舞台・映画・ドラマ・声優、ナレーター、ジャンルを問わず活躍の場を広げている、内田慈(うちだ ちか)さんにインタビュー。
2015年に舞台、2024年ホームドラマ化、そしてこの7月12日(金)、新宿ピカデリーほか全国公開する『お母さんが一緒』は、長女・弥生(江口のりこ)、次女・愛美(内田慈)、三女・清美(古川琴音)の三姉妹が繰り広げる笑えて泣けるホームドラマ。撮影秘話などたっぷりお話を伺いました!
思いきり泣いて笑える、ホームドラマ『お母さんが一緒』
7月12日公開『お母さんが一緒』概要
親孝行のつもりで母親を温泉旅行に連れてきた三姉妹。長女は美人姉妹といわれる妹たちにコンプレックスを持ち、次女は優等生の長女と比べられてきたことを恨んでおり、三女は姉二人を冷めた目で観察していて、全員が「母親みたいな人生を送りたくない」という共通の思いを抱えている。温泉宿の一室で爆発する三姉妹の母親への愚痴は徐々にエスカレートし、お互いを罵倒する修羅場へと発展していく。そこに清美がサプライズで紹介しようと考えていた彼氏・タカヒロが現れ、物語は思わぬ方向へ――。
“いちばん近い他人”である家族だからこそ感じる不満やいら立ち。悲喜こもごもを毒気とともにあたたかく軽やかに綴った、家族ドラマ。
劇作家・映画監督などマルチな才能を発揮するぺヤンヌマキによる同名の舞台を、稀代の映画監督・橋口亮輔が脚色したオリジナルドラマシリーズが、このたび新たに再編集され、映画となった。
引用元:映画『お母さんが一緒』公式サイト (okaasan-movie.com)
オリジナルドラマ「お母さんが一緒」 | ホームドラマチャンネル (homedrama-ch.com)
ーどのような映画で、どのような役どころなのか改めてお聞かせください。
内田慈(以下、内田):2015年に「ブス会*」という演劇ユニットでぺヤンヌマキさんが脚本・演出をされた舞台をもとに橋口亮輔監督が映像化した作品です。
3姉妹が母親を温泉旅行に連れていくという、たった1日とその明朝までのお話なのですが、そこで色々な事件、すったもんだが起きるわけです。
私の役柄は、次女の愛美(まなみ)で、舞台のときと同じ役を演じました。
愛美はすごくお金や男関係にルーズで、それを長女の弥生(やよい)ににいつも怒られていて、優秀な姉にコンプレックスを持っている。だから、”ちゃんとしすぎてるからつまんないんじゃないの?”ってとこで反発してる。
愛美は自分が不器用とか、傷つきやすいっていうことに、なんとなく気づいているんでしょうけど、向き合いたくないからなのか、いつも根本解決していなくて、すぐに目を逸らして調子に乗っちゃったりとかして、それでまた痛い目を見るということを繰り返している人物かなと。
ーご自身とに似ている部分があったり、役作りの際に活かされた部分はありますか?
内田:私自身は三姉妹の末っ子で。妹の役割として、家族間の催しではいろんな局面でパフォーマンスを担う立場でした。
例えば、物語の序盤で愛美が「お母さんの誕生日に歌を歌え」と姉妹たちに煽られて、最初は嫌がっていて、つっけんどんな態度をとるんですけど、最終的には「じゃあ私はいつ歌えばいいの」って言って結局歌うシーンがあるんです。
このシーンは原作となる舞台でエチュードで立ち上げたシーンで。ある意味、実感がこもっています。
なんだろう、やったらやったで褒められてちょっと嫌じゃないというか、まんざらでもないみたいな(笑)。
ーご自身も3人姉妹だったから、共感できるところだったり、わかるなっていう部分が多かったのですね。作品を通して家族について気づかされたこと、感じたことはありますか。
内田:他人だったらそこまでむき出しにできない感情を、例えば人のせいにして怒るということができちゃうのは、やっぱり家族という独特の密な関係だからなのかなと思います。
ちょっともうさすがに再生不可能なのではないかと思うくらい辛辣なことを、それぞれ言ってしまうということがあった中で、それぞれが自分と向き合って、自分の力でもう一度家族になろうとする姿には、未来があるなと感じました。
ー撮影した中で一番思い出に残ってるシーンは何かありますか。
