「佐藤」という同じ苗字を持つ男女が、交際・結婚・出産を経て歩む15年間の軌跡をつづった映画『佐藤さんと佐藤さん』。
本作で、岸井ゆきのさんとW主演を務め、佐藤タモツを演じる宮沢氷魚(みやざわひお)さんにインタビュー。映画の魅力やプライベートについて伺いました。
映画は2025年11月28日(金)から全国公開されます。
映画『佐藤さんと佐藤さん』作品紹介
活発な佐藤サチ(岸井ゆきの)と、真面目な佐藤タモツ(宮沢氷魚)。大学で出会った正反対な性格のふたりはなぜか気が合い、同棲を始める。5年後、弁護士を目指しているタモツは司法試験に失敗。サチは独学を続けるタモツに寄り添い応援するため、自身も勉強をして司法試験に挑むことに。そして見事合格したのは・・・サチだった_。弁護士になったサチと、子育てと家事をしながら勉強し続けるタモツ。あの時のふたりは変わってないはずなのに。なんでだろう、段々と変わっていくのは_。
(※映画『佐藤さんと佐藤さん』公式サイトより引用)
2025年11月28日(金)全国公開
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溜め込みがちで言葉にするのが苦手なところに共感

ー今作で宮沢さんが演じた佐藤タモツは、真面目で自分の感情を溜め込みがちな人でしたが、ご自身との共通点はありましたか?
宮沢氷魚さん(以下、宮沢):僕もいろいろ溜め込んでしまうところがあって、素直に言葉にすればいいことも自分の中で押さえてしまいがちなので、タモツとは結構似ているなと思いました。
溜め込んだものが徐々に蓄積されて、自分のキャパが満タンになって苦しくなってしまうのですが、きっとそれもタモツの優しさで、周りの人たちを傷つけたくない、家族を優先したいという思いから、自分の言いたいことは後回しにして“今この瞬間”を守っていきたいということだと思うんです。それがうまく伝わらないというもどかしさや不器用さは、よく分かります。
ー宮沢さんご自身はいつも穏やかな印象がありますが、タモツのようにストレスが溜まって、時には爆発してしまうこともありますか?
宮沢:今はもうないですが、学生の頃、何年かに一回は「もう無理!わーっ‼!」ってなったこともありますよ(笑)。本当に些細なきっかけであふれ出てしまい、自分でも自分を止められなくなってしまうような瞬間も過去に経験があるので、その時のことを今回の役でも少し応用してみました。

ー爆発するくらいなら小出しにしていった方がお互いいいですよね。
宮沢:素直に言葉にできる人がうらやましいなと思うこともあります。きっとタモツも、もっと自分の思っていることを言いたいんですよ。でも、そのための適切な言葉を探している間に時が経って、言うタイミングを逃して「今さら何?」とか「その時に言ってよ」と言われるのも分かっているので、どんどん言えなくなってしまう。サチもタモツも言いたい気持ちをちゃんと言葉にできていない部分があって、その歪からコミュニケーションのすれ違いが起き、少しずつ2人の気持ちが離れていってしまったのかなと思います。
映画では描かれていない、2人の空白の時間も想像しながら

ーパートナーである佐藤サチを演じた岸井ゆきのさんとは、どのように2人の関係性を作り上げていかれたのでしょうか。
宮沢:クランクインする1週間ほど前にリハーサル期間があったので、そこで割と時間をかけて準備ができました。最初はテキストも使わずに、お互いどういう人物なのかを知るための雑談をしたり、ごはんを食べに行った帰りに岸井さんがコーヒーを買ってくれたりして。そんな風に、まずはキャラクター関係なく、お互いのことを知る時間を設けたところから始めたんです。
ーまずはお互いを知る時間を設けたのですね。
宮沢:その後、テキストを使ったエチュードや、何シーンかピックアップして実際に演じてみたりしながら徐々に作っていったのですが、そこで答えを見つけ出すことが目的ではなく、作品全体を通してのトーンや温度感をみんなで共有することが大切でした。
みんなの温度感にズレがあることが一番怖いので、初日からキャスト・スタッフ全員がこの作品の世界観を共有することができたことで、そんな時間を過ごすうちに、サチとタモツの関係性も自然と出来ていったと思います。

