映画『虚空』の主演・冬由さん(写真左)と、監督を務めた日下玉巳さん(写真右)の対談インタビューです。
ラオスでも撮影されたという映画の魅力や、ラオスを旅した撮影裏話などをたくさん語っていただきました。
映画『虚空』作品紹介
映像制作会社で働く野上夏生は、撮影現場の忙しい日々に追われ、自分が消耗されていく感覚に苛まれていた。そんな中、高校時代に密かに想いを寄せていた同級生・中村くんの突然の死を知る。心のバランスを崩した野上が向かった先とはーー。
引用元:https://motion-gallery.net/projects/koku_laomovie
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映画『虚空』の原点。撮影地にラオスを選んだ理由とは

ー日本とラオスの合作短編映画ですが、この映画のきっかけはなんだったのでしょうか。
冬由さん(以下、冬由):私は音楽がすごく好きで、ロックバンドのandymoriさんの曲に衝撃を受けて、私も「自分の訴えたいことを作品にしたい」「映画を作ってみたい」と思いました。
ー「映画を作りたい」と感じてからの初期構想や企画の経緯について教えてください。
冬由:本当にざっくりでした。andymoriさんのお名前も「メメント・モリ」という単語が由来になっているみたいで、「メメント・モリ」は「いつか死ぬことを忘れるな。死ぬことを思って生きろ」を意味する言葉です。
ざっくりとそういう題材の作品にしたいと思い、なんとなくの映画の構想やアイディアは考えましたが、あまり思い浮かばず…。
でも監督を誰にするかって考えた時に一番最初に思い浮かんだのが日下さんだったので、相談したいと思いました。
ー日下監督、オファーをもらった時のお気持ちはいかがでしたか。
日下玉巳監督(以下、日下):一番最初に連絡をいただいたのはインスタのDMで、そのあと喫茶店で会う約束をして実際にお話をしました。
冬由さんとは、以前私が監督をした短編映画『まあるくなあれ』(2022)の展示でお会いしただけだったので、「キラキラした女の子」という印象がありましたが、実際に会ってみるとTシャツ、ゆるいズボンにビーチサンダルで(笑)。
しかも映画の構想をノートの切れ端に書いて持ってきていて、その野生的な姿がイメージとのギャップですごく面白かったです。
冬由: 以前海外でバックパッカーをしていた経験もあり、確かに野生的ではあります(笑)。
日下さんが監督をした作品を見ていたので、逆に日下さんのアイディアをもらいたいと思っていました。
日下:冬由さんがバックパッカーをしていたと聞いて一気にイメージが変わって、面白い人だと思ったから今回一緒にやろうと決めました。
冬由さんが持っていた紙に「メメントモリ…自分がいずれ必ず死ぬことを忘れるな」と書いてあったことが印象深かったです。

ー日下監督は海外に行った経験はありましたか。
日下:今回の撮影で初めて海外に行きました。
今まであまり海外に対する興味も無かったですが、『冗談じゃないよ』(2024)を作ったときに海外でも評価されるような映画を作るべきだと感じて、海外への興味が高まっていたので、海外での撮影はすごく楽しそうだなと思いました。
ー撮影地はラオスのサワンナケート・ラハナム村でしたね。ラオスに決めた理由を教えてください。
冬由:ラオスを提案してくれたのはカメラマンの達富航平(たつとみこうへい)さんで、一緒にラオスにも行きました。
日下:航平さんもバックパッカーをやられていて、海外でドキュメンタリーを撮られていることは知っていました。撮影をお願いしたときに、航平さんから候補地としてラオスが挙がりました。
航平さん経由で、ラオスでお仕事をされていた方から話を話を聞くことができ、「ラオスに行って撮影したい」と思いました。
冬由さんとも最初に、観光地ではなく、そこにしかない暮らしや見たことない景色に興味があるという話をしていたんです。
冬由:きれいに整備された観光地よりも、マイナーっぽい場所が好きなんです。
そして実際に撮影をしたのはラオスの中のラハナム村。本当に原始的な村で、ここで撮影しようと決めました。
五感で感じたラオス・ラハナム村の文化と体当たりで挑んだ撮影裏話