内田:いっぱいあるんですけど、まず江口さん。
物語の中盤でアイロンをかけたり、色々畳んだり、出したりしまったりしながらセリフをバーっと言うシーンがあって、手も口も動かすのですごく大変だったはずなんですけど、それを全部ばっちり決めてきて。あれは痺れました…。
あとは「これは捨てたやつやろうが!」って江口さんがストールをごみ箱に捨てるシーンがあるんですけど、なんかあそこ何回やってもみんなが爆笑しちゃって(笑)。
キレすぎて一言で笑いをかっさらう姿がかっこよかった(笑)。
琴音ちゃんとのシーンで印象的なのは、2人でダンスするシーン。「臨場感を大切にしたいね」ってあえて動きを決めすぎになんとなく流れだけ決めて、私が琴音ちゃんを誘導する流れ。
だけど何度かやるうちに、“あれ?なんか違うな…?”と私が迷子になっちゃって。そしたら琴音ちゃんに私の迷いが伝染して2人で吹き出しちゃって(笑)。なんだかもうおもしろくて仕方なくて、ゲラゲラ笑いながら撮りました。結果、本番も臨場感のあるシーンになったかなと思います。
ーお話しを聞いていると、現場の雰囲気も本当の姉妹みたいないい雰囲気で撮れたのかなと思いました。
内田:江口さんが面白いことを言って、琴音ちゃんと私が笑って…だいたい笑ってました。その距離感が画面に乗っているといいな。
ー現場で特におもしろかったエピソードがあれば、教えてください!
内田:江口さんが美味しいって言っていたお菓子があったんですよ。
それをみんなで調べてみたら結構ボリュームがあって、「食後のおやつとかに食べるにはちょっと重いよね」って制作陣の方と琴音ちゃんと私で話していたんです。
「え、じゃあ朝ごはん?」とか、2人でどんどん会話を進めていたら突然江口さんが「10時半やな!」って(笑)。
思いの外詳細な回答が返って来たことと、たしかに朝の10時半ならちょうど良さそうっていうので、爆笑でした。本当におもしろかったです。
ー橋口亮輔監督とのエピソードも教えていただけますか。
内田:橋口監督はとにかく全部リハーサルのときから本番に入っても、監督ご自身がどんな役でも演じて見せてくれて、「こういう感じだよ」っていうのをみんなに伝えながら演出するスタイルだったんですよ。
監督ご自身の中に、弥生と愛美と清美っていうこじらせた3人を住まわせているというのは愛憎も3人分のはずですごく体力のいること。お気持ち的にきっとすごくしんどかったと思います。
印象的だったのは温泉のシーン。カットがかかるたびに監督が三姉妹に急いでバスタオルを持って来てくれるんです。でも温泉の下のほうに見えないけど岩があって、監督がバシャーンって転んでびしょびしょになっちゃったりして、本当に一生懸命で…!
まさに全身全霊で作るその姿に映画への愛と、三姉妹への愛を感じました。
ータカヒロ役の青山フォール勝ち(ネルソンズ)さんとのエピソードも教えていただけますか。
内田:橋口監督が、それくらいご自分の身体まるごと目一杯使ってつくっていらっしゃったからこそ、撮影のときにやっぱり納得いかないときもあって、どんよりしてた日もあったんです。
ちょっと遅れてタカヒロ役の青山さんがクランクインしたんですけど、青山さんがいらっしゃったら監督の雰囲気がすっごい明るくなって!(笑)
青山さんが演じるタカヒロも、太陽みたいに明るい役なんですけど、実際の青山さんもとても陽の空気を持っている方で。作中の三姉妹にとっても現場にとっても、救世主登場!という感じでした。
8年前と同じ役を演じられるのは “ご褒美”
ー2015年の舞台版での愛美役に続いて、映画でも同じ役で出演されるってすごいことですよね。オファーを受けたときはどんなお気持ちでしたか。
内田:約8年前にやった役と同じ役をやれるっていうのは、すごくご褒美だなと思いました。
今思うことを大切に自分の中で感じながら、取り組むとまた違う発見があるはずだなと、すごく楽しみでした。
あと、ペヤンヌさんの作品の中でもこの作品はすごく覚悟して描いた作品になっていると聞いています。