ー些細なことですれ違いやズレが生じていくサチとタモツの姿は共感度の高い内容でしたが、作中では取っ組み合いのシーンもありましたね。
宮沢:あのシーンだけは一応練習しました(笑)。僕と岸井さんの身長差もあるので、物理的にこれは可能なのかという点や「夫婦で殴り合うってどうなのかな?」ということも考慮しました。例えば、サチがタモツの胸を叩くのですが、女性の力ではどのくらいの加減で、タモツはそれをどこまで押し返すんだろうかと、みんなで何パターンも考えたんです。
ー激しめなケンカではありますが、何だか途中からおかしくなってきました(笑)
宮沢:2人は真剣に一生懸命ケンカしているんですけど、見ている側からすると「何やってんの?」と、ちょっと笑える描写にもしたかったんですよ。その後、ケンカを見かけた人に通報されて2人が警察に連れていかれるという恥ずかしい姿も見せるのですが、そういうギャップも出したいなと思っていました。

ーほかにも、トイレットペーパーがないことでケンカになるシーンでは、言い方ひとつで受け取る人の捉え方が違うんだなと思いましたが、2人が過ごした15年をどのように想像していましたか?
宮沢:今作はサチとタモツの15年を描いているのですが、映画の中で描かれている時間は実はすごく短くて、画面に映っていない2人の時間の方がはるかに長いんですよね。そこを岸井さんや天野(千尋)監督とも事前に話し合い、台本にはないシーンを天野さんが作ってくれたんです。
ー台本に書いてあることだけでなく、空白の部分があって、あのシーンになったということなんですね。
宮沢:結局そこを演じることはなかったけど、岸井さんと一度読み合わせをして「もしかしたら、こういう時間を過ごしていたのかもしれないね」と、空白の時間を埋めていく作業をしました。
映画の中だけの積み重ねであのケンカになっても少し薄っぺらくなってしまうので、僕たちの想像の中で、実はもっといろんな出来事が起きていたんだということを、頭の片隅に入れながら「もしかしたらこういうことがしたかったのかもしれない」という思いを、形にするつもりで作っていました。
お互いに違った役へのアプローチ

ー岸井さんの俳優としての印象はいかがでしたか?
宮沢:岸井さんとは今回初めてご一緒したのですが、僕の周りにいる知り合いたちからは「とても素敵な人だよ」と聞いていましたし、実際にお会いしたらとても温かくて、役と真摯に向き合う方でした。これは僕が見ていた印象ですが、例えば、演出や自分の芝居に納得がいっていない時はとことん監督とも話し合うし、ご自身が目指しているラインにたどり着くまで何度もテイクを重ねて、一切妥協しないんですよ。そういう姿を見ると、本当にプロフェッショナルな方だなと思いました。
その一方で、リラックスする時間も取っていて、ちょっとでも空き時間があると、ずっと読書に没頭している姿を見かけたこともありました。カメラが回っている時とそうじゃない時の切り替えやメリハリが上手だなという印象があります。
ー岸井さんとの共演で、印象的だったことを教えてください。
宮沢:ご本人も「自分はサチとは真逆」と仰っていたのですが、「何か違うな」と思ったら別のルートで芝居をしてみたり、「自分はこう思うけど、サチだったらどうするのか」と岸井さんもいろいろ挑戦して役に臨まれていたなと思います。

ー宮沢さんは役へのアプローチをどのようにされていったのですか?
宮沢:僕はどちらかというとタモツに共感できる部分が多く「自分だったらどうするんだろう」というところから考えて役作りをしていったので、きっと岸井さんとはアプローチ方法が全く違っていたから、そこは面白かったですね。それぞれのキャラクターへのアプローチが違うからこそ対照的にもなりましたし、演じる人によってこんなにアプローチ法が違うんだと思いました。
今回は僕も岸井さんもそういうスタイルだったけど、別のキャラクターや作品だったらまた違うと思うので、役作りの正解はなく、それぞれの適したやり方で挑戦していけばいいんだなということを、この作品を通して改めて感じました。

ー実は宮沢さんがいらっしゃるまで、ライターさんたちと映画の感想を言い合って盛り上がっていたんです。
宮沢:それは嬉しいですね。ある意味、それがこの映画の目標の一つでもありました。見た後に、みんなで感想を言い合える作品にしたかったんです。
はっきりとした正解がない作品なので、それぞれ思うことも違うでしょうし、改めて自分の家族や大切な人との関係性を考えた時に、この映画が新しい発見につながることや、自分が当たり前だと思っていることに一度疑問を持ってみて「こうしてみようかな」と思うことがあるかと思います。なので、そういう議論が生まれる作品だなと思っていますし、ぜひみなさんにも感想を言い合ってほしいです。
ー「結婚とは?誰かと⼀緒に⽣きることとは?」ということを考えさせられる作品でした。
ご自身では完成作を見て、どんな感想を持ちましたか?
宮沢:最後に2人は「お別れ」という選択をしていますが、僕はタモツを演じていても、実際に完成したものも見ても“悲しいお別れ”ではないなと思いました。2人の夫婦関係は終わってしまいましたが、その別れがあったからこそタモツは成長できたし、きっとサチもそこからまた成長していくと思うので、とても前向きに捉えられたんです。
ー「夫婦」ではなくなったけど、また別の新しい関係性ということでしょうか。
宮沢:そうですね。「フク」という2人の間に生まれた大事な命があって、家族であることはこれからも変わらないし、そこに対する愛情はどんどん増していくと思うので、すごく前向きな「さよなら」であり、きっとそれがいろいろな人に希望を与えてくれる作品だと思います。
景色を少し変えるだけでもいい気分転換に