ー日本とは全く違うところだったと思いますが、撮影で大変だったことはありますか。
冬由:逆に面白いことが多かったです(笑)。
事前に村の方に撮影をすることは伝えていましたが、ラオス部分のキャスティングやロケハンは行き当たりばったりでした。
ーまさに体当たりな感じですが、ラオスでの撮影スケジュールはどうでしたか。
日下:1日目は移動日で、2日目からはラハナム村の方たちと一緒にロケハンに行きました。
冬由:本当に日本の撮影では考えられないくらいの行き当たりばったりでしたが、そういう旅、大好きです!
ーラオスへ行ってみてどうでしたか。
日下:食事とか寝る場所に困ることは一切なかったです。でも一回、半熟卵みたいなものを食べちゃって…。
冬由:あれは青ざめたね(笑)。
日下:でも結局、全然大丈夫でした(笑)。
冬由さんのYoutubeでラオスへ行った際の動画が投稿されており、ラオスの風景や食べものを見ることができます。
ーラハナム村の方々の印象を教えてください。
日下:すごくのんびりした方たちでした。
自分たち的にはバーっと見て撮り始めたいという気持ちでしたが、何時間かに1回はコーヒータイムがあるんです(笑)。
冬由:日本の現場だったら、先を急ぐ空気感の現場もありますが、ラオスではそういう時でもコーヒータイムをちょこちょこ挟んできたりとか(笑)。
思い通りにいかないことがあっても、それが逆に面白くて。「郷に入っては郷に従え」とも言いますし、日常の中でまったりしていることが多かったです。
日下:でも「こういう場所に行きたい」って言うと、思い描いていたような場所にちゃんと連れて行ってくれるんです。あと、ラオスは意外と車のスピードが速くて(笑)。
ーすごくギャップがありますね(笑)。
日下:ラオスの空気を感じようと車の窓を開けていて、「それにしても風すごい な」と思ってメーターを見たら日本では信じられない速度で・・・(笑)。日常で まったりはするんだけど、車のスピードはすごく速かったです(笑)。
冬由:村の方々が主導で案内をしてくれて、いい意味で現地の人に振り回されながらの撮影で、映画の撮影というより旅という感じでした。
ーロケハン中のことですか。
冬由:そうです。2日目以降、日没や太陽に関係のあるシーンの撮影で急いでいるときもコーヒータイム(笑)。
日下:「3日目いよいよ撮影するぞ」と撮影現場に行くとコーヒータイムだったり(笑)。
冬由:でも的確に撮影スポットに連れて行ってくれるから、撮りたいものはちゃんと撮れました。

ーすごいですね。撮影中の印象深い出来事はありますか。
日下:予定していた日数より少し期間を延ばしましたが、私はどうしても1日早く帰らなきゃいけなくなってしまいました。でもその最後の日が一番大変だったそうで…。
冬由:最終日は撮るシーンも多かったです。でもその時も、ラハナム村の方々がたくさん協力してくれました。
「怒っている女性が必要なんだけど、怒れそうな人いる?」と言うと、「オッケー、ちょっと待って!」みたいな感じで探してくれて。「怒れそうな人いるよ!」って連れてきてくれました(笑)。
言語が違うから細かいニュアンスを伝えられず、難しい部分もあったかと思いますが、うまくお芝居をしてくれる方もいました。
その場で出会った人と一緒にお芝居をするというのも楽しかったですし、それすらも行き当たりばったりな旅のようでした。
ーラオスで撮影したシーンは映画全体でどれくらいの割合なのでしょうか。
日下:3~5割で、残りは日本で撮影しています。
ーラオスでの撮影期間はどのくらいでしたか。
冬由:ラオスに滞在したのは4泊5日くらいで、移動時間が長く、撮影日はそのうち2日間ほどでした。
二人三脚で演じあげた難役な主人公。映画のテーマは「消費」

ー今まで伺ったラオスの印象と、ポスターの暗い表情はあまり結びつかないのですが、改めてこの作品のあらすじを教えてください。
冬由:私が演じた主人公・野上夏生は高校生の頃に想いを寄せていた中村君に強く執着しています。
大人になって映像制作会社で働いているのも、高校時代に中村君がハンディカメラを回していたことに影響を受けたからなんです。
中村君の突然の死というきっかけがどうラオスと繋がるかは、実際に観てもらえたらと思います。
ー冬由さんの演じられた野上夏生はどんな人物でしたか。
冬由:“受け身”な印象があって、寝癖がついたまま仕事に行くような人です。
日下:私の前作『冗談じゃないよ』(2024)で登場した、情熱的でまっすぐな主人公とは真逆の主人公だと思います。
全てのことに受け身で、嫌なことがあっても強く抵抗したりもしない。「こうなっても仕方ない」と諦めがちで無気力な若者で、冬由さんの人間性とは少し離れた難しい役だったと思います。
冬由:ラオスでの撮影が先で、映画のストーリー展開と撮影の順番が逆だったこともあり難しかったですが、日下さんご自身も役者をやられているから、たくさん話し合ってくれて嬉しかったです。
ー全編通して印象に残っているシーンについて教えてください。
冬由:ラオスでのシーンの、特に広大な砂漠のようなところで撮影したシーンは印象的でした。
日下:そのときもラオスの方たちのマイペースさに飲まれて時間に追われていました。しかも、そこに行くには船しかなくて…。
水しぶきも上がっていて、転覆してもおかしくないような木の船でグラグラ揺れるんです。冬由さんは真顔でした。
冬由:“流石にこの川に転覆は勘弁して”と思って、真顔になってしまいました(笑)。
今となってはそういうことも含めて楽しかったです。
ークラウドファンディングの返礼品にはラオスのものがたくさんありますね。
冬由:ラオスの織物や藍染も、実際に村でひとつひとつ手作りされたものです。
行き当たりばったりの撮影ながらも染物体験をさせてもらい、伝統を体験するリアルな姿を映したシーンがあるのはこの映画の魅力です。
日下:今回の撮影は、行ってみないと分からない部分も多く、この映画の具体的なテーマもラオスに行って考えが深まりました。
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ー返礼品に選んだポイントはどこでしたか。
冬由:純粋に自分たちが良いなと感じたものを選びました。
ラオスの方々が生活の中で使っているものがいいと思っていて、日本でも使いやすいものが選ばれています。
日下:スカーフも、ソファーやベッドにかけて使うのもいいと思いますし、誰でも使いやすいです。
冬由:自分たちの目で見てきたラオスの手作り文化を日本で受け取ってもらえたら嬉しいです。
ーこの映画の具体的なテーマについて教えてください。
日下:現代社会に生きる中で「消費されている」と感じていた夏生が、ラオスでの生活に感化され自分も「消費する」ことの一端を担う立場にいたということに気づきます。
現代社会における人間関係や「消費する」ということをテーマにした作品です。
冬由:実際に染物体験をできたのは映画的にもよかったですね。
日下:夏生がラオスの伝統的な藍染でひとつひとつ染め上げるというシーンを撮ることができ、ストーリー的にも意味合いがあると思います。
映画『虚空』こだわりのワンシーン。冬由「全人類に届くテーマの映画」

