『おいち不思議がたり』の玉木宏が語る“父と子のいい関係”。「近くにいながら一歩引いて見守り、そっと背中を押してあげるような父親でありたい」

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ヒロインに不思議な能力があるという、一風変わった時代劇『おいち不思議がたり』(NHK BS時代劇、9月1日より放送)。このドラマで玉木宏さんが演じるのは、ヒロイン・葵わかなさん演じる“おいち”の父親役です。

今年で44歳。俳優としても、人間としての深みが増した玉木さんは、実生活では4歳のお子さんを持つ父親でもあります。父親役を演じる上での思いや、相手役の葵わかなさんとの撮影秘話をお伺いしました。

NHK BS時代劇『おいち不思議がたり』作品紹介

9/1(日)スタート。NHK BS時代劇『おいち不思議がたり』毎週日曜 午後6:45~7:28[BS・BSP4K]放送。

江戸・深川の長屋で医者になりたいと夢見て父である医者・松庵を手伝うヒロインおいち(葵わかなさん)。彼女には特別な力があった。それは無念のうちに亡くなっていった者たちの「声」を聴き「姿」を見る力…明るく前向きなおいちが、岡っ引きの親分(髙嶋政宏さん)とともに、人間の闇に迫っていき、謎を解いていく。犯人の意外性を味わえる推理時代劇でありつつ、悩みながらも自らの力で道を切り開いていく、おいちの青春成長物語。玉木さんはおいちの父親・松庵役で出演。

NHK BS時代劇『おいち不思議がたり』HPより引用 

相手役の葵さんから「私たち、親子に見えるでしょうか」と言われたが、撮影とともに不安は消えた

―今回、玉木さんが主人公の父親役として出演される『おいち不思議がたり』は、不思議な能力を持つヒロインが事件を解決していくという話です。時代劇なのにファンタジー的要素もあり、今までにない作品ですね。

玉木宏さん(以下、玉木):時代劇というジャンルでありながら、科学では説明できないような能力を持つ女の子が主人公。新しさのあるストーリーだなと感じました。

“亡くなった人の声や姿を感じ取れる”というおいち。

松庵は、おいちの幼少期には「え、この子は本当に死者の姿が見えるのかな」と不思議に思った瞬間もあっただろうと思いますが、ドラマの中では松庵はおいちの力を理解している前提で話が進んでいきます。

松庵は父親としての立場で、達観しているんです。自分の力に戸惑うおいちを否定せず受け入れて、彼女が目指す未来へ導いてあげようというスタンスでいる人だと思っていました。

―おいち役の葵さんは26歳、父親役の玉木さんは44歳。年齢的には親子もありうると思いながらも、玉木さんが若々しいので、最初は「この2人が親子?」と思ってしまいました。

玉木:時代劇の世界なので、若くして子供を授かるという意味では年齢差的に何らおかしくもないし、ウソもないと思うんです。「私たち、親子に見えますか?」とわかなちゃんに聞かれたこともあり、まずは親子としての2人の空気感を作っていくことが大事だと思いました。

撮影の序盤は、意識して“親子感”を作って演じていましたが、40代の父親と20代の娘が、畳の上で布団を並べて寝ているシーンが多くて。現代だったら、なかなかないシチュエーションです。

「この時代の親子は、これくらいの距離感で一緒に過ごしているんだから、撮影時間を重ねていけばいくほど、きっと親子に見えてくるはずだ」と思って演じているうちに、いつの間にか、親子という関係性が腑に落ちていきました。

娘が、自分の抱える悩みを素直に父親に打ち明ける。父親もそれをしっかり受け止め、言葉を選びながら背中を押してあげる。

これはすごくいい関係だし、素敵な空気感だと思ったので、この雰囲気が視聴者の方に届けばいいなと思いながら演じていました。

―なるほど、そうやっておいちと松庵としての“親子の絆”が深まっていったんですね。

玉木:松庵はおいちを言葉で応援するのではなく、近くにいながら一歩引いた目線で、そっと背中を押してあげるような人物だった。それはすごく心地よかったです。

―おいちは町医者をしている松庵の前で「自分もお父さんと同じ仕事をしたい」とハッキリ言ってのける。そのストレートさが今の時代には逆に新鮮で、眩しくも感じました。

玉木:今は職業選びにしても選択肢がたくさんありますが、おいちの生きていた時代は情報が今より少なく、決して裕福でもないと思うので、そういう環境に生まれたら「親の跡を継ぐしかない」と思うのも当然かもしれません。

