元サッカー日本代表からヘルスケア会社CEOへ。鈴木啓太が貫く“体技心”

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元日本代表のサッカー選手で、現在は腸ケア商品を開発・販売するAuB(オーブ)株式会社の代表取締役を務める鈴木啓太さん。

アスリートのセカンドキャリアについてや大切にしている考え方など、たくさんお話を伺いました。

『AuB株式会社』

サッカー元日本代表の鈴木啓太が創業した世界的に注目される健康領域のライフサイエンススタートアップ企業です。

腸内細菌がヒトの健康の様々な機能を司っていることが近年の研究で明らかとなり、“腸内環境”や“健康”に世界的な注目が集まる中で、当社が取り組むライフサイエンス領域は大きく注目されるようになりました。

そんな中、私たちはアスリート特有の腸内環境が、ヒトの腸内環境の理想的な姿であることを発見しました。私たちは、ここから生み出された成果が、世の中の人々の健康・コンディションを支えるものと信じ、活動しています。

(※『AuB株式会社』公式サイトより引用)

●Facebook AuB_オーブ

●Instagram @aubinc_official

ひとりで悩んでいても何も解決しない。行動することが大切

ー元日本代表プロサッカー選手でありながら、会社を設立した鈴木さん。なぜこの道を選んだのでしょうか?

鈴木啓太さん(以下、鈴木):当時、「今やるべきことはなんだろう」と考えた結果、それが会社という形になりました。

実は、会社を設立したことに明確な理由はなくて(笑)。人生の中で様々なサインがあり、点と点が繋がって、今やるべきだと思いました。何かを始める際には直感を大切にしています。

ー違う道に進むことに不安はありませんでしたか?

鈴木:自分の人生の目的はチャレンジすることや楽しむこと。不安を理由に諦めるのではなく、一度きりの人生だからこそ挑戦したかったんです。

何事でもそうなんですが、中途半端に知識があると不安が勝ってしまう。そうなると踏み出せないんですよね。例えばサッカー選手になれるのって何万分の1の確率。だから確率で考えると難しいし、“できないかも”と諦めてしまうんです。

起業する際も「起業はものすごく大変だよ」と色々な方に言われました。でもそれもやってみないとわからない。

ー大変なことはどう乗り越えていますか?

鈴木:やっぱり行動することが大事だと思います。頭の中で考えていても時間が無駄だし、結局何も解決しない。

うまくいかずにひとりで悩んでいたときは“ああでもない、こうでもない”って頭の中にいる時間がすごく長かったんです。

いろんな人の話を聞く中で「ひとりで悩んでいても解決しない。その分行動量を増やせるじゃないか」と気づきました。

(会社を経営していると)次から次に色んな問題が出てくるので、討論しながら淡々と処理するルーティーンの繰り返しですね。

ーそのマインドはどのように培ったのでしょうか?

鈴木:選手時代に身につけた部分もありますし、今のフィールドの中で学んできたこともある。経験が集約されているのかなと思います。

ただ、人って環境が変わると急に俯瞰的に見れなくなるんですよね。

例えばサッカーの時に経験していたことを、違うフィールドになった瞬間に全く違うものとして捉えてしまう。本当はちょっと言葉を変換するだけ、シチュエーションを変えるだけなんですけど、異なる枠の中に入ると急に見えなくなってしまうんです。

そういう時に大事なのは「目的」を考えることでした。すごくシンプルに何のためにやっているのかを考えて、行動と照らし合わせていくとおのずと答えは出てくるんです。

モットーは“体技心”。健康な体で経験を増やし、技術を向上させることが自信に繋がる

ー仕事の上で心がけていることや大切にしていることを教えてください。

鈴木:“体技心”です。一般的には「心技体」※と言いますが、僕は「体→技→心」。

体を作ることで技術が磨かれて、それによって心がコントロールできるようになると考えているんです。

※“心技体”=精神力、技術、体力の3要素をバランス良く整えることの重要性を示す教訓

やっぱり一番大事なのはハードワークできる健康な体。健康でいるとたくさんの経験を積み重ねることができて技術が向上し、自信が湧いてくる。それが心の安定につながるんです。

