映画『うみべの女の子』で思春期の中学生役を主演。存在感のある表現力と芝居で、監督や原作者、原作ファンからも信頼を集めた。10月クールの連ドラ『バントマン』に出演予定の一方、女優の枠を超えて、大瀧詠一の楽曲のカヴァーに挑戦した石川さん。初のレコーディングや、絵本や映画などものづくりへの憧れについて伺いました。
素の自分のまま、ボイトレなしで、レコーディングしました
気鋭の若手実力派女優を起用した音楽プロジェクト“Mágico”(マジコ)。
Mágicoとはポルトガル語で「魔法の」といった意味で、今しか捉えることができない若手女優たちの魔法の瞬間を音楽(歌)で切り取り、季節ごとに紹介しようというもの。
■8月28日(水)に先行配信リリース
「それはぼくぢゃないよ」
■11月20日(水)には7インチ・シングルで発売予定
石川瑠華「それはぼくぢゃないよ」
[SIDE A]
それはぼくぢゃないよ
[SIDE B]
ゆうれい
―若手女優を起用した音楽プロジェクト“Mágico”第2弾にて、楽曲を2曲カヴァーされたそうですが、音楽活動をやろうと思ったきっかけを教えてください。
石川瑠華さん(以下、石川):今はどんなことでも一回やってみようと思っていて。
趣味で友人と絵本を作ったりもしていて、その絵本は公表していないのですが、自分を使って表現するということが好きなのだと思います。
―演技に絵本に歌に、表現することがお好きなんですね。
石川:歌を表現として一度挑戦してみたら、いままでとは違うものが見えるかもしれないと思いました。今回お話をいただいたのは、女優さんが歌を歌うというプロジェクトの第2弾で、第1弾は、中野有紗さんでした。
―選ばれたのは声がよかったからでしょうか?
石川:わからないです。歌が上手な女優さんはたくさんいるから、私でいいのかなと思いました(笑)。
でも、下手なかもしれないけど不思議と心に響くこともありますよね。プロデューサーさんにレコーディングはボイトレしないで来てと言われて、素の歌声を録音してます。
―すごい。ボイトレなしで、息切れしないんですね
石川:全然します(笑)。レコーディングは長いので、ボロボロになりながら録音しました。本当は、ボイトレしてカラオケで練習してからと思っていました。
―楽曲はすでに決まっていたのですか?
石川: 2曲あるんですけど、どっちも私の選曲です。1曲目は、大瀧詠一さんの『それはぼくぢゃないよ』。当初、はっぴいえんどの『風をあつめて』にしたいって言われていたんですが、すでにたくさんの方がカバーしているので私はちがうなと思いました。大好きな曲だったので、余計に慎重になっていたのだと思います。
映画の『うみべの女の子』の撮影中に、『それはぼくぢゃないよ』を聞いてたので、それはどうかなと提案して、決まりました。
―思い入れがある曲なんですね。もう1曲もご自身の思い出の曲ですか?
石川:山本精一さんの『ゆうれい』です。これはライブで聴いて以来、大好きな曲です。
今ここで歌詞を読み上げたいくらい歌詞が好きで。最初ライブで聴いたときに「うわ、私の曲だ」と思ってしまいました。
山本さんはこの“Mágico”のプロデューサーでもあるのですが、レコーディングの時に、山本さんが、「これは女優の曲なんだ」とおっしゃっていて、ぞっとしました。
―運命ですね。
石川:出逢えた奇跡に感謝。これからも大切にしたいです。
『ゆうれい』といいつつも、曲は、暗くなくてアップテンポなんです。女優さんって何にでもなれて何でもないみたいな。
―レコーディングした歌をご自身で聴かれた感想は?
石川:泣きそうになりました。自分で言うのはおかしいですが、すごくいいなと思いました(笑)
お芝居って作ってるから異物感があるけど、歌はそれがなくて。
変な自意識とかも入ってなかったから。
素の自分の歌声は、飾ってなくてシンプルで、そこに安心したのかな。
―どちらも男性の歌ですが、曲のイメージを変えることを意識されていたんですか?
石川:ガラッとイメージを変えるという感じではないです。山本さんという材料と石川瑠華という材料が混ざりあって、おいしいものをみんなで作ったみたいな。
今回はMVも撮ったので、いつもと違う出会いがあって、カメラマンの熊谷さんと曲のイメージをすり合わせながら一緒に作れたことはとても楽しく、刺激的な経験でした。
人生初めての映画『ダンサー・イン・ザ・ダーク』で、映画の凄さを知った
―石川さんの好きな映画を3本教えてください!
石川: 1本目は『ダンサー・イン・ザ・ダーク』です。
好きな作品は暗いのが多いです。人間の嫌な部分、どうしようもない部分がとても影像として美しかったりして、その残酷さが私にとってはとてもリアルで。人に嫌悪感を持ってしまう部分を「嫌い」と決めつけられず、両義的なものであるという可能性を感じられる作品が好きです。
私は、日常で経験する嫌な出来事も、きっと何かいい創作に変えられるって信じてるから。
嫌な経験もお芝居に役に立つから、ひとつひとつの忘れたいことも覚えていたいと思っています。
―女優さんだから、経験をすべて演技に昇華するということなんですね。
石川:悲しすぎることが悲しいで終わるとやりきれないけど、その悲しさで何かを生み出せるなら、生きる力に変わると思います。
―好きな映画の2本目は何ですか?
石川:フランス映画の『サガン -悲しみよ こんにちは-』です。
サガンの伝記映画で、サガンは、私が一番好きな作家です。しかも、シルビー・テステューが演じているんですよ!シルビー・テステューは私が一番好きな女優さんなんです!