自分のやりたいことがあれば、父親とは別の道を選ぶこともあると思いますが、おいちのように父親の背中を追いかけて素直に頑張ろうとする姿は美しいなと思いました。

玉木さんの不思議体験「お化けを見たことがある」に葵さんもびっくり

―共演されている葵さんはどんな女優さんでしたか。

玉木:(葵)わかなちゃんとは今回が初めてのお仕事だったんです。

わかなちゃん演じるおいちは、普段のわかなちゃんに比べるとまだ少女感が強い主人公だったと思います。なにかが目の前で起こって、どうしたらいいのかわからないと動揺しながらも、がむしゃらに前に進まなくてはいけないんだと思う女性。ある意味ストレートに表現しないと成立しないキャラクターだと思っていましたが、

わかなちゃん自身は達観していて大人でした。器用だし、芯がしっかりしているし、なによりもミスがない。

自分を役柄に合わせてコントロールしながら立ち位置の正解を考え、みんなとお芝居を合わせていく中で自分のポジションを掴んでいっているように見えました。

―撮影中のエピソードがあればぜひお聞きしたいです。

玉木:撮影の合間には、作品と関係ない話で盛り上がっていました。おいちが不思議な能力を持つ女性ということで、「何か不思議な体験をされたことはありますか」と聞かれたので、「お化けを見たことがある」と話をしたり…。

―え、玉木さん、お化けが見えるんですか!

玉木:見たのはほんの数回という感じです(笑)。怖いというより、なぜかいきなり見えてしまう、という感じなんです。

そのお化けは見ず知らずの人なのですが、なぜか背景が透けて見える。ということは、あの人は実在していない人なんだな、と思ったわけで。

なにかを訴えかけられるということでもなく、「ただ、そこにいる」という感じ。特に怖くもなかったです。

こういうことは本当にあるんだな、と実体験で思ったからなおのこと、おいちのように亡くなった人が見える能力を持つ人も、世の中にはいる、と思えます。

―そうやって撮影の合間に話しながら相手を分かり合うって、作品を作っていくうえで大事なことかもしれませんよね。

玉木:そういうたわいもない会話を交わしながら人間関係を作っていくところが、わかなちゃんのピュアさだと思いました。

父親役を演じながら、ふと自分の家族に重ね合わせる瞬間も 

―実生活でも父親である玉木さん。お子さんも4歳になったそうですね。ドラマでは子どもが事件に深入りしてしまう設定ですが、父親の立場としてはハラハラする設定ではないかと思いました。

玉木:ドラマの後半で、松庵がおいちに「危ないことをするなって言ったよな?」と伝える場面があるんです。父親としては危ないことをしてほしくないと思いながらも、同時においちにしかできないことがあるのも分かっている。精神的においちを支えながら、ほんの少し、父親としての迷いや覚悟が見え隠れするようにも感じました。

―そんな父親像は、実生活での自分自身にも重なるところはありましたか?

玉木:実生活において、それができているかどうかは別として…。

子どもを応援したいと思いつつも、危ないことはしてほしくない…そういう思いはやはりあります。うちの子はまだ4歳ですが、今後もっともっと自分の意思がはっきりしてきて、やりたいことも増えるだろうし、外に出るようにもなっていく。危ないことは危ないとちゃんと教えなくてはいけないのですが、経験させなければ何が危ないのかもわからない。そのバランスはすごく難しいと思います。

ただ、何かあっては困る。親としてもブレーキはかけなくてはいけない。それは常に考えている部分です。

―4歳ということは、パパのお仕事がどんなものか分かっているころでしょうか。

玉木:今は、テレビ番組でなくてもYouTubeで一般の方が投稿した動画をテレビで見られる時代なので、俳優という仕事と、ユーチューバーの境目があまりわかっていないのではないかなと思います。

―『おいち不思議がたり』は放送時間も夕食どき。親子で一緒にドラマを見るなんてこともありそうですか?