アスリートがまさにそうなんですよ。やっぱり体がいい状態だと、いいトレーニングができて競技の技術がちょっと上がる。技術が上がってくると自信がついてメンタルも上がる。

これはアスリートにしろ経営者にしろ職人にしろ、どんな職業でも一緒だと思っていて。結局アスリートのときにやっていたことも、今やらなければならないことも一緒なんです。

ー健康な体を作ることが経験値と技術の向上、自信につながるんですね。

鈴木:そうなんです。ただ人間は一切休まずにトレーニングや厳しいことを続けることは不可能なので、休むことも重要。

僕自身もすごく頑張っていたときに体調を崩してしまった経験があって。頑張りたい気持ちはあるのに体がついてこなかった。いくらメンタルを整えても体が健康でないと何もできないんです。

だからこそ経験を教訓に“休むことも仕事”と考えるようになりました。

アスリートや経営者はエキセントリックな方も多いので特にそうですが、調子がいいと“まだできる!!”と無理をしてしまいがち。そんなときこそセーブしながらうまく休むことが大切だと思っています。

アスリートのセカンドキャリアについて。外野の声に従うより、自分に素直に

ー次に、スポーツ選手のセカンドキャリアについて。“選手のセカンドキャリアの受け皿になりたい”と他のインタビューでおっしゃっていましたね。

鈴木:これは決して選手たちを自分の会社に雇って職を与えたいということではなく(笑)。

僕が元アスリートの経営者として会社を大きくすることで、現役の選手たちに“スポーツ選手の経験を活かすこんな道もあるんだ”という選択肢の一つを示せればいいなと。

よく「アスリートはセカンドキャリアの選択肢がない、転職が難しい」と言われますが、そんなことないと思うんです。何でもやってみたらいい。

ただ、そのための準備はしっかりとすべきです。僕自身よく言われていたことですが「現役のときは現役(の競技)に集中しろ」という外野の声もあります。でも、そう言ってくる人たちが人生の責任を取ってくれるわけではない。

ー確かにそうですよね。

鈴木:ちょうど昨日、知り合いのアスリートとも話していたんですが「他人の意見を気にするより、自分のやりたいことをやるべきだ」と。

これは会社の中でも同じです。もちろん会社なので協調性を持つこともすごく大事だとは思うんですが(笑)。他の人に色々言われることもあるけれど、だからといって自分の意見を押し殺して働くのは違う。

それってすごく素直な意見だし本質だと思います。セカンドキャリアについても、他人と会話するより“自分がどうなりたいのか”自分との対話を増やしてみると答えが見えてくるんじゃないかと思います。

AuBという船の大切な仲間たち。自分の意思決定ひとつで航路も士気も変わることの責任

ー代表として会社をまとめている鈴木さん。大変なこともあるかと思います。

鈴木:やっぱり仲間の存在はものすごく大切です。

AuBという船をいい景色のところに連れていきたいという思いが強くありますし、一緒に船に乗ってくれる人に対しても良い景色を見せたい。

きれいごとだけでなく厳しい意思決定をしなければならない場面もある中で、それでも船に乗り続けてくれる人たちを嵐が来ても守り抜きたいと思っています。

会社を立ち上げた当初、代表という肩書きに強いこだわりはありませんでしたが、責任ある立場である以上やはり自分が“船長”。僕の行動ひとつで社内の士気も航路も変わってきます。

僕はサッカー選手としてはチーム内のバランスを取るタイプでしたが、社長であるからには“フォワード”にも“ディフェンス”にもなって色々なことを決定しなければいけない。そういった部分は本当に学びの連続だと感じます。

ー会社として今後どうなっていきたいですか?