ー日本パートのお話も伺いたいです。女性アイドルの方が登場するキャスティングに驚きました。
日下:私は実際にアイドルの現場の裏方を手伝った経験があり、その時に「アイドルすごい」と衝撃を受けました。
役者ってカメラが回っている時とそうではない時のオンとオフがあると思いますが、アイドルはずっとオンなんですよ。
裏方の経験から感じたことも映像に取り入れたいと思ってアイドルを役に入れました。
ー実際にアイドルの方を起用してみてどうでしたか。
日下:劇中に登場するアイドルグループ「みるくっぷる」のセンター・馬場杏奈役の水瀬紗彩耶さんはまさに圧倒的美少女でしたし、お芝居もよかったです。
まさに「今回のアイドル役はこういう人がいいな」と思っていたイメージにぴったりで、ちょっと難しいシーンでも一発で決めてくれました。
ー映画全体でいちおしのシーンはどこでしょうか。
日下:私はアイドルが大好きなので、アイドルのシーンが楽しみです。長い尺があるわけではないですが、登場する人も多く、どんどんカオスになっていく面白いシーンだと思います。
冬由:私はラオスの文化を体験しているシーンです。大量生産ではなく、ひとつずつ作っている人がいるという現実が分かりやすく映っているシーンになっているから、注目してほしいです。
ー主演・冬由さんの考える、この作品の見どころを語っていただきたいです。
冬由:今回は短い映画ですが、その短い中で何を感じるかは人それぞれです。しかし、全人類に届くテーマの映画だと思います。
実際にラオスでお芝居をしてみて、「今この文化を消費しているんだな」と感じましたし、ざっくりと「消費」と言っても色々な意味合い
があります。
現代では、当たり前のように物を買えますが、ラオスで手で織られている布を見た時に「こうして着ているTシャツも元々は糸だったんだ」とハッとさせられました。
当たり前のようにものを手にして生活していると、Tシャツはもともと糸だったとは考えずに生活しますし、売られている肉も元は生きていた動物だったという実感が持てないと思います。
当たり前の生活や現代社会の状況に少しでも思うところがある人には特に見てもらいたいです。

冬由(ふゆ)プロフィール
1996年生まれ、神奈川県出身。
2019年に日本テレビ『幸せ!ボンビーガール』でシェアハウス生活をする女優の卵として取り上げられデビュー。2019年に『ザ・ファブル 殺さない殺し屋』で映画初出演後、様々な作品に出演。
2021年には、写真家の福島裕二とコラボし、初の単独写真『つなぐ』を、恵比寿にて二週間に渡り開催。2024年には、舞台『彼女にあったら、よろしくと』に出演。映画『みーんな、宇宙人』でもメインキャラクターの声を務める。
●公式Instagram @fuyu.______
日下玉巳(くさかたまみ)プロフィール
1999年生まれ、神奈川県出身。
2005年に子役としてキャリアをスタートし、ドラマやCMなど多方面で活躍。
俳優としての経験を積みながら監督業も始め、2021年に初監督作『最悪は友達さ』が完成し、4つの映画祭で入選を果たす。
2023年には初の長編映画『冗談じゃないよ』を発表し、テアトル新宿での1週間限定公開が公表につき2週間に延長し話題となった。
●公式Instagram @i_tamago
以前ユーウォッチにて行なった2人のインタビューはこちらから
↓↓↓


撮影:天倉悠喜