなと思います。
人が好きっていうのは人間観察ももちろんなんですけど、会話をしていて「なんかこの瞬間、芝居で使えるな」とか、荷揚げのバイトをしていてもおじさんと友達になってコミュニケーションをとって、その人の生活の話とかを聞くとそれも物語になったりするので、日常が色々なことにつなげられるのがわくわくするんですよね。
ー役作りはいつもどのようにされているのですか。
海老沢:役についての歴史とか人生について色々考えて、役に入り込みます。
僕の憶測ですけど、こういうものを食べているんじゃないかとか、こういう生活をしているんじゃないかとか。
そういうことを考えていると、僕自身本当にその役の人物のような生活になって、それが僕のプライベートになっていくような感覚ですね。
ーもう1年の折り返しにはなりますが、2024年はどういう年にしていきたいですか。
海老沢:2024年はとにかく『冗談じゃないよ』の年というか、この映画をきっかけに繋がった方々とのご縁を紡いでいく年にしたいなと思います。
だから改めて今回『冗談じゃないよ』を観ていただいて、インタビューという、この一緒に記事を作るっていう企画ができたことが本当に嬉しいんです。
ーありがとうございます!役者・海老沢七海として今後の展望も教えてください!
海老沢:『男はつらいよ』(1969)の寅さんが好きなので、寅さんのような国民的な俳優になりたいですし、お茶の間で観られるような作品に出ていきたいです。
あとはNHKとかEテレとかの子ども向け番組の司会とか、バラエティの司会とか、朝ドラにも出たいし、大河ドラマにも出たいです!
勘で生きるというわけでもないですが、周りにあまり影響されすぎないことも大事だなと思っています。
自分を信じてYes・Noって言える人間でいたいので、素直に生きていきたいですね。
大人になっていくと同調圧力を受けることもありますが、そこで僕は素直に自分の考えを言える人間でありたいです。
そういうときには心に江田丈を宿したいなと思います。
全部江田丈だとかわいそうなので、軽く、ある程度ですけどね(笑)。
海老沢七海(えびさわ ななみ)プロフィール
1992年生まれ。千葉県出身。フリーランス。
主な出演作品:「THE DAYS」(23) 西浦正記監督、「サンクチュアリ」(23) 江口カン監督、「冗談じゃないよ」企画・主演(23)、「サイレントラブ」(24) 内田英治監督
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