鈴木:会社のミッションは「すべての人を、ベストコンディションに。」、ビジョンは「人と、社会を、コンディショニングする。」こと。心も体も、人だけでなく社会全体のコンディショニングをしていきたいと思っています。

僕たちは腸を整えることがコンディショニングの土台だと考えているので、今は腸にフォーカスした商品が多いです。ただそれ以外にもコンディションを良くするためのプロダクトはあるので、幅を広げていきたいです。

もう一つは、健康の可視化。皆さんが健康を判断するとき、体重計に乗ったり血液検査をしたり、いろいろなチェックポイントがありますよね。チェックポイントが可視化されることによって行動変容が起きるかもしれないと考えているんです。

そういったテクノロジーを我々の研究所でも開発しているので、世の中に広げて貢献していきたいと考えています。

今この瞬間を100%で生き続ける。リフレッシュは朝のトレーニング

ー現役時代について。一番思い出に残っている試合を教えてください。

鈴木:一番思い出に残っているのは、2011年のJ1残留を決めた試合です。

優勝した時やアジアチャンピオンになった時ももちろんうれしかったですが、調子が落ちて苦しい状況を乗り越えた経験の方が強く印象に残っています。

ー続けてYouTubeについて。始めた理由や目的を教えてください。

鈴木啓太 / Keita Suzuki
サッカーからビジネス、そしてコンディショニングまで私自身も学びながら、動画を作っていきたいと思います! 是非チャンネル登録よろしくお願いします。◆鈴木啓太(サッカー日本代表/経営者)Twitter:◆鈴木啓太が代表を務めるAuBの商品に興味...

鈴木:YouTubeを始めた目的は2つあって、ひとつはサッカーを深く掘り下げること、もうひとつはAuBの取り組みを広げることです。

まず、元サッカー選手である以上自分に求められるコンテンツはサッカーだろうなと。そして僕自身も対談を通じて色々な選手から人生観や生き方を学びたいという想いがありました。

元日本代表の岡野 雅行(おかの まさゆき)さんや中村 憲剛(なかむら けんご)のように、選手によって考え方も辿ってきた道も違うし色々な人生がある。いろんな道があっていいんだと思いますしそこが面白いですよね。

そしてもう一つの目的がAuBの取り組みである、「腸が大事」「コンディショニングが大事」という考え方を世の中に伝える手段にすることです。

これもサッカーに関連するんですが、対談で「海外遠征の際に、何らかの原因で体調を崩し、ベストコンディションで試合に臨めなかった」と話してくれた方がいました。これって“健康な体でいないと仕事でもフルポテンシャルを出せない”と通じる部分があるなと。

ただ、対談で話を聞くだけでは意味がないので、やはり実践していくことが大事です。

ー忙しい中でのリフレッシュ法を教えてください。

鈴木:リフレッシュは朝のトレーニングでしょうか。

僕は朝起きたら何も考えずにジムに行きます。ときどき“今日きついな”って良くない思考に向かいそうなことももちろんあるんですが、その前に動く(笑)。とにかく先に行動することを大切にしています。

あとは寝ることですね。睡眠時間は絶対にしっかりとらなきゃいけないと思っていて、一番目指したいのは10時半に寝て5時に起きるルーティンです。

ー早寝早起きが大事なんですね。

鈴木:僕は最近会食なども控えていて、11時半には必ずベッドに入るようにしています。

ただ、人生には色々な時期があります。何を選択すればいいかわからないときはたくさんの人と会ったり、取れる手段を片っ端からやるべき。

“これが一番合っていそうだな”と絞られたら他の手段は辞めて、生活もすごくシンプルになると思うんです。

ー今後の目標を教えてください。

鈴木:まだ経験できないこともたくさんあると思うんですけど、この人生でいろんな経験をしたいです。もっと面白いことを見つけていきたいな。

とにかくいろんな経験をして、最後に最高だったって思いたい。それでも足りなかったら次の人生ですね(笑)。

これをやればよかったって後悔するのは嫌なので、自分がやりたいと思ったことは全部やりたいです。

ただ未来にフォーカスしすぎてもいけないので、今を100%ベストアップ(最高の状態)で生きる。

今この瞬間を100%で生き続けることを大切にしたいです。

鈴木啓太(すずき けいた)プロフィール

1981年7月8日生まれ、静岡県出身。元プロサッカー選手で実業家。元日本代表。現役時代のポジションはミッドフィールダー(MF)。2000年の入団以来、浦和レッズ一筋でプレーした。2015年10月にアスリートの腸内細菌データをベースにヘルスケア・フードテック事業を展開するAuB(オーブ)株式会社を設立。

●Instagram @keita.suzuki.official

●X @keita13suzuki

●YouTube @keitasuzuki3213

 撮影:髙橋耀太