ータモツは真面目で溜めこみやすい性格がゆえに、自分の中でのオンとオフの切り替えが下手だったのかなと思ったのですが、宮沢さんご自身はオンとオフのリセットはどのようにされていますか?
宮沢:僕もオンとオフの切り替えが下手なんですよ。例えばクランクインが迫ってくると、いつまでもそのことを考えてしまって。理想は1日のうち2時間くらい台本を読む時間に費やして、そこで出来る限りセリフを入れて、あとの時間は仕事のことを完全に忘れて違うことをやりたいんです。でも、ずっと頭のどこかで「やらなきゃ」とか「あそこはこのままで大丈夫かな?」みたいな不安に駆られてしまって。
ー結局1日中考えてしまう……。
宮沢:なので、強制的に切り替えないといけないなと思い、最近は銭湯に行ったり、野球や映画を観に行ったりと、何か別の刺激物を目の前に置くとそっちに集中することができるので、短時間でも、1回そこから意識を違うところに持っていくだけでも、気持ちの切り替えになるなと感じています。家にいるとずっと考えてしまいがちなので、ちょっと外に出て散歩をして景色を変えるだけで気分転換にもなるので、そういう心がけはするようにしています。

ー切り替え上手になろうと思っても、そういう性分なのでなかなか直らないですよね。ほかにはどんなリフレッシュ方法をしていますか?
宮沢:最近は、サンマを食べることですかね。僕はこれまであまりサンマを食べたことがなくて、昨年くらいまでは興味もそんなになかったんですけど、あるきっかけで食べたらすごく美味しくて! 旬の時期しか食べられないから、今は週に1回くらいのペースで食べています。
ー今年放送されたドラマ「しあわせは食べて寝て待て」も「食」の大切さを教えてくれる作品でした。
宮沢:そうですね。ただ、僕は性格的に食べるものをあまり気にしすぎてもストレスになってしまうので、ある程度食べたいものを食べながら、なるべく魚を食べるようにするなど、体に良いことをしたいなと思っています。サンマ以外だと、カジキマグロのソテーやアジフライも好きです。
ーほかにも、今年は大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」への出演や絵本翻訳など、多岐にわたってのご活躍ですが、今後やってみたいことはありますか?
宮沢:仕事以外のことだと、実は僕、趣味があまりないんですよ。たまに野球を見ることはありますが、もっと没頭できるものを見つけたいんです。仲のいい俳優の井之脇海くんは山登りが趣味で、オフの日は山に登っていろいろな景色を見るとすごくリフレッシュするって言っていました。
ー登山や釣り、料理など趣味が俳優としての仕事にいかされることは多そうですね。
宮沢:きっとそれが仕事にも生きてくると思うので、僕もそういう趣味が一つ欲しいなと思って探しているんですけど、なかなか見つからなくて(苦笑)。これまでいろいろなインタビューで「海外作品に挑戦したい」と言ってきましたし、もちろんその思いもあるのですが、そこへの近道って何だろうと考えた時に、自分の経験値や視野を広げることが大きな原動力やステップアップになると思うので、プライベートの趣味を何か見つけたいです。
ー宮沢さんが今後、どんな趣味を見つけてハマって、それがどんな風に生かされるのか楽しみにしています。
宮沢:僕も楽しみです。そのことについて、またいつかお話できるようにしておきますね。

宮沢氷魚(みやざわひお)プロフィール
1994年4月24日生まれ、米国・カリフォルニア州サンフランシスコ出身。
TBSドラマ「コウノドリ」第2シーズンにて俳優デビュー。その後、NTVドラマ「偽装不倫」、NHK連続テレビ小説「ちむどんどん」、NHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」、「しあわせは食べて寝て待て」、映画「his」、「エゴイスト」など話題作に出演。
公式サイト https://hio-miyazawa.com/
X @MiyazawaHio
Instagram @miyazawahio
取材・文/根津香菜子