それまでペヤンヌさんの作品は生きづらい女性をテーマに描かれることが多く、今作が初めて家族をテーマにした作品です。稽古が始まる前に三姉妹の私たちを実際に温泉旅行に連れて行ってくれてヒント探しをしたりと色んな準備をして、想いを込めて臨んでおられました。
そんな作品がまた映画という形でみなさんに観ていただけるというのは、私としてもすごく嬉しかったです。
橋口監督は、『恋人たち』(2015)、『ぐるりのこと。』(2008)でご一緒させていただいていたんですけど、どっちも撮影は一日くらいしかなくて。
その一日がものすごく濃くて楽しかったので、“いつかもっとガッツリ一緒にやりたい!”と思っていたんです。
橋口監督の作品、全部大好きなんですよ。「あ、その感情に触れてくれるんだ」っていう鋭さと繊細さがあって。登場人物たちの傷に敏感に気づき、フォーカスして、大きな優しさで包んでくれる。「今後出演したい監督は?」と聞かれたら「橋口さん!」とよく口にしていました。
そういうさまざまな“ご褒美感”を感じさせていただける作品でした。
ー8年ぶりって内田さんにとっても嬉しいことだと思いますが、ファンの方にとっても嬉しいことですよね。
内田:当時舞台を見に来てくれた方が、覚えていてくれたり楽しみにしてくれていて、嬉しいびっくりでした。
8年の時を経て映画となりより広く観ていただける機会となって、本当に光栄です。
舞台でご覧になったことがある方にも、映画で初めて『お母さんが一緒』に触れる方にも、楽しんでいただける作品になっていたら嬉しいです。
ー舞台版は映画版と内容的に大きく変わったりはしていないのですか?
内田:ネタバレになってしまうのであまり詳しくは言えないのですが、より深く、よりおもしろくするために新たに脚色されているものがありますし、映画ならではのシーンとかも追加されています。
何より、舞台は観る部分を観客が選ぶ芸術、映画は見せたい部分をフォーカスする芸術。そこで浮き彫りになってくるものの印象は違うと思いますし、演出家が違うことで浮き彫りになる部分も違うと思います。
ーどのような方に観ていただきたい作品ですか。
内田:家族ってやっぱり、“大嫌いで大好き” な存在かなと。
どんなに仲良くても大嫌いなところもあるし、大嫌いって言ってたっていつもなんか気になっちゃう。
気になっちゃうのって結局なんだかんだ好きなのかなというっていう。
だからまあ、観ていただきたいのは全人類ってことになっちゃうんですけど…!(笑)
家族を持ってる人、想う家族がいる人には観ていただきたいかなと思います。家族の顔を思い浮かべて「もう、しょうがないなぁ」と思えたら、ちょっと幸せじゃない?(笑)
内田慈(うちだ ちか)プロフィール
1983年 神奈川県生まれ。日本大学芸術学部文芸学科中退後、演劇活動を開始。オーディションにより新進気鋭の作家・演出家の作品にいち早く出演しキャリアを積む。舞台では、前川知大、前田司郎、岩井秀人、三浦大輔、ペヤンヌマキ、神里雄大ほか同世代とのクリエーションをはじめ、二兎社、こまつ座など老舗の劇団への出演、近年では月刊「根本宗子」など次世代を担うクリエイターの作品へも出演している。映画では、08年に橋口亮輔監督「ぐるりのこと。」でスクリーンデビュー後、多数の映画に出演。
近年の主な出演作に、【舞台】木ノ下歌舞伎「糸井版 摂州合邦辻」、イキウメ「散歩する侵略者」、こまつ座「紙屋町さくらホテル」。【映画】「ロストパラダイス・イン・トーキョー」(ヒロイン)、「きみはいい子」、「恋人たち」、「下衆の愛」、「葛城事件」、「ピンカートンに会いにいく」(主演)、「水平線」、「夜明けのすべて」、「あの子の夢を水に流して」(主演)。【ドラマ】「リバースエッジ 大川端探偵社」、「まれ」、「お別れホスピタル」、「9ボーダー」「Re:リベンジ-欲望の果てに」などまた、舞台「ふくすけ2024-歌舞伎町黙示録-」が7月9日よりTHEATER MILANO-Zaにて上演中。NHK Eテレ「みいつけた!」では声の出演をしている。
オフィシャルサイト 内田慈オフィシャルウェブサイト (chikappoi.com)
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