サガンは成功の陰で、ギャンブルや薬物などスキャンダラスな波乱万丈の人生を歩みました。でも本当は本を書き続けたかっただけ。
―好きな作家を好きな女優が演じるなんて奇跡のキャスティングですね!
石川:私にとって宝物のような映画です。しかも監督も大好きなので、やはり宝物です。
―フランス映画がお好きなんですか?
石川:フランス映画の媚びない創り方にとても惹かれます。映像のカットや撮り方もシンプルでとても美しいし、登場人物の女性が強いところも好きです。
―3本目は?
石川:『i olga hepnarova』です。
これは観た後、一週間くらい絶望に暮れたほどの重い映画です。
社会に恨みを持って生きてきた主人公が死刑になりたいと思って、16人殺して死刑を宣告される映画です。
―ヘビーな作品ですね
石川:はい。もっとヘビーなのはここからで、主人公が死刑の宣告を待ってるんですが、待ってる間に、死刑になりたくないという気持ちに変わって、その時に、死刑執行されるという。この主人公が女の子なんですけど、この子が良い子だから、感情移入しちゃって、私はその結末を受け入れられない。でもテーマとして、覚えておかなければいけない作品です。
―そういった映画の影響力は大きいですね。
石川:そうですね。とても影響を受けるので、撮影中は観ないようにしています。
―石川さんの出演した映画も影響力が大きい作品も多いですよね。
石川:そうですね。自分の作品だと影響が大きいのは『市子』で、反響があったのは、『うみべの女の子』です。
原作の映像化は、原作ファンの人に喜んでもらえたら幸せです
映画『うみべの女の子』作品紹介
海辺の田舎町に暮らす中学二年生の小梅(石川瑠華)は、憧れの三崎先輩(倉悠貴)に手酷いフラれ方をして自棄になり、同級生の磯辺(青木柚)を誘って衝動的に初体験を済ませる。なぜその相手が自分だったのかと問う磯辺に、「一年の時あたしに告ったじゃん」と、ことも無げに言い放つ小梅。気持ちはまだ変わっていないとあらためて告白する磯辺だったが、小梅にその気はなかった。
体を重ねても、心を求めても、つながりきれない苦しさともどかしさ。どんなに望んでも絶望的にすれ違ってしまう思い。これが恋なのかもしれないとつかみかけた瞬間に相手は指の間からすり抜けていく。欲しかったのは愛か、それとも愛の代わりだったのか。誰もがかつて経験したかもしれない、誰かは今まさに経験しているかもしれない、どうしようもなく危うくて残酷で強かな、永遠よりも長くて儚い季節の物語。
―『うみべの女の子』は浅野いにおさんの原作を映画化していますが、演じる時に意識されたことはありましたか?
石川:ファンの方にとても愛されている作品なので、その人たちを傷つけないようにとか、プレッシャーがありました。私自身も好きな漫画が映像化されたときに、期待する部分もある一方で、原作をどう映像化しているのかはとても気になるので。
―石川さんが演じられた、小梅は、原作のまんまで、世界観が同じだと感じました。
石川:ありがとうございます!「同じ世界観だね」ってよく言ってもらえるんです。漫画のファンの人は、どっちも好きって言ってくれたりして、私もこの原作のファンなので、ファンの人が喜んでくれたのは嬉しいです。
―中学生の小梅の役作りはどうされたんですか?
石川:撮影前から140cmくらいの服を着ていました。
最初ピチピチだったんですけど、身体に馴染ませていきました。それで、海のそばに住んでる子だったから、海の近くに実際に泊まって、小梅とおなじような行動をしていました。
撮影に入るまでに役に馴らしていって、撮影のときは自然に小梅が佇んでいるという感じにしたかった。
現場には高校生の俳優さんや、お芝居を見習いたいと思える仲間がたくさんいて、自分の芝居もいい意味で影響を受けました。
―最後に、東海テレビの10月クールの連ドラ『バントマン』にも出演されるそうですが、今後の目標をおしえてください。
石川:今を精一杯生きて、何かをずっと創っていたいなと思います。音楽もドラマも、誰かに聴いていただける日を観ていただける日を私自身とても楽しみにしています。皆さんにも楽しみにしていただけるようにこれからも創り続けたいです。
ドラマ『バントマン』作品紹介
初タッグ!中日ドラゴンズ×土ドラで贈る新たなスポーツエンターテインメント
戦力外通告を受けた主人公を待っていたのはプロの球団ではなく一般企業。しかも送りバントのように誰かのためにチャンスを提供する「バントマンになれ」という指示を受ける。子どものころからヒーローとして花道を歩んできた生粋のホームランバッターが、これまでの生き方とは真逆の 地味な“バントマンの道”を歩むことができるのか…?
このドラマは野球哲学を交えて描くオリジナルストーリー。誰かの夢や願いを叶えるため、バントマンたちはそれぞれが置かれた状況を野球のシチュエーションに例え、作戦を立てていく。
時にコミカルに時にハートウォーミングに、過去に見たこともないトーンで展開していく。
10月12日(土)23:40より放送開始!
石川瑠華(いしかわるか)プロフィール
埼玉県出身。1997年生まれ。『猿楽町で会いましょう』で主演し、国内外の映画祭で高い評価を受ける。同年の『うみべの女の子』で思春期の中学生の繊細に演じ、原作の浅野いにおから絶賛される。今後は、10月期の東海テレビ制作の連続ドラマ『バントマン』に出演予定。
【映画】映画『猿楽町で会いましょう』(2021) 『うみべの女の子』 (2021)、『三日月とネコ』(2024)【舞台】『振り返る人たち』(2021)【ドラマ】東海テレビ『13』(2020)、『バントマン』(2024)
●Instagram @___rukaishikawa
●HP 石川瑠華オフィシャルサイト
文:姫田京子