玉木:うーん、どうかなあ…。うちの子はまだ集中力が足りないから、なかなか難しいかもしれません(笑)。

先日も子ども向けのショーを一緒に観に行ったのですが、好きなキャラクターなはずなのに、前半30分が終わった休憩時間に「もう帰ろ、帰ろ」と言うので、仕方なく途中で帰宅することになってしまったくらいです(笑)。

―お子さんをショーに連れて行くなんて、玉木さん、いいお父さんですね(笑)!

お話を聞いていると、お子さんがおいちの年齢まで成長されるには、まだまだ時間が必要そうですが(笑)。

玉木:そうですね、先は長そうです(笑)。

年齢とともに存在感のある役が増えた。作品を下支えする役の重み、演じる難しさを実感

―玉木さんは今年44歳になられましたが、年齢が上がって、仕事で求められるものも変わりましたか?

玉木:それは思います。

若いときのようにまっすぐな役はあまり来なくなってきたというか、なにか大きなものを抱えている役、どっしりと構えて演じなくてはならない役が多くなっていると実感します。

勢いに任せたセリフで突っ込む役なら、がむしゃらに演じればいい部分もあるのですが、一歩後ろで人を支える役の難しさを痛感するときもあります。そういう役を重ねていけば、きっと定着していくと思いますが、そうはいってもまだ44歳なので、もっと経験を積む必要があるかもしれません。

父親役も増えてきましたが、それも経験値を増やすことが大事なんだろうと思っています。

―重みのある役を演じるようになって、演じ方や役作りも変わられた部分はあるんでしょうか。

玉木:大きくは変わっていないです。ひとつひとつの作品の中で、自分がいただいた役というのはどういう立ち位置なのか。作品の中で、どういうポジションなのかということを、常に台本を読みながら考えること。それが一番大事な作業かなと思っています。

―映画『ゴールデンカムイ』や『キングダム 大将軍の帰還』など、最近でもいろいろな大作に出演されて、お忙しい毎日だと思います。玉木さんは普段、どうやってリラックスされているんでしょうか。

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玉木:まさにブラジリアン柔術ですね。時間があれば毎日やっています。

ブラジリアン柔術は、頭も使うし、当然体も使う。もちろん格闘技なので、怪我のリスクもあります。

技をかけられたら、その技の解除方法があって、きちんと手順を踏まないと先に進めない。将棋やチェスに例えられたりもするんですが、どんどん相手を詰めていく、体を動かすと同時に、頭も一緒に動かさないと形にならない…。

だからこそ、柔術をやっている最中には他のことを考える余裕がなく、目の前のことしか考えられないので、ある意味それがリラックスになっている気がします。

―最後に、今後の活動への抱負や、挑戦してみたい役があれば教えてください。

玉木:いろいろなお仕事をいただく中で、自分がコントロールできることはあまりないんですが、しいて言うなら、やっぱり子どもに自分の背中をしっかり見せたいという思いが出てきました。最近は、自分の思いだけで“やりたいことをやる”のではなく、子どもに「父親としての姿を示せる仕事は何だろう」と、なんとなく考えるようになってきた気がします。

玉木宏(たまき ひろし)プロフィール

1980年1月14日生まれ、愛知県出身。ドラマ『せつない』(1998年)で俳優デビュー。ドラマ、映画、舞台、ナレーションのほか、MV・映画監督やカメラマンなど、多岐に渡って活躍中。NHK大河ドラマ『功名が辻』、『篤姫』、『平清盛』や『のだめカンタービレ』(フジテレビ系)、『極主婦道』(日本テレビ系)、映画『ウォーターボーイズ』、『ただ、君を愛してる』、『ゴールデンカムイ』、『キングダム 大将軍の帰還』など話題作に数々出演。エランドール賞新人賞(2007年)、NHK『あさが来た』でドラマアカデミー賞助演男優賞。趣味はカメラ、特技は水泳。

●Instagram @hiroshitamaki_official

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取材・文:小澤彩
撮影:髙橋